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背の高い転入生 2

 列車は目的の駅へと到着する。



 ホームへと降りると秋の爽やかな風が心地よい。

 視線をすこしだけ上げると空と山々のさかいめが見え、山の木々はほんのりと色づいている。

 ここからでは見えないが駅から少し歩くときれいな川も流れており、夏にはバーベキューをする人で賑わうこともある。


 駅前には店はあるが、少し奥へ歩くとあっという間に住宅街をとびこえて畑と林が広がる。

 都心からは遠いので通勤となると大変だが、暮らすだけならこの町はとても快適だ。



 秋のすがすがしい空気のなかを歩き始める。


 ところで、うちの小学校は程よい田舎で、なかなか絵になるような小学校である。

 校舎の前を川が流れており、あたりは街路樹などの緑があって絵として見栄えがする。

 これがもし分譲マンションであったのなら『即日完売』するような素晴らしいイラストが出来上がるだろう。


 余計な事を考えて歩くことおよそ15分、小学校に到着した。



 しかるに、人間というモノは記憶の美化を行う生き物である。

 いざ、学校に到着すると、あたりの緑は程よいなどという生やさしいものではなく、草や木々などが争うように絡まり合い、(ひし)めくように重なり覆われている。

 人工物と呼べるモノは少なく、あたりを見渡すと所々にもうしわけていどに民家があった。


 はて、これは相当な田舎である。

 子供の頃は意識していなかったが、ここまで緑が濃く、自然に浸食されていたとは憶えてはいなかった。



 すこしショックを受けながら校門へと向かうと、昔とは違って年配の警備員の方が配置されていた。

 あの警備員の方に、私の状況をどう説明をすればよいのだろうか?

 とにかく怪しまれないように、まず挨拶を交わした。


「おはようございます、おつかれさまです」


「おはようごさいます、この学校になにか用ですか?」


「いえ、あの、文部科学省の再教育課というところから、紹介されてきたんですが」

 説明をしようとするが、うまく口にでてこない。ハッキリ言って怪しい人そのものだ。

 しかし、警備員の方からは想定外の答えが返ってきた。


「ああ、聞いております、小学生の方ですよね」


 既に連絡が回っているらしく、話が通っているようで助かった。もしかしたら思ったよりも再教育課という部門は優秀なのかもしれない。

 仮に話しが通っていなかったら、どうなっていたことやら。下手をすると警察にでも通報されて『小学生の少年A(37歳)』として報道されていたかもしれない。そう考えるとゾッと身震いがする。


 だが、あらためて『小学生』と問われると違和感しか感じない。

 これから先はどうすれば良いのだろう?

 そういえば証明書があったのでそれを提示してみよう。身分証がわりになるとか言っていた気がする。


「こちらが証明書です、確認をお願いします」


「ほう、なるほどなるほど、ではまずは職員室に行って下さい入ってすぐの場所にあります。

それと来客用のスリッパは右側においてありますんで、それをつかって下さい」


「わかりました、ありがとうございます」


「それではがんばってくださいね」


「はい」


 こうして何とか私は難所(なんしょ)を越え、学校の敷地内に入ることができた。

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