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体育の授業 1

 理科の授業が終わると教室が騒がしくなった、なにごとだろう。

 すると美和子(みわこ)先生が近づいてきた、なにか用事だろうか?


「つぎの時間は体育なんですが、体操着とかありますか?」


「すいません、もってきてません」


「そうですか、すこし困りましたね。ではできるだけ動きやすいかっこうで、校庭のほうへ集合をお願いします」


「はい、承知しました」


「それではお願いします」


 今日、体育の授業があるとは知らなかった、私は背広の上着を脱いでネクタイを外す。Yシャツは首と袖口のボタンをはずして動きやすくしておく。

 しかし私が着れる体操着などあるのだろうか。たとえそれがあったとしても絶対に着たくはない。そのような事態ならまだランドセルを背負う方がまだマシである。



 外に出ると気温も高くなく湿度もたいしてない。運動をするのにはちょうどよい季節だ。

 うちの学校の校庭は小学校としてはかなり大きい部類に入る。田舎なので土地が余っているのだろう。周りに建物が無く、見通しが良いのでさらに広く感じる。


 ひさしぶりに山砂の運動場に立つ、革靴ごしに伝わるじゃりじゃりとした感覚がなつかしい。



 私はすこしだけ運動能力には自信がある。


 建築作業も運動といえば運動の一環なのだが、うちの会社では半年に一度レクリエーションと称して野球の大会があった。ちなみこの大会はのんびりとしたものを思い浮かべるかもしれないが、そうではなく本気のガチンコな試合だった。

 なぜならこの大会は1社だけの身内の試合ではなく、同じ業界のライバル会社も参加して野球大会を開催していたからである。試合は当然ながら熱を帯びる。日ごろおとなしかった人が無茶なプレイをして病院にかつぎこまれたりと、そんな意外な一面がみられる日でもあった。


 ちなみに私は高校時代は野球部だったので、試合メンバーに強制的に入れられた。

 試合前の休日には、よく呼び出されては練習をしたものである。


 そのような訳で、運動には多少の自信があった。



 外に出ると、校庭の一角に子供達がわいわいと集まっている。たぶん、あそこらへんに集合するのだろう。私も子供達にならい近くでぶらぶらとしていたら、始業のチャイムが鳴り楠田(くすだ)先生がやってきた、きのう廊下ですれちがった若い先生だ。

 体育の担当をしているので見た目のバランスもよく、好青年といった印象を受ける。



「はい、みなさん並びましょうね」


 そう言われると生徒達は『前にならえ』のポーズをとって規則正しく、男女一列づつにならんだ。


 一方、私はボーとっ突っ立っている。


「どこへ並べばいいですかね」


 楠田先生に声を掛ける。


「あっ鈴萱(すずがや)さんは初めてでしたね、背の低い順番なので……」


 ちなみに私の身長は179cmである。もちろんこのクラスではずば抜けて高い。


「私は男子の一番うしろですね」


「それでお願いします、ラジオ体操は覚えていますか?」


「大丈夫ですよ、建築現場でも毎日のようにしていましたから」


「わかりました。それではそのようにお願いします。

あと次回からはジャージのような動きやすそうな服をお願いします」


「了解です」


 体操着は免除(めんじょ)されるらしい、助かった。


 私が列に付くと、楠田先生は「広がって大きく前へならえ」と号令をかけると、生徒たちはダダッと走って大きく広がり、所定の位置へと付く。すこし遅れて私もそれに続く。

 続いて「ではラジオ体操を始めます」と言い、手に持ったラジカセのボタンを押すといつもの例の曲が流れた。


 ラジオ体操をしながら、列の一番後ろから子供達をながめる。準備運動だがその姿は真剣そのものだ。

 工事現場で繰り広げられる大人のラジオ体操は、もっとだらだらとしていて締まりがない。


 しかしこうしてみると子供達の体は柔らかい。

 無造作にぶんぶんと腕や足をふりまわしている。あんな風に大人がやったら、どこか筋をおかしくしてしまいそうだ。



 ラジオ体操が終わると、こんどは少し走るらしい。


 楠田先生が「2週、はしりますよ」というと。

「はーい」という返事が返ってきた。


 返事は従順だったが、その言い方からはどこかふてくされているような「本当は走るのはいや」という感情が隠しきれていなかった。


 走り込みは体力作りにはもってこいだが、つらいものは嫌いなのだろう。

 まあ、ここらへんは大人になっても変わらないと思う。



 グラウンドを2週する、見たところ200mのグラウンドにしては少し狭い気がするので、一週150mほどだと思う。


 子供達ばパタパタと走り出した、私はそれから少し距離をおいてゆったりと走り出す。

 せわしなく走る子供達の背中をつかず離れず追いかけた。


 1週目はなんら問題はなかった、2週目に入る。子供達のペースはまったく衰えない。

 なんだか私の方は辛くなってきた、息が少しあがりはじめる。

 子供達はすこし息が荒いが、なにやら無駄話(むだばなし)を喋りながら走っている。信じられない。


 2週走り終わると、私の息は上がっていた。


 楠田先生が少し心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫ですか?」


「ええ、はい、大丈夫、です」


「あまり無理をなさらないでくださいね」

 と優しく声を掛けてくれる。



 しかし、ここまで心肺能力が落ちていたとは。

 タバコを少しだけ考慮しないといけないかもしれない。



 一通り準備運動を終えると、楠田先生はボールを持ってきた。なにか球技をするらしい。

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