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卒業式 1

 何度か予行練習を経て、卒業式の当日を迎える。


 外に植えてある桜は5分咲きで、今日は暖かくすごしやすい。

 開け放たれた体育館の窓からは、ここちよい風がながれてくる。



 この式の主役である我々6年生は、やはり緊張をしているようだ。お気楽ないつも通りの態度とは違い、息をのむような緊迫感がある。

 普段と違うのはクラスの雰囲気だけではない。生徒達はこの日に備えて、特別な服を着ている者も多い。

 さすがに成人式の晴れ着のような服装の生徒は居ないが、男の子はジャケットを羽織ったり、女の子はドレスのような服でめかし込んだりしている。


 ただ、この特別な日を意識せず普段着の者もそれなりにいる。

 一日だけの卒業式の為にわざわざ洋服をあつらえるのは、あまり得策とは言えない。

 例えば成人式のスーツは、社会人になっても使い回せる事が多いが、成長期まっただ中にあるこの時期に、一張羅を揃えたところで再び出番が回ってこない事は明白だ。無駄遣いは控えるに限るだろう。

 ちなみに私の成長期はとっくに過ぎてしまっているが、家計の節約のため普段どおりの格好をしている。


 特別な格好といえば、今日、お越し頂いている保護者の方々も特別な格好をしている。

 こういった特別な日には、大人は礼服を着れば大丈夫だろう。社会人になれば黒の礼服の一つくらいは持っているはずだ。


 後ろの保護者席をちらりと確認する。

 すると、女性の方々はきらびやかなドレスを着ている方が多い。しかも心なしか、そのドレスは新しいように見える。

 もしかしたら子供の卒業に(かこ)つけて、自分の衣装を新調したのかもしれない。


 後ろを振り返った際に、保護者席の端に桐原さんが居たような気もするが、気のせいとしておこう。



 式が始まると、まずは5年生と6年生が校歌を合唱する。

 校歌というものは以外と覚えていないものだ、私が再び小学生となった時には、記憶から完全に抜け落ちていた。

 ようやっと覚え直したこの校歌も、今日で歌い納めだ。来年度からは、また新たな中学校の校歌を覚え直さなくてはならない。


 校歌の合唱が終わると、校長先生のありがたい話が始まった。



 校長先生の話しが聞けるのも、これで最後となるだろう。

 講義の内容は、生徒達にこれから訪れるであろう将来の不安や希望や挫折など、良いことや悪いことも全てひっくるめて熱っぽく語っている。

 演説の内容を聞いていると国語の成績があまり良くない私でも、相当な時間をかけて話しを練り込んでいるのがうかがえた。


 しかし、不思議と頭には入ってこない。なぜだろうか?

 これは感受性の低い大人の私だけが見舞われる現象なのだろうか。

 周りが少し気になり横をチラリと見ると、隣に座っているクラスメイト達も少し暇そうに映る。

 中には目を潤ませている生徒も居たが、話しを聞いて感動しているのか、あくびをこらえて涙目になっているのかは分からない。(はた)から見ている限りでは限りなく後者の理由のような気がする。


 熱を帯びた校長先生の話しは、なかなか終わらない。この独演会は20分あまり続いた。



 ようやく校長先生の話しが終わる。すると生徒、先生、保護者の方々から盛大な拍手が起こった。

 この大々的な拍手は演説の内容を賞賛するものではなさそうに思えた。長い呪縛(じゅばく)から解放された喜びが反映されたものだろう。


 だが、おそらく校長先生には、この現実は伝わらない。演説が評価されたものだと受け取ってしまう。

 本来なら誰かが指摘をするべきなのだと思うが、大人になると(めん)と向かって人に意見をぶつける事は無くなる。

『貴方の演説は分かりにくくて長いですよ』などとは言えるハズも無い。まして相手は年長者である校長先生ともなればなおさらだ。

 この分だと、来年の卒業式も今回以上の長丁場(ながちょうば)になりそうだ。



 校長先生のありがたい言葉が終わると、式はいよいよ卒業証書授与となる。

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