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中年(?)野球 4

 我々のチームはなんとか勝ち残り、3回戦の準決勝へと駒を進めた。

 本日は試合の為、プロ野球でも使われているドーム球場へと来ている。


 ドーム球場といえば、真っ先に後楽園にあるあの球場を思い浮かべるだろうが、今日来ている球場は都会のそれとはちがい、12球団でもっとも『田舎の球場』と言って良い立地にある。

 この球場の最大の特徴といえば、既存の球場にむりやり屋根を乗せた点だろう。かなり違和感のある建築物で、本来あるべきはずの壁が無い。側面を見れば外が見渡せ森の緑が飛び込んでくる。これはこれで面白いとは思うのだが、野球ファンからはすこぶる不評だ。


 夏は蒸し風呂、冬は保冷庫と非難されるほど過酷な環境らしい。おまけに側面からは雨が吹き込み屋根があるはずの室内で傘が必要になるという不測の事態になることもままにある。使用者からクレームが入るような建物はなにかしらの改善が必要だろう。


 クレームといえば桐原(きりはら)さんが思い浮かぶ、私と木藤(きどう)監督は先週あれだけ説教を受けたにもかかわらず、今日も私を9回の最後の方にちょっとだけ出場させる予定となっている。

 説教も長くなりそうなので、胃薬の方も倍に増やし準備は万全だ。



 我々のチームの対戦相手は、私がリトルリーグに参加して初めて練習試合をしたあのチームだ。

 優勝候補の筆頭であり、これまでの試合成績は1戦目12-0、2戦目9-1といずれもコールドゲームで圧勝している。実力的には天と地ほどの差があり、おそらく勝つ事は不可能に近い。

 試合には負ける事となるが、この球場で試合ができる事は子供達にとっては良い思い出になるだろう。



 我々が球場へとたどり着くと、プロの選手が使用しているのと同じ控え室に通され、着替えが終わるとテレビなどでよく見るベンチに通される。試合前だが子供達はすでに興奮状態だ、はしゃぎ回ってあちこちを探検していて野球どころではない。私と監督はここで押さえつけるような事をせず、しばらく放任する。この施設を自由に見学できる機会などは滅多にある事では無い。


 ほどなくすると子供達の好奇心が満たされたようだ、少し落ち着いてきた。

 試合開始の時間も迫り、挨拶の為グラウンドへと足を踏み出す。人工芝のグラウンドは思ったよりも柔らかい、下にゴムでも敷いているのだろうか、うちのチームメイトは寝転んだり、でんぐり返しをしているが、相手チームの子供達はそんかとこはせず、ピシッと凜々(りり)しく立っている。試合開始前だというのに格の違いとがうかがえる。


 一通り転げ回り、充分にグラウンドを堪能(たんのう)した後、双方のチームが一列づつに並び、挨拶を交わす。


「よろしくお願いします」


 監督同士も握手と挨拶を交わす。

 だが、ここで思いもよらぬ運びとなった。

 相手の監督さんから、このような声を掛けられた。


「今日は鈴萱(すずがや)さんが先発のピッチャーですかね。楽しみにしていますよ」


 想定外の発言に私と木藤監督は驚き、目を合わせた。


「いや、そういった予定はいまのところは……」

 木藤監督は否定をするのだが、


「いえいえ、秘密兵器として取っておきたい気持ちは分りますが、出し惜しみをして負けてしまってはしょうが無いですよ。それに私のチームも鈴萱さん対策の特訓を行っております。この間のようにはいきませんよ」


 相手の監督さんは自信満々にそう言った。私は、


「親御さんからクレームが来るんじゃないですか?」


 と、言い訳を述べるのだが……


「いえいえ、うちのチームのでは既に貴方は有名人で知らない御両親の方はいませんよ。では、試合を楽しみましょう」


 そう言って自軍のベンチへと引き返していった。



 残された私と木藤監督は、この後どうしようかと相談をする。

 秘密兵器を早めに投入すれば相手の打線を抑えられるだろう。もしかしたら勝てるかもしれない。

 そしてなにより、私が登板する事で桐原さんからクレームが入る事は無くなるだろう。


 この魅惑的なお誘いに、私と木藤監督は(あらが)えなかった。

 先発投手として私が出場する事となる。

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