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国語の授業

 生徒達が席につき、国語の授業が始まる。


 授業の大まかな流れは、前半は生徒達が音読をして、作品を丁寧に読み解き。

 後半は作品の感想や意見交換をして、理解を深めるという構成らしい。


 今日の授業のテーマにされていた作品は、誰もが知っている作品。

 大宰治虫(たさいおさむし)の『(かけ)れメロウス』という作品だ。



 あらすじを少しだけ解説すると。


 なにかの罪で死刑を求刑されたメロウスが、友人を人質においてどこかへなにかの用事をしに出かける。

 そのまま逃げればいいものを、友人の為にわざわざ処刑される為に走って戻ってくる。

 というやつだ。


 ちなみにその後メロウスがどうなったのかは覚えていない。なんの罪で死刑になったのかも覚えていない。

 とにかく約束をまもり、死刑される為に走っているシーンが印象的な作品だ。



 まずは生徒達の音読が始まる。

 ところどころはたどたどしいが、文章を読み上げるだけなので音読は問題なく進んでいく。


 この話は教科書の中ではおもしろい部類に入るので、真面目に聞いている生徒が多い。

 なかには感動していて、すこし震えを抑えているような子もいた。


 音読がひととおり終わると、生徒の意見のディスカッションが開催される。作品に対しての感想が交わされた。


「メロウスはまじめでえらい」

「走ってくるのは大変だけど、がんばってすごい」


 といった率直でまじめな意見もあれば。


「俺だったら、すっぽかす」

「死刑に戻ってくるなんて馬鹿じゃねーの」


 と、すこしひねた意見もあったが、いずれも作品に対して純粋に没入(ぼつにゅう)した意見が交わされていた。


 一方、大人の私は純粋には受け止められなかった。



 すこし前にインターネットでこんな記事を見てしまったからである。


(かけ)れメロウスのメロウスは、まったく走っていなかった』


 記事の内容は、作中にでてくるモデルとなった場所から距離を算出して時間で割ると、『なんとほぼ歩いていた』という考察の記事である。

 この記事のおかげで私のイメージするメロウスは、風のように駆る好青年から、ただゆったりとだらだら歩いているメタボ体型の中年男性に成り代わってしまった。

 焼き付いてしまったイメージは、なかなか払拭(ふっしょく)できない。この話の授業を受けると分っていたなら、こんな記事など読まなければよかった。


 しかし物語の根幹(こんかん)の設定として、そもそも友人を身代わりに置けばOKなどというルールが存在するのだろうか?

 そんな法律は存在してはいけないだろう。そんな事で許されるのならば、犯罪者にとっては天国のような国になってしまう。

 裁かれるべき人間ではなく、その友人であればそれでも構わないなんて事があってはならない。

 裁判官や警察に当たる役人は何をやっているというのだろう。司法として機能していない、大丈夫であろうかそんな国は。



 私が作品にのめり込めない要因はそれだけではない。

 教室での意見交換が一通り出尽くしてテーマが変わる。

『作者はどんな人で、どんな事を伝えたかったのか』

 というテーマに変わった。これはいけない。


 子供たちは

「真面目な人だったと思います」

「どんな約束でも守るべきだと伝えたかった」

「どんなときでも変わらない友情を描きたかった」

 などという、まっとうな意見が上がってきている。

 しかし私はまったく共感できやしなかった。


 その原因は、大宰治虫(たさいおさむし)という作者そのものにある。

 私はこの作者に対しての逸話をいくつか知っている。


 その内容は、高校生ながら金を借りて芸者遊び。

 結婚してからも遊びほうける。旅館で遊んでいて金がなくなる、奥さんに金をどうにか工面してもらうが、その金さえも別の遊びに使ってしまう。

 友人という友人に借金をしては返さない。あげく薬物には手をだすわ自殺未遂をするわでめちゃくちゃである。


 なんと言おうか、一言でまとめてしまうならば『人間のクズ』である。

 なんでこの人が国語の教科書などという、いわば教育の聖域に載っているのか分らない。



 ひとり、考えにふけっていたら、


鈴萱(すずがや)さんはこの作者について、どう思われますか?」


 美和子(みわこ)先生が私に意見を求めてきた。

 生徒達も年長者の私の意見に感心があるらしく、こちらを振り返って見つめている。

 なにやら期待のまなざしを受けている気がする。ここは本心を言ってしまってもよいのだろうか。

 口をついて出た言葉は、


「友人を大切にして、誠実な方だったと思います」


 本心とは程遠い感想が出てきた。


 大人になると余計な情報や知恵が付きまとい、純粋に作品を楽しめなくなる事もある。

 何事も疑いなく受け入れる子供達とはちがって、私の心は色々と汚れてしまっているのかもしれない。


※この作中に出てくる人物は架空の人物で、出来事などはあくまでフィクションです。

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