図画工作の時間 2
晴天の空の元、のんびりと写生をしている。
今は図画工作の授業中で、なにか外の風景を描いて提出しなければならない。
これといったテーマは特に決まっていないので私たちは校舎を描く事にした。
私は建築業界に居たので、建物の絵は描き慣れていた。
もっとも絵というよりは図に近く、守るべき作法が数多く存在する。
その例として、正面と側面の割合は7対3が良いとか、空は3分の1程度をしめているほうが見栄えが良いとか。
他にも色々とあるのだが、これらのルールを守ればそこそこの絵が出来上がる。
ただしルールを厳密に守れば守るほど、同じように似ている絵が出来上がってしまうという問題点もある。
私はあらかた下絵を描くと、ほかの子供達の絵が気になり覗き込んでみた。
せいりゅうくんの絵をのぞいてみる。
するとそこには、画用紙めいいっぱいに校舎が描かれていた。余白などというものはほぼ存在しなかった。
ようたくんの絵をのぞいてみる。
画用紙の下半分以上が地面をしめていて、上のほうに申し訳なさそうに校舎がちょこんと描いてあった。
のりとくんの絵をのぞいてみる。
こちらはバランス感覚に優れ、空と校舎と地面の割合が程よく配置されている。
ただし、正面から側面にかけて問題があった。本来なら奥行きを出すために角度を付けなければいけないのだが、それがなく水平に一直線に結ばれていた。
結果として、極めて平面的で幼稚園でみられるようなベタッとした建物の絵が描かれている。
同じ場所から同じ視点で描いていれば、同じような絵になるという私の推理は大きくはずれていた。
絵を夢中に描いていると、時間はまたたく間にすぎていき、あっという間に授業は終了となった。
美和子先生がいったん画用紙を回収する。
「はい、それではいったん絵を集めますね、名前を忘れずに書いて下さい」
集めていくさなか、私の絵が子供達の目にとまったらしい。騒ぎ出した。
「すげーうまい絵がある」
「プロみたい」
「チラシの絵みたい」
美和子先生も気になったらしく、私に聞いてきた。
「なにかやって居られましたか?」
「建築業界に居たときは少々図形を描いておりました」
のりとくんが質問してきた。
「お金とか稼いでたの?」
「本業ではないですが、仕事の一環ですね。いちおうコレでお金をもらっていました」
せいりゅうくんが騒ぐ。
「すげー画伯だ、画伯」
画伯という、日常では使わない言葉をどこで仕入れてきたのだろう。
この後、ほんのしばらくの間は鈴萱画伯と呼ばれた。
なぜ『ほんのしばらくの間』かと言えば、この風景画の後の授業で『クラスメイトを描こう』という、人物画に挑戦する事となり、その絵は散々たる出来映えであった。
そしてその結果を受け、それ以降は画伯と呼ばれることは無くなった。
この図画工作の時間についてはもう少しだけ後日談がある。
それは写生をした翌日の昼休みに気がついた。




