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少年(?)野球 2

 河原のグラウンドで少年野球の練習試合が始まる。

 私は年齢的に参加するには問題がありそうだ。

 監督と話し合って出場を見送ろうと決めた矢先に、グラウンドには場違いの黒塗りのハイヤーがやってくる。

 その車から出てきた女性は、文部科学省の再教育課に所属する桐原(きりはら)さんだった。



 桐原さんは相変わらず黒いリクルートスーツのような堅苦しい格好をしていて、この河原のグラウンドには似つかわしくない。

 彼女は私を見つけると真っ直ぐとこちらへ向かってきて、質問を投げかける。


「おはようございます、まだ野球の試合は始まっていませんね?」


「おはようございます、まだですね」


「どうやら間に合ったようですね」


 やはり無理という結論が出て、おそらく強制的に止めにきたのだろう。

 それにしても慌てていたらしく、手には鞄ではなく紙袋をさげていた。


 監督が不思議がって私に聞いてくる。

「この方はどなたです?」


「この人は文部科学省の再教育課というところの桐原さんです、私の担当をしてくれています」


 監督はなんで省庁の人間がここに来たのか、いまいち分らないようだ。

「ほう、その文科省の方が何か用ですか?」


「本日はリトルリーグの件でうかがいました」


「私が先日送ったメールの件ですかね?」


「そうです、この件に関して文部科学省の公式見解をお伝えしますね」



 桐原さんは話を続ける。


「さて、リトルリーグの件ですが教育委員会の方へ確認したところ、年齢制限がないのであなたは問題無く試合にでられます」


 私が即座に反論する。


「いやいや、さすがに子供相手だと問題があるでしょう」


「いえ、ルール上まったく問題はありません。練習試合ばかりではなく、公式試合に出る事もできます」


「……そうですか、でも仮に私が公式試合に出たとしたら、相手チームの親御(おやご)さんから

『なんだあいつは、あんな事がゆるされるのか』とか、クレームが入りませんかね?」


 すこしずるい言い方だが、ここまで強く言わないとこの人には伝わらないだろう。

 桐原さんの表情がすこし曇る。


「そのようなこともあるかもしれませんね、わかりました。

公式試合については後日、相談の(むね)、結果をお伝えします」


「了解です」


「しかし先ほども申し上げましたが、練習試合に出場する事はなんら問題はありません」


 私は思わぬ結果に困惑をする。

「……監督、どうしますか?」


「じゃあ、うちのチームが打たれまくって、どうしようも無さそうな時には投げてもらえるかな?」


 さすが年長者だ、落としどころを知っている。

 私が初めから私が投げつづけて完封でもすれば大問題だが、そういう事なら大丈夫そうだ。

 私もその意見に同意をしめす。


「まあ、それなら問題が起きなさそうですね」


 話しがまとまりそうになった。すると桐原さんが

「いえ、最初から最後まで投げてもらっても構いませんよ」

 と主張する。


 監督は、ややあきれた顔をして、

「……子供達の自主性を高めるということもあるんで、ここはひとつ任せてください」

 と穏便に説得をすると。


「そういう事ならば仕方ありませんね、お任せします」

 ようやっと身を引いた。



 話がまとまったと思ったのだが、桐原さんが手招きで私を呼び寄せる。

 まだ何か厄介事(やっかいごと)があるというのだろうか……


「まだ何か話しがあるのでしょうか?」


「ところであなたは、証明書もっていますか?」


「小学生の証明書ですか? すいません家に置いてきてしまいました」


「それがないと練習試合にはでられません。次からはこういったイベントに参加する際には肌身離さず持っていてください」


「わかりました以後気をつけます。それでは監督に一声かけて取りにいってきますね」


 立ち去ろうとすると、呼び止められる。


「そのほかにも、ひとつ問題があります」


 桐原さんが不適な笑みを浮かべる。まだ何かあるというのだろうか。


「なんでしょう」


「その格好で試合にでられるおつもりですか?」


 私の姿はジャージとスニーカーであった。たしかに不細工な格好ではあるが、他にに運動に適した洋服がない。


「他に良い服がないもので……」


「そう思ったので、経費でこちらで用意しておきました」


 そういって桐原さんが手に持っていた紙袋を渡してきた。

 中をのぞいてみると、そこにはまっさらなユニフォームがあり、ご丁寧にチームのロゴまで入っていた。


鈴萱(すずがや)さんの服のサイズは当局で把握しているので、その点はご安心ください」


 どの点を安心すればよいのだろう? すくなくとも個人情報保護もへったくれもない。


「では、ありがたく使わせていただきます」


 いろいろと言いたいことはあったが、すべて抑えてお礼を述べた。

 このユニフォームはありがたく使わせてもらうことにしよう。

 しかし、この再教育課というのは、余計な事に対しては手回しが良い気がする。



 小学生の証明書を取りに帰るため、ついでに着替えをするために、いったん家に帰ることにした。

 かかる時間は往復30分くらいだろうか。


 私は監督に一声かけてグラウンドを後にした。

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