雪国模様 1
季節は冬、学校は3学期に入る。
朝、通学路には至るところに霜柱ができていて、子供達はわざわざそれを踏みつけに行く。
市内を流れる川から寒々しい川霧が上がる。上がった霧はゆったりと立ちこめていて、ちょっとした水墨画のように見える。
そんな寒い日でも、学校は通常どうりに執り行われる。私は勉学にいそしんでいた。
なぜなら子供達は分らない事があると私に聞きに来るからだ、どのような質問がくるか、一瞬たりとて油断はできない。
そんなありふれた日常がしばらく続いたある日の事。
この地方にしては珍しく雪が積り、校舎から見える町並みは白一色で統一されてしまう。
今は理科の授業中だが、子供達は珍しい雪に落ち着かず、チラチラと外を見ていた。
あまり身に入っていない授業が終り、次の授業の体育へと移る。
ジャージに着替えようとした時だ、体育担当の楠田先生がやってきた。
大きな声で子供達に質問をする。
「みなさん、つぎの体育の授業は体育館でやりますか、それとも校庭で遊びますか?」
子供達の答えは、決まっていた。
「校庭」「外で遊びたい」「外に行こう」
まあ、そうなるだろう。私は寒がりなので体育館の方が良いのだが……
「では、暖かい格好をして校庭に集合してください」
楠田先生はそう言い残すと準備の為、教室を出て行った。
言われた通りにできるだけ厚着をして、外に出る。
校庭に踏み込んでみると、雪はくるぶしから拳一つ分くらい上まで積もっており、子供達は早く遊びたくてウズウズしている。私と違って寒さなどものともしていない。
やがて楠田先生がやってきて、授業を開始する。
準備運動が終り、なにか競技のような物をやるのかと思っていたが、
「自由に外で遊んで下さい」
と子供達を校庭に解き放った。
運動というものはとにかく疲れる。とくに体作りの基盤となる運動は単純で辛いものだ。
そこでボール遊びなど少しでもたのしい物を導入して、なんとか体を動かしてもらう。
こういった運動をさせるための工夫はさぞや大変な事だろう。なにせ子供達は飽きやすい。
小学生ではドッチボール、中学生ではバスケット、高校生ではサッカーなど手を替え品を替え、子供達のご機嫌を伺う。
だが、今日のこの環境下においてその必要はまったく要らなかった。
さっそく子供達は四方八方へと走って行く。子供は風の子とも比喩されるが、よくできた表現だと思う。
ある子供は新雪を踏みならしながら歩き。
ある子供は雪だるまを作り始める。
ある子供は雪を掛けあう。
それぞれの方法で楽しみ始めた。
一方、年寄りは寒さに弱い。寒さというものは手足から伝わってくる。
あんな冷たい物を素手で掴むとは、いったい何を考えているのだろう。
しばらく遊んでいると、どこからともなく「雪合戦をしようぜ」という声が上がる。
それを聞いた子供はおのおの雪玉を作り、目に付いた者に向かって投げ始めた。
私という人間はココでは特異な存在で、とても目立つ。
つまりは徹底的に狙われた。