2.なぜこうなった?
さて今回は王宮編です。
と、いうわけで父と兄と騎士団長にレティのお披露目ですね。
馬車に乗ってコロサスから王都ブルーメまで早2日。
その間レーヴァテインは窓から見える風景を楽しんでいるように見えた。
この2日間で手に入れたレーヴァテインの情報は僅か。
それはエドガーが調べた通りのものだった。
それ以外に手に入った情報といえばどんな対戦相手と戦ったか?くらいだった。
会話が不慣れなのだろうか?
なかなか会話が続かない上に、話題が少ない。
まるで懐かない猫を相手にしているかのような気がして、それはそれでマリアは楽しんでいた。
懐かないのならば懐かせればいいだけなのだから。
絢爛豪華な玉座の間・・・ではなく、何故か国王の執務室に連れてこられたレーヴァテインは不思議そうな顔をしていた。
きっとエドガーから王との謁見は玉座の間で行われると聞いていたのだろう。
応接用の長椅子に座ったマリアはその隣に座るようにレーヴァテインに指示をした。
彼は一瞬だけ躊躇ったがこれも命令だと判断したのか素直に座ってくれた。
そして向かい側の長椅子に座る父である国王と、兄である第1王子にレーヴァテインのことを紹介した。
「と、いうわけで今日から私の近衛騎士見習いとなりましたレーヴァテインです。まずは騎士団に入団させ、騎士団長の元で鍛えていただく予定です」
「うむ、それで良かろう。ギルに任せておけば問題はない」
「それが良いですね。それにしても龍人族の瞳はとても綺麗ですね。貴方の瞳は黄金の太陽のようだ」
兄であるレオン・フォン・ヴィルヘルムにそう言われレーヴァテインの瞳を見てみると確かに太陽のように輝いていた。
この世界において金の瞳を持つ種族は龍人族だけである。
故にコレクター達は生死関係なしに龍人族を求める。
ある者はその高き戦闘力を、ある者は希少価値から見栄として、そしてある者はコレクションとして飾るのだ。
レーヴァテインはコロッセオのオーナーに買われた、という点においては幸運だったと言えるだろう。
見世物にされる代償に死闘を得られたのだから。
黄金の瞳に、赤みが入ったこげ茶色の髪、そして日を当たらなかった為に焼けていない白い肌。
身長は160cmくらいだろうか?
引き締まった体には無駄な肉はなく、鍛えられた戦士のようでもあると同時に、成長途中の幼さも見える。
はっきり言っていろんな意味で将来有望だ。
「すまないがエドガー、ギルを呼んできてくれないか?」
「かしこまりました、陛下」
ちなみに国王の名はアレクサンドラ・フォン・ヴィルヘルムという。
御年58歳にして文武両道で国民からの人気が高い賢王だ。
そして同時に妻が残してくれたレオンとマリアを溺愛する父親でもあるのだ。
「さてと、身内だけになったことだし堅苦しいのはなしにしようか。僕も君のことをレティと呼んでもいいかな?」
「構わな・・・構いません」
「ふぉっふぉっふぉっ、私達に敬語は不要だ。それでレティ、君は我が最愛の娘であるマリアのことをどう思っているのかな?」
「なっ!?父様いきなり何を!?」
「それは僕も気になっていたんだよね。誇り高き龍人族が金で買われただけで契約をするとは思えないからさ。契約の見返りに何を求めたんだい?」
「性奴隷ではなく、戦奴隷として接することだ」
それを聞いた国王とレオンは目を見開き驚いていた。
確かに最初の説明で見受け金として金貨5000枚を払ったと言ったが、奴隷として買ったとは一言も言ってはいない。
そもそもマリアは奴隷制度を・・・いや、奴隷自体をあまりよく思ってはいなかった。
だが奴隷制度がなくては奴隷落ちしてしまった者を守る為のルールが存在しないことになってしまい、奴隷落ち=人権の剥奪・・・それはすなわち人ではなくなってしまうことを意味する。
だからこそマリアは積極的に犯罪奴隷を出さないように法律の改正に力を入れている。
特に孤児院などの施設への援助は惜しまず、1人でも多くの孤児がでないように努めているのだ。
飢えることもなく皆が笑って暮らせる国、それを作ることが王族の務めだと認識している。
それゆえにマリアは・・・民から慕われている薔薇姫は高貴であり同時に慈しみを持った王女であらなければいけないと考え、自分にそう律しているのだ。
「まさか君はそれだけしか望まなかったのか!?」
「そうだ。それにマリーが騎士団長の龍人族の男と戦う機会を作ると約束してくれた。それで十分だ」
「はぁ、まったくギルといい、レティといい・・・どうして君たち龍人族は戦いに重きを置くのか」
「それが龍人族として生まれた性だからではないのか?私は良いと思うぞ?とてもシンプルで分かりやすい。私はレティを求めた、そしてレティはさらなる力を求めた。互いの利害が一致している」
正確に言うと惚れた、なのだがそれはまだ伝える時期ではないと思う。
知り合ってまだ2日だ。
この想いを伝えるには早すぎる。
だが父と兄にはそれとなく伝えるのも悪くはないと思い、『求めた』と表現したのだ。
マリアがそう思っていると執務室の扉がノックされる音が聞こえ、入室許可を出すとエドガーと王国騎士団の騎士団長である『ギルベルト』が入室してきた。
彼は今は亡き先王である祖父と契約を交わした龍人族である。
そして先王は彼に『ギルベルト』という名を授けた。
ギルベルトとは、古の言葉で『輝かしい願い、誓い、契約』といった意味が込められていいる。
「お呼ばびでしょうか、陛下」
「うむ、来てもらったのは他でもない。お前にマリアの近衛騎士になる子の教育係を任命しようと思ってな。彼の名前はレーヴァテイン。お前と同じ火龍の龍人族だ」
そう紹介され、マリアの隣に座るレーヴァテインを見た瞬間にギルベルトは驚愕していた。
あの鉄仮面と言われた鬼の騎士団長がまさかこの様な表情をするとは思ってもみなかった王族3人は驚いていたが、その後のギルベルトの行動にさらに驚かされた。
なんとギルベルトはレーヴァテインを睨むと、そのまま足早に近付き彼の腕を掴み、無理矢理立たせたのちに首筋に顔を寄せ匂いを嗅いだ後に首に噛み付きその血肉を咀嚼したのだ。
「っ!?ギル!?レティに何をするんだ!?」
「ん?それは龍人族独特の挨拶かい?」
「おやおや、気付かれましたか」
驚くマリアと、興味深そうに観察するレオン、そして意味深なエドガーの台詞。
噛み千切った場所に回復魔法をかけて元通りにしたエドガーは振り返ると爆弾を落とした。
「陛下、この子を私に下さい」
その直後、執務室にはマリアの悲痛な叫びがこだましたのだった。
*****
登場人物紹介
*レオン・フォン・ヴィルヘルム
マリアの兄で第1王子でさらにシスコンな23歳。
母親に似て体が弱いが、その分頭の回転が速く知的で物知り。
妹のことを溺愛しており、レーヴァテインのことは観察中。
王位継承権1位だが、場合によってはマリアに王位継承権を譲ってもいいと考えている。
*アレクサンドラ・フォン・ヴィルヘルム
15代目国王にして、レオンとマリアの父親で、58歳。
文武両道で国民に慕われている賢王。
体が弱かった妃の身を案じなかなか世継ぎを作らなかったが妃に説得され、無事に2児の父親に。
子供達の事が大好きでその溺愛っぷりは政略結婚を認めず、恋愛結婚でなければ結婚は許さないと周辺貴族や他国の王族に言い放つ程。
レオンからは良き見本として尊敬され、マリアからは父よりも強く賢い男でなければ結婚を認めてもらえないだろうからそういう男を探すか、と思われている。
マリアが連れてきたレーヴァテインの事はまだ見さだめ中である。
✳︎ギルベルト
先王と契約を交わした龍人族の男性で、見た目年齢は25歳くらいだが、実際は150年くらい生きている。
両親から付けられた本当の名前があるが、契約が終了するまではギルベルトと名乗っている。
先王の遺言である『息子の事を頼む』という最後の願いをかなえるために亡き主との契約により騎士団長を続けている。
レーヴァテインと深い関係があるらしい?
また、ずっと待ち続けている相手がいるらしい。
まさかの騎士団長の爆弾発言!?
これちょっと変えたら、
「お父さん!娘さんを僕にください!」
「私より3倍も長く生きていて、さらに幼少期に私の子守をしてもらった男にうちの娘はやらん!」
状態になるのでは?(笑)
*先王の命令で実はギルは騎士団長兼アレクサンドラの子育て(子守り)もしたことがあるという育メンなのです。
さてさて、はたして騎士団長の真意とは!?
次回をお楽しみにです。