中年(?)野球 1
秋の高い空が広がる、日曜の午前中。
私は河原のグラウンドで野球に打ち込んでいる。少年野球の練習に付き合うためだ。
そろそろリトルリーグは大会の季節に入る、近頃は練習に熱が入り本格的になってきた。
我がチームの実力はというと、バッティンの方はかなり上達している。
打撃の練習は私がバッティングピッチャーを務めており、最近は本気で投げてもかなりの確率で打たれるようになってきた。この調子なら他の小学生のピッチャーからは相当打てるはず。打線だけは他の強豪チームとくらべても遜色ないだろう。
しかし、うちのチームは守備には一抹の不安がある。
やはり守備の練習はあまり楽しくないらしく、なかなか上達しない。
エラーの数は減ってはいるが、まだまだ精進が必要だ。
午前中の練習が一段落付き、私は少し休憩を入れていると木藤監督に呼ばれた。
なんの用事だろうと、監督へ駆け寄り話しを聞くと、
「お客さんがきたよ」
予想外の答えが来る。
誰だろう? こんな河原のグラウンドに訪れてくるような知り合いは居ない。
考えられる事といえば、せいぜい母親がなにかしらの忘れ物を届けに来るぐらいしか思いつかった。
困惑している私に向かって監督は少し苦い顔する。そして仕方なしにある方向を指さすのだが、その先にはグレーのスーツを着た桐原さんがなぜか立っていた。
桐原さんは私の顔を見ると、近寄ってきて、
「お二人に伝える必要があったので、ここまできました」
そう、私と監督を見据えて話しを開始する。
「このたびの大会から、鈴萱さんが公式試合に出場できる事になりました。
野球協会の方でも認可を取ってあるので。まったく問題無く試合に出られます」
なにやら余計な事をしてくれた気がする……
これはどうすればいいのだろう。悩んでいると続けて、
「なお、試合には私も監視役と指導役を兼ねて参加する事になりました」
そう言い放った。私が事態の確認をする。
「それは毎試合、桐原さんが来るという事でしょうか?」
「当然、そうなりますね」
……これから、たいへんな事になりそうだ。
そして私と監督に文部科学省の書類を渡すと帰って行った。
桐原さんの姿が見えなくなるのを確認すると、私と監督はまず子供達を集めた。
すぐさまこの事態に対して、対策を練らなければならない。
まず私は子供達に大切な事を言い聞かせる。
「先ほどの女性にたいして絶対に『おばちゃん』と言わないように。必ず『お姉さん』と呼んでね」
「なんで?」「どうして?」
純粋無垢な疑問が帰ってきた。子供達はまだこの危機的状況を認識していないらしい。
「去年の練習試合であの人が怒っている様子を君たちは見たかい?」
「見てた」「見た」
彼女の姿は一度しか見ていないハズなのに、子供達はしっかりと覚えているようだ。
「もし『おばちゃん』と呼んだら、おそらく小一時間はあの様子で怒られるよ」
「うげぇ」「気をつけなきゃ」
子供達の表情が恐怖に染まる。
私はその他にも知りうる限りの桐原さん対策を子供達に教えた。
普段はメモなど取らない監督も、この時ばかりは一字一句逃さぬように手帳に記載をしている。
この対策会議はいつものミーティング以上の時間を費やされる事となってしまった。
公式試合は来週から開かれる。
今回の大会は荒れそうだ。




