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朝の風景

 いつものように朝がくる、今日は目ざめがよい。朝の日の光は何故(なぜ)か都会より柔らかく感じた。もしかすると田舎の空気が関係しているのかもしれない。


 昨日と決定的に違う事がある。私はすでに派遣会社のサラリーマンではないということ。昨日付で小学生という身分になってしまった。実に25年ぶりの転職だ。


 しばらくベットの上でぼーっとしていると。台所のほうからコトコトと何かを煮るような音がしてきた。そして遅れて臭いが流れてくる。どうやら味噌汁を作ってくれているらしい。


 匂いを嗅いだら急に腹がへってきたので台所へと向かう。

 台所ではすでに母親が料理を終えていた。私を見ると声を掛けてきた。


「おはよう、はやいのね」


「おはよう、母さんこそはやいね」


「私はいつも通りだよ、朝食にしましょうか」


「では、いただきます」


 出てきた料理は目玉焼きと味噌汁、海苔ときのうのおかずの残り。

 いたって普通の朝食だが、暖かい料理というだけでもありがたい。一人暮らしのときは冷たいパンを口に放り込んで(しま)いにしていた、とにかく時間がなかったのだろう。




 朝食を取り終わり、小学生の授業の支度(したく)をする。

 かばんに教科書やらノートを詰め込んでいると、母から指摘される。


「小学生ならランドセルじゃないかしら。どこにしまったのかしら…… まだ探せばあるとおもうんだけど」


「いや、さすがに普通の鞄でいいよ。小さくて背負えないと思うし」


「それもそうね」


 さすがにいまさらランドセルを背負うのは勘弁してもらいたい。そんな姿は(はた)から見れば完全に変人である。

 自分がランドセルを背負った姿をふと想像してしまう。ありえない姿に身震(みぶる)いがおきた。


「でもいま大人のランドセルがブームらしいわよ」


「またまたご冗談を。からかってるでしょ」


「じゃあ、記事を見せるわね」


 そういうと母はタブレット端末をどこからか持ち出してきて検索を始めた。

 知らない間に我が家にもIT化がもたらされていたようだ。


「ほら、これをみて」


 見せられた画面にはスタイルのよいモデルがランドセルを背負ってポーズを取っている。そして『いまランドセルがブーム』と見出しが打ってあった。

 他には海外の金髪の女性が日常的に鞄として使っていることを紹介した記事もあった。

 初めは冗談の記事だと思ったが、どうやらちゃんとした雑誌の記事らしい。


 大人になっても世の中わからない事だらけである。



 学校に行くにあたって一つ障害がある。学校に着ていく服がないのである。カジュアルな服装が良いのだろうが、あいにくそういったものは持ち合わせていない。

 持っている服はスーツか作業着、もしくは部屋着のパジャマかジャージのどれかに類する。

 さて、どうしたものか。まあこの選択肢の中からではスーツしかないだろう。


 ややしわのよったワイシャツに袖を通し、いちばん地味な色のネクタイをしめ、スーツの上着を羽織る。

 一通り身だしなみを整えると、小学生の教科書のはいったビジネス鞄をもって家をでる。


「それではいってきます」


「いってらっしゃい」



 これはもしかすると、大人がランドセルを背負うような奇妙な光景なのかもしれない。

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