表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/138

逆鱗と鬼門

 鬼門とは、北東の方角を表し、災いはその方向からやって来るという。

 いつしか意味が転じて、自分に都合の悪い方角や事柄の事も示すようになったらしい。


 災いが起こる前には必ず兆候というものが見られる。

 地滑りの前には、崖の周辺から土を含んだ茶色い水が流れ出したりするものだ。


 小学校6年生、つまり今受けている授業では世界地図を習う。

 日本の地図と同じように、白地図を使い、国名や国旗、簡単な特徴も教わる。

 そしてこれら習ったことは、当然テストに出てくる。


 今日、社会の授業で世界地図の鬼門が開いた。

 思い返せば、きっかけは先週のあの出来事であろう。

 それは生徒の放った、なにげない一言だった……



 先週のこの時間。その前の週の小テスト、つまり今から数えると先々週にやった小テストが採点を受け戻ってきた。

 何かと問題を起こすそうすけくんが満点を取り、周りに自慢する。


「世界地図の問題なんて簡単だぜ。こんな知識は役に立たないだろうけど、100点なんて余裕でとれるぜ」


 その言葉を受け、美和子(みわこ)先生は、そうすけくんに静かに問いかける。


「では、少し難しくしてみましょうか?」


「思いっきり難しくして構わないぜ」


「分りました、では次のテストまでに勉強を頑張ってください」


 その時は、なにげないやりとりに見えたのだが、どうやら美和子先生の何かしらの逆鱗(げきりん)に触れていたようである。

 今週のテストはとんでもない問題が出されている。



『1問目、以下の国の名前を正確に答えなさい』


 問題文の下には、おそらく日本以外ではもっとも見慣れた国の地図が記されている。

 ヒントとして国旗があるのだが、星条旗の絵が描かれており答えは一目瞭然だ。

 解答欄に『アメリカ』と記述した。


 続いて、これまた見慣れた島の形と、ユニオンジャックの国旗が記されている。

 この問題も簡単だ。私は迷う事無く解答欄に『イギリス』と書き込む。


 ここまではよかった。



『2問目、旧ソビエト連邦だった国を全て上げなさい』


 そして解答用紙には15個ほどの解答欄が用意されていた。

 ……これは、いくらなんでも厳しすぎやしないだろうか?


 ニュースなどを必死に思い返し、ソ連に関する名前を挙げてみる。


 まず主要国である『ロシア』。

 続いて内戦でニュースに良く出てきた『ウクライナ』。

 他に思いついた国名は『カザフスタン』『グルジア』。


 ……もうネタがきれた。15個の解答欄は4個しか埋まっていない。

 しかしこれはこれ以上考えたところで出てきそうに無い。私は次の問題へと進んだ。



『3問目、選択問題です、国名の一覧から該当する場所に当てはめなさい』


 選択肢の国名の一覧と、記入欄がある地域の白地図がそこにはあったのだが、国名一覧が……


『キリバス』『サイパン』『サモア』『ソロモン諸島』『ツバル』『トンガ』『ナウル』『バヌアツ』『パラオ』『フィジー』『マーシャル諸島共和国』『ミクロネシア連邦』

挿絵(By みてみん)


 12個の国名が並び、表記されている白地図はオセアニア地域のものだった。


 さて、いくつかの国名は聞いたことはある。ただ、どこにあるかというのは全く分らない。

 この呪文のような国名を、私はどうにかして解答欄に当てはめ、全てを満たさなければならない。


 記憶から何とか片鱗を思い出そうとする。

 たしか『サイパン』は以外と近かったハズだ。地図の左上には『台湾』らしき島がみえているので、日本に一番近い場所に配置した。


 続いて、諸島と呼べる場所を探す。地図にはいくつかの島が連なった場所が二つほど見当たる。おそらくどちらかが『ソロモン諸島』で、もう一つは『マーシャル諸島共和国』だろう。

 しかしソロモン諸島は『小笠原諸島』『千島列島』のような地方の名前で国名(くにめい)は別なのかと思い込んで居たのだが、どうやらこれが正式な国名(こくめい)だったらしい。

 さて、どちらが『ソロモン諸島』なのだろうか?

 地図を見て、考えていても答えは出ない。私は適当にそれらを配置した。


 残りは…… もう何も思い浮かばない。適当である。

 選択肢が6個なら、鉛筆を転がして決める事も出来たのだが、こう国名が多いとそれすらできない。

 気分で解答欄を埋めていく。


 そして時間は立ち、テスト用紙は回収された。さて、今回の小テストの結果は酷い事になりそうだ。




 翌週、小テストは採点され帰ってきた。案の定、酷い点数だ。


 自信をもって答えた『アメリカ』にはバツが付いており、『アメリカ合衆国』と正されている。

『イギリス』にもバツが付いていて、『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』と直されていた。


『旧ソビエト連邦だった国』で答えた数少ない国のひとつの『グルジア』にもバツが付けられ、『ジョージア国に表記が変更』と補正がされていた。


 オセアニア地域では、当てずっぽうだったが、いつくか正解があった。山を張った『ソロモン諸島』は当たっていたのだが、もう一つの『マーシャル諸島共和国』は外れていた。

 『マーシャル諸島共和国』の正解を確認すると、白地図では諸島のハズなのに一つの島にしかみえない。これは()せないが、そもそも場所を覚えていない方が悪いのかも知れない。



 今回の小テストはご多分に漏れず、クラス全員が酷い点数だった。

 この間は満点だったそうすけくんも酷いありさまのようだ。

 これからは、あまり美和子先生を怒らせない方がいいだろう。修学旅行で見てきた『みざる、いわざる、きかざる』の三猿のように、余計な事は言わないに限る。


 散々な表情のクラスメイト達から、美和子先生に視線を移すと、生徒達とは対照的に晴れ晴れとした表情をしていた。『してやったり』といった所だろうか。ひとまず溜飲(りゅういん)が下がったようだ。このような理不尽な問題はもう出されないだろう。


 そう思っていたら、そうすけくんがまたやらかす。

「こんな場所には行かないよ、『ナウル』とか『バヌアツ』なんて行くはず無いじゃん、絶対にやくにたたないよ」


 その発言に対して美和子先生はこう答えた。


「来年は中学生になるんでしょう。このくらいの問題ができないと困ります。

 しかし今回のテストは難しかったようです。来週のテストは少し地域を絞りましょう。

 アフリカ大陸から出題するので、皆さんよく覚えておいて下さい」


 私は新たな鬼門の開いた音が聞こえた気がした。

 教科書の世界地図をチラリと見る。どうやら56の国があるらしい。


 アフリカ大陸はその昔、暗黒大陸と呼ばれていた。

 今、その理由を身をもって理解出来る。

 小テストの正解のリストです。



2問目


 1 ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国

 2 ウクライナ・ソビエト社会主義共和国

 3 (はく)ロシア・ソビエト社会主義共和国 →1991年消滅 ベラルーシ共和国として宣言、承認される。

 4 ウズベク・ソビエト社会主義共和国 →1991年 ウズベキスタン共和国

 5 カザフ・ソビエト社会主義共和国 →1991年 カザフスタン共和国

 6 グルジア・ソビエト社会主義共和国 →2015年4月22日 ジョージア国に表記を変更

 7 アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国

 8 リトアニア・ソビエト社会主義共和国

 9 モルダビア・ソビエト社会主義共和国 →1991年 モルドバ共和国と沿ドニエストル共和国

 10 ラトビア・ソビエト社会主義共和国

 11 キルギス・ソビエト社会主義共和国

 12 タジク・ソビエト社会主義共和国 →1991年 タジキスタン共和国

 13 アルメニア・ソビエト社会主義共和国

 14 トルクメン・ソビエト社会主義共和国 →1991年 トルクメニスタン

 15 エストニア・ソビエト社会主義共和国


(はく)ロシア』ってあまり聞かないので、ウィキペディア調べて見たら消滅してました。びっくりです。

 こうしてみるとソ連崩壊は大事だったんだな、と今更ながら考えさせられました。



3問目


正解の地図です。

挿絵(By みてみん)


 ちなみに国民の人口が、2010年推計人口で

『パラオ』20,457人

『ナウル』10,210人

『ツバル』9,929人

 だとか、ほとんど市町村のレベルですね。



 世界地図の最大の鬼門。個人的に一番覚えにくいのは、中央アメリカです。

 西インド諸島・カリブ海周辺を加えると、もう何が何やら。

 この話しを書くにあたり、ネタに使えないかと少し調べてみましたが、『ドミニカ国』と『ドミニカ共和国』が別の国だったという事を初めて知りました。


 最後にこちらの地図をご覧下さい。中央アメリカ、カリブ海あたりの地図です。

 もしかしたら何かしらのテストに出るかもしれませんよ。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ