残念ながら本日は快晴です 3
マラソン大会でびりっけつを走っていた私とようたくんであったが、とある交差点にさしかかった時に大問題が発生する。
それはこの辺りでは珍しい大きな松が二本ほど生えている交差点で、非常に覚えやすい特徴を備えていた。
マラソン大会は一年生と二年生が1.5km、三年生と四年生が2.5km、五年生と六年生が3kmとコースが別になっており、この交差点はそれらの分岐点となっていた。
分岐点には保護者の方が待機しており、真っ直ぐ通り抜けるように誘導してくれているのだが、その方向が間違っている。
私とようたくんはひとまず足を止めた。
保護者の方が少し心配して声を掛けてきた。
「あら、どうかしたの?」
「うちらは五年生なので、この交差点を左に進まなければなりません」
「あら、でもみんなは真っ直ぐいったわよ」
「そうですか、それはちょっと困りましたね」
本来は左へ曲がらないといけないのだが、みんなは真っ直ぐ進んだという。
まっすぐのコースは三年生と四年生の2.5kmのコースで、近道にはなるがそこを行ってしまってもよいのもやら。
それにもしかしたら私の覚え違いかもしれない。
私は失格になってしまっても構わないのだがようたくんはそうも行かないだろう。
少し考えた後、ここはようたくんの意思を尊重してみることとした。
「ようたくん、うちらは左のコースを行かなければならないんだけど、みんなは真っ直ぐ行ったらしい。
真っ直ぐのほうが近道なんだけど、どうする?」
「左へ行こう」
即答で結論が返ってきた。
「おじさんの覚え違いかもしれないよ?」
「おじさんを信じるよ」
これまた即答で返事が返ってきた。うれしい限りだがこれは責任重大だ。もし私が間違っていたら信用失墜は免れないだろう。躊躇していたら後ろから声をかけられた。
「どうかしましたか?」
体育担当の楠田先生が後ろからやってきた。
おそらく生徒達が取り残されていないかチェックする為に走ってきたのだろう。
「いや、ちょっと困った事になりましてね、ほかのみんなはどうやらココを真っ直ぐ進んでしまったようなのです」
「それは間違ったコースですね、困ったなどうしよう」
悩んでいる楠田先生には悪いが、私は記憶が正しかったことに安堵を覚えた。
「これからどうしますか? 私たちは正規のコースを行こうと考えていますが、どうでしょう」
「そうですねそれがいいです、僕の方は困ったな、最終チェックを兼ねているのでどうしたものか……」
「それなら、このまま真っ直ぐ走ってはいかかでしょう、私はようたくんと共に走ります。
もし何かあったら携帯の方に連絡を差し上げます」
「そうしてもらうと助かります。ではそれでお願いします」
そう言うと、お互いに携帯の番号を交換しあってからそれぞれのコースを走り出した。
走って行く先でもちょっとした問題が起きる。
コースで声援を送ろうと待ち構えた保護者の方が、ところどころに待ち構えていた。
我が子を応援しようと待ち構えていたようだが、いつまで経っても走ってこない。
そのままでは申し訳ないので、私とようたくんはいちいち足をとめ。
「私たちが五年と六年の部で最後のランナーです。
どうやら他の方々は間違ったコースをいってしまったようです」
と、いちいち説明をする。
どうやら全員まちがえて誰も来ていないらしく、私たちが最初で最後のランナーだと分ると、それはそれは大げさな声援をしてくれた。
そんなこんなでようやっとマラソン大会のゴールに着いたときは、ダントツの最下位であった。
私はゴール手前でようたくんに順位をゆずったので、ようたくんはかろうじてビリという汚名は免れる事となる。
私は最後のゴールテープを切る。こんな3km程の短いマラソン大会だったが、それなりに充足感がわいてきた。
ひとまず私とようたくんは、クラスのみんなが待機している場所へと歩いて行く。
「遅いぞ」「でも、がんばったな」「えらいぞ」
周りの子供達は息の上がっているようたくんに励ましの声を掛ける。
走り終わった子供達はみんなスッキリとした表情をしていて、どこか成し遂げたような満足感も感じられる。
辺りは達成感と一体感に満ち溢れているようだが、しかしこうなるとコースのミスの件は言いづらい。
楠田先生はこの件をどうするのだろうか? 職員が集まっているテントを見ると、なにやら真剣に話し合っていた。
程なくして、校長先生がでてきた。順位発表をするらしい。
学年ごとの10位から1位までの上位入賞者が発表される。
1年生から順に読み上げられていき、私たちの学年となった。
校長先生はそれまではニコニコと満面の笑みで読み上げていたが、急に険しい顔になり、
「五年生、六年生のコースで間違いがありました。二本松の交差点を真っ直ぐ走ったものは失格です」
すると
「えー」「まじかよ」「ありえない」
という声と共に罵声が飛ぶ。
罵声の中、校長先生は発表を続ける。
「という訳で、五年生の1位はようたくん、2位は鈴萱くんとなります。
また六年生は全員失格となります」
そう発表されると、罵声はひときわ大きくなった。
これらの罵声は我々二人に向けられてのではなく、自分たちが苦労して走ったのにも関わらす、まったく評価されていない不満に基づくものだ。
その証拠にときどき聞こえるヤジは、マラソン大会を運営した先生方に対しての文句であり、我々に対しての批判は一切聞こえなかった。
すると校長先生はひときわ低い声で、
「わかりました、文句があるようですね。では今から走り直しましょう」
というと、ピタリと罵声がやんだ。
ここは年の功と言おうか、子供達の扱い方を心得ていると言おうか。
なんにせよ校長先生の方が一枚上手である。
こうして波乱のマラソン大会が終了する。
しかし、よもやこんな信じがたい事が現実で起こるとは思いもよらなかった。
その日は、『マラソン大会 5年生の部 学年2位』と書かれた小さな表彰盾と共に実家へと帰宅をする。
もしかしたら、こういう特別な賞をもらうのは生まれて始めての事かもしれない。
この話、とある実話を元に書いてます。
実話の方は『263人が参加。誘導ミスによって262人失格、1人だけ完走』と、嘘のような本当の話になっております。




