音楽の授業 2
今日は美和子先生に音楽の授業でピアノの演奏をする事を約束してしまった。
一日の授業が終り自宅へとたどり着く。今日はある探し物をしなければならない。
わが家には電子キーボードがあったはずが、最後に触ってから20年以上立っているので、もう捨てられてしまっているかもしれない。しかし、もし残っているのなら引っ張り出して練習をしようという算段だ。
どこにあるのか? 既に私の記憶には無いので、母親に聞いてみる。
「母さん、昔うちにあった電子キーボードしらない? ピアノみたいなヤツだけど」
「たしか押し入れの上の方にしまってあるわよ」
そういって部屋の一角にある、押し入れの上の引き戸を指さす。
椅子を持ち出してのぞいてみると、確かに奥の方にあるので、それを引っ張り出してきた。
電源をいれて、試しに引いてみるといくつかの鍵盤は堅くはなっているものの音はちゃんと鳴り、機能的にはなんら問題はなかった。
「どういう風の吹き回しかしら?」
母親が疑問に思ったらしく、私に聞いてくる。
たしかに。突然に音楽のキーボードを引っ張り出してくるという行動は、意味の分からない不審な行動だろう。簡潔に説明をする。
「いや、小学校の先生がピアノで苦戦しているようなので、代わりに弾いてあげようかと思ってね」
「あら、そうなの」
ここでふと疑問がよぎった。すでに私の記憶にはないが、母親ならなにか覚えているかもしれない。
「母さん、俺がピアノを弾き始めたきっかけは何か覚えている?」
「あら、あなたが言い出したのだけど」
「俺が? なんでそんな事を言い出したんだろう?」
まったく記憶にはなかった、なぜなら音楽に興味があるような生活を送ってはいなかったからだ。
現に今もあまり音楽に興味があるとは言えない。
「覚えていないの? 私にはちゃんとした目的があったように見えたけど」
「いや、まったく覚えてないよ」
「そう、となりのクラスのようこちゃんって覚えてる」
「名前くらいは覚えているけど……」
その名前は記憶にあった。なぜなら当時は気になっていた女の子だったからだ。しかしその子は隣のクラスで何度かクラス替えをしたのだが、結局は同じクラスにならずにまともに会話もせぬまま学生生活は終わってしまった。今考えてみればあれが初恋だったのかもしれない。
母親は話しを続ける。
「それで、その子も同じ音楽教室だったのね。
私が見ている限りだと、どうやら目的はそっちにあったみたい」
「えっ、そんなことないと思うけど……」
苦笑いでごまかすのが精一杯だった。記憶は定かではないが、おそらく図星である。
しかしそんな理由でピアノを始めるとは、なりやら恥ずかしくなってきた。照れくさいので話題を無理矢理切り替える。
「そういえば、あの音楽教室はまだあるかな?」
「看板はあるから、まだやっているかもね」
「じゃあ今度、のぞいてみるよ」
「そういえば、教育再生法の制度の中に習い事の手当が出るとかなかったかしら?」
「そうだったっけ、確認してみるよ」
あとで教育再生法の手引き書を確認したところ、『習い事手当』という項目があり、審査が通ればお金が出るようだ。
また、『習い事をする時には必ず報告すること』ともあり、桐原さんに問い合わせをする必要が出てきた。
仕方なく連絡を取ることになる。あの人が関わると事態がややこしくなりそうだがどうなる事やら……




