体育の授業 2
体育の授業に入り、一通り準備運動が終わった。
楠田先生は、ボールを持ってきた。なにか球技をするらしい、なんの球技だろうか?
「ではみなさんでドッチボールをしましょう、チーム分けはいつも通りで」
子供達は頭の紅白帽をそれぞれひっくり返してそれぞれの持ち場に散らばっていく。
ドッチボールか懐かしい小学生以来だ。中学生には既にやらなくなっていた、中学の時はサッカーやバスケがはやっていた。
楠田先生が私に声を掛けてきた。
「鈴萱さんは赤チームでお願いします」
「いや、さすがに大人の私が参加するのはどうでしょう?」
反論する、小学生に混じって大の大人が本気をだしたら大人げないこと極まりない。
それでも楠田先生は参加をうながす。
「僕が反対側のチームに入ります。それで大丈夫でしょう。
球技は得意ですか? 試しに僕に向かって思い切りなげてみてください」
「わかりました、それではいきますよ」
ボールはどうやらドッチボール専用のボールらしく、柔らかくできていた。
あたってもたいしては痛くはないだろう。先生が相手ということもあり、ためしに思い切り投げてみる。
ブォンとボールは勢いよく飛んでいき、ズバンと先生の胸に押しあたる。
「なにかやられていたんですか?」
「高校の頃は野球少年でしたね、まあずっと2軍でしたが。
社会人になってからは、半年に一度のレクリエーションの野球の参加くらいですが、いちおう体をうごかしていました」
「なるほど、では左手でなげてみませんか」
思わぬ提案を受ける、左手で投げたことなんて無かった。
「では試しになげてみますね」
そういって投げたボールはへろへろと力なく、狙った位置から大分ずれた位置にぺちんと落ちた。
「これなら大丈夫でしょう、では参加してください」
こうして大人の私がドッチボールをやる事となった。
初めから外野にでも出ておこう、適当にパスでも回してやりすごそう。
ドッチボールが始まる、子供達はボールで狙われるたびに、きゃっきゃと騒いでいる。
一生懸命によけるが、バランスをくずしたり、ボールを見失って後ろを向いていたりしたものから一人一人当てられて減っていく。
ゲームを見ていると、正面から当てにいくと結構な確率でキャッチされるようだ。
正面からでも手や足を狙うとキャッチされる確率はグンと減るが、その反面、よけられる確率が増える。
すばやくパス回してバランスを崩したものから狙っていくのが良いのだろうが、そこは小学生なのでパスが頻繁にミスをする。
味方のミスは敵のチャンスに繋がってしまう。こうして見ているとシンプルだがなかなか良くできている。
ひとりひとりと当てられてアウトになっていく、中に居る人が半分くらいに減ったころだろうか。
楠田先生が「それでは、最初から外に居る人は中に入ってください」と声をかけた。
私はずっと外野でもいいのだが、サボるわけにもいかないだろう。
しぶしぶと内に移動する。そうすると子供達から。
「おっさんがきたぞ、おっさんを狙え」
と声が上がる。まあ良くも悪くも目立つ存在だ。
敵のパス回しが始まる、外でパスをだしているだけなのと、中に入って狙われるのではまるで緊張感が違っていた。
やはりどうも私を中心に狙われているらしく、よくボールが飛んでくる。年甲斐もなく大げさにしゃがんだり、ジャンプしてみて交わしていく。なかなかこれはこれで楽しいかもしれない。
ボールが飛び交う中、味方の男の子が転んでしまう。
「そいつを狙え!」
すぐに目標が切り替わり、男の子にポスンと当たる、しかし当たり方がよかったのか、上に向かってボールがはねた。そして私の手の届く範囲に落ちてきたのでそれをキャッチをする。
たしかルールでは、コレで男の子はセーフになるはずだ。
「ナイスだおっさん、やっちまえ」と味方から指示が出る、よし投げてやろう。
利き手ではない左手で投げたボールはすぐ近くの地面でワンバンドして、敵のボールになってしまう。
我ながらふがいない。
「えー」味方からブーイングが上がった。
「ごめん、ごめん」と素直にあやまる。
「しょうがねーなー」笑顔であきれられた。
中盤までは頑張っていたのだが、終盤にさしかかると持久力の無さが如実にあらわれ、
動きが鈍くなったところで当てられてアウトになってしまう。
ボールに当てられて外に出るその際に「君たちの連携がよかったからだよ」と、相手チームの貢献を少しだけ褒めたら。『やったぜ』といったような満足をした表情になった。
楽しい時間はあっという間にすぎていき、授業も終了となる。
やはり体を動かすことは純粋に楽しい。
おかげで、少しだけ子供たちと距離が縮まった気がした。
しかし体育という授業は良い事ばかりではなかった。
授業が終わると、楠田先生が走り寄ってくる、なにごとだろうか?
「大丈夫ですか、すこしYシャツなど汚れているようですが」
「安物なんで気にしないでください、体のほうも大丈夫です」
「それはよかったです、ところで実は来月にマラソン大会がありまして
きつかったら特別に辞退するように働きかけてみますが……」
「いや、特別扱いしてはだめだと思います。マラソン大会は嫌な子も多いでしょうし私だけズルをするわけにはいきません」
「では、参加をお願いしますね。詳しいことは職員室の前に張り出してあります」
「わかりました」
正論を言ったものの、マラソンか…… 厳しいかもしれない。
後で職員室の掲示板をみると、どうやら3kmほどの大会のようだ。
タバコは控えよう、すくなくともマラソン大会が終わるまでは……




