1.出会い
初めまして。
この度、処女作となる『薔薇姫と龍の騎士』を書くことになりました。
拙い文章になると思われますが温かい目で目て頂けると嬉しいです。
夢を・・・見ていたんだ。
円形闘技場、満員の観客、その中心で戦う1匹の龍。
欲しい、と思った。
アレは私のモノだと。
だから手に入れる。
なぜならばこれは運命なのだから。
ヴィルヘルム王国内の東に位置するコロサスという街は決闘都市として有名である。
そしてそれを象徴するかのように都市の中心には巨大円形闘技場・・・コロッセオが鎮座している。
「ほぅ、噂で聞いていた通りの盛況だな。参加は自由、となっていることだし私も出場するか」
「ほっほっほ、ご冗談を。貴女様はご自分の立場を十分に理解されてから発言されて下さいませ。それに今回は『買い物』に来たのでしょう?」
「それもそうだな。それで?目当てのアレはまだなのか?」
「次の試合ですよ。アレはいつも最後の華として登場しますから」
コロッセオの観客席の中でも特別階級の者しか使用できないVIP席を貸し切った状態で闘技場内を見降ろしている2人は明らかに異質だった。
燃えるような赤き髪と瞳を持ち、最上級のボルドーで染めたかのような深紅のドレスを身にまとった女性と、銀髪青眼で執事服を着た老人。
彼女の事を国民はこう呼ぶ・・・『薔薇姫』と。
それは彼女があまりにも赤に愛され、高貴な存在だということを示しているからだ。
「おお!出て来たぞ!ふむ、聞いていたよりも若そうだな」
「龍の子、15歳、男性。火龍の血をひく龍人族です」
「龍の子?それがあいつの名か?」
「はい。彼はどうやらこのコロッセオをオーナーに買われる前の記憶をなくしてしまっているようなので。名無しでは呼びにくいと言う事で龍の子と呼んでいるそうです」
「何故名前を付けないんだ?その方が呼びやすいだろうに」
「それは契約になってしまうからですよ」
「契約?」
「それはあとで話しましょう。試合が始まりますよ」
そう言われ闘技場を見てみると龍の子と呼ばれる少年と、檻の中で棍棒を片手に息を荒げているミノタウロスが今まさに死合おうとしていた。
コロッセオではハンター達の腕試しとして使われる他に、見世物として奴隷やモンスターをコロッセオが所有する剣闘士と戦わせるショーも行われているのだ。
そして本日の最終試合となるのが、龍の子vsミノタウロスというカードだった。
5年前から変わらない日々を過ごしている。
自分の名前も、親の顔や名前も、どこに居たのかも何も思いだせない。
気付けば知らない場所に居て、オーナーに買われていた。
幸いなことにオーナーは自分に名前を付けなかった。
その代わり、『龍の子』と呼ばれた。
オーナーはとても優しい人だ。
ちゃんと3食食事を与え、さらに寝床と、戦う相手も用意してくれる。
龍人族は戦いを至上の喜びとする戦闘民族である。
だから2日に1回戦わせてもらえる状況に満足していた。
欲を言えば毎日戦いたいのだが、それでは他の剣闘士の出番がなくなってしまう、ということで2日の1回となっているのだ。
少年はコロッセオの地下にある檻の中で壁を背に座って休んでいた。
今日戦ったミノタウロスはなかなかに好敵手だった。
やはり犯罪奴隷と戦うよりも、モンスターと戦った方が殺りがいがあって楽しいと思う。
少年がミノタウロスとの戦いを思い出して耽っていると地下へと続く扉が開き、足音が近付いて来るのが分かった。
誰だろうか?
足音からして女性と男性?
またアノ話だろうか?
それならば断る。
自分は戦士なのだから。
そう思って鉄格子の先を睨んでいると真っ赤な女性と、執事服の老人が現れた。
一体こいつらは誰なのだろうか?
「お前が龍の子か?」
「・・・人に名を尋ねる時はまずは自分から名乗るのが礼儀だと聞いたが?」
「それもそうだな。私はマリア・フォン・ヴィルヘルム。この国、ヴィルヘルム王国第1王女にして、今日からお前の主人だ」
はぁ?
一体どういう事だ?
自分はこのコロッセオの誇り高き剣闘士であり、それは死ぬまで一生そのままのはずだ。
それなのにこの自称王女は今日から自分が主人だとほざく。
はっきり言っていい迷惑だ。
さらにいうと龍人族という希少種から欲しがる金持ちやコレクターが多いが、法外な金額を聞いて渋々帰っていくのが常のはずだ。
それなのに主人だと自信満々に言い放つと言う事は・・・金にモノを言わせて買ったのか?
「姫様、色々と説明を飛ばし過ぎですぞ。初めまして、龍の子殿。私は姫様にお仕えする執事のエドガー・グレイスと申します。以後お見知りおきを」
「さてと、早速だがすでにお前の名前は決めてあるんだ。先程のミノタウロスとの一戦を見ていて思いついたのだが、今日からお前の名は・・・」
「おい、ちょっと待て。その前に確認させろ。俺はあんたに買われたのか?」
「そうだ。金貨5000枚、それがお前の金額だった。まったく馬鹿げた金額だとは思わないか?たかが金貨5000枚だぞ?お前にはもっとそれ以上の価値があると言うのに安過ぎだ」
そう言って文句を言っている自称王女を見ながら少年は警戒心を解かないままでいた。
その話が本当ならば買われたことにより自分はコロッセオから去らなければならない。
そして自称王女ということは城に連れて行かれるのだろうか?
「俺を買ってどうする気だ?戦争の駒にするのか?」
「ふむ・・・それも面白そうだな。だがとりあえずはもっと強くなってもらう。我が国の騎士団長はお前と同じ龍人族の男だ。だから彼にお前を鍛えてもらう予定だ」
自分以外の龍人族!
それを聞いた瞬間に立ち上がっていた。
戦いたい、自分以外の龍人族に会いたい、もっと強くなりたい。
その思いが心を支配する。
最初は乗る気ではなかったが龍人族の男の元で鍛錬ができるのだと分かれば話は別だ。
どうせ50年くらいだろう。
それならば強くなる為に利用させてもらおう。
「分かった。ただし条件がある」
「ん?なんだ?」
「買われたと言う事は俺はあんたの奴隷になるのか?」
「名目的にはそうなるな」
「分かった。ならば条件は1つだ。同じ奴隷でも性奴隷ではなく、戦奴隷として接してくれ。その条件を飲むならば俺はあんたの奴隷になる」
「っ!?ふふっ・・・あはははははは!何それ変なの、貴方面白いわね!」
何が可笑しいのだろうか?
王女は目に涙を浮かべる程に爆笑していた。
あと口調が変わった気がしたのは気のせいだろうか?
これが素か?それならば何故あんな高圧的な口調を演じているのだろうか?
不思議に思い、王女の隣に立つ老人に目を向けると彼もまた可笑しそうに笑っていた。
コロッセオの外の世界の住人は笑いの沸点が低いのだろうか?
「くくくくく、姫様、口調が戻ってますよ。それにしてもまさかそれが唯一の条件とは。まったく龍人族の戦闘狂具合には驚かされますね」
「なっ!?戻ってたか、くそっ油断した。・・・その、何だ今の事は忘れてくれ」
「それは命令か?」
「いや、お願いだ」
「・・・分かった。今の事は忘れる。それよりも俺に名前を付けてくれ」
「ありがとう、感謝する。そうだったな、お前の名前は・・・『レーヴァテイン』だ。神話に登場する神炎の剣の名だ。お前の戦いを見た時から決めていた。その・・・気に入ってくれるか?」
レーヴァテイン
まさか剣の名が自分の名前になるとは驚きだが、それはそれで良しとしよう。
なにより火龍の血を受け継ぎし一族である身としてはこれほどまでに誇らしい名はないだろう。
そう思った少年は・・・レーヴァテインは王女マリアの前に片膝を着いて跪くと頭を下げた。
自分には記憶がない。
だが体に流れる龍の血が教えてくれる。
名を与えられる事は契約の証なのだと。
「我は誇り高き火龍の血を受け継ぎし龍人族の者。我が主マリア・フォン・ヴィルヘルムに今この時より変わらぬ忠誠を誓う。主から賜りし名は神炎の剣『レーヴァテイン』。この居身朽ち果てるその時まで龍の契約の名の元、我は主の剣となり、盾となろう。・・・・・・よろしく頼む、我が主」
見上げる先にあるのは満足そうな主の顔。
そしてその隣に立つ老人の意味深な笑み。
はっきり言おう、この老人は絶対に敵に回してはいけない。
絶対に腹黒そうだから。
「そう固く呼ぶな、レティ。私の事は気軽にマリーと呼ぶと良い」
「レティ?」
「そう、お前の愛称だ。レーヴァテイン、だと長いだろう?だから呼びやすくレティにしてみた。さてと、爺や檻の鍵を開けてくれ。さっさとこの辛気臭い所から出るぞ」
「仰せのままに」
持っていた鍵で檻を開けたエドガーに礼を言いながら檻を出たレーヴァテインは不思議そうな顔でマリアを見ていた。
自分の記憶が確かならば奴隷とは首輪や足枷を付けるモノだ。
だがそれらをマリアが持っているようには見えない。
持ってくるのを忘れてしまったのだろうか?
「俺に首輪を付けないのか?」
「契約を結んだから必要ない。それと、確かに私はお前を戦奴隷として買ったが後々は私直属の近衛騎士になってもらう予定だ。だから周りにお前が奴隷だということを知らしめる必要もないからな」
「・・・あんた王女なのに良い奴だな」
「なっ!?失礼な奴だな。私はこう見えても民想いな良い王女だぞ。勿論、父様や兄様も民想いな良い人だから安心しろ」
褒められたのが嬉しいのかは分からないが耳を赤くしたマリアはそう言うと地上に上がる階段を目指して先に歩き始めた。
どうやら王女様は照れ屋なようだ。
そう思って静かに苦笑していると相変わらず意味深な笑みを浮かべるエドガーが小声で耳打ちをしてきた。
「姫様は照れ屋さんですから、からかって遊んだら楽しいですよ」
「あんたあいつの執事だよな?」
「ええ、勿論。こんな老骨を傍仕えにするなど姫様も酔狂な方ですよね。さてさて、儂らも行きましょうか」
「あんたの事は何て呼べばいい?」
「エドガーで構いませんよ、レティ殿」
「分かった。外の世界の事は分からない事だらけだから色々とよろしく頼む、エドガー」
「何を2人で話している!早く来い!城に戻るぞ!!」
「ちなみに今のを訳すと、『2人だけで仲良く話してるなんてずるい!城に戻ったらいっぱいお話しようね!』と、言った感じですかな?」
「なるほど、そう捉えることもできるのか」
コミュニケーション能力が低いレーヴァテインにとってなかなかにハードルが高そうだが、それを考慮くするのも楽しそうだ。
それに早く城に行って自分以外の龍人族に会ってみたいし、それに戦いたい。
エドガーの後ろについて歩きながらレーヴァテインは好戦的な笑みを浮かべたのだった。
*****
~登場人物紹介~
*マリア・フォン・ヴィルヘルム
ヴィルヘルム王国第1王女で、歳は18歳。
燃えるような赤き髪と瞳を持ち、最上級のボルドーで染めたかのような深紅のドレスを身にまとった女性。
基本的に赤色を好み、髪や赤いドレスの色から『薔薇姫』と呼ばれ、民から親しまれている。
身内のみが知っているが実は予知夢を見る事ができ、今回レティを迎え(買い)に行ったのもソレによるもの。
だがミノタウロスと戦っている雄姿を見ている内に惚れてしまい、『あいつを絶対に私のモノにする!』と決意すると共にレーヴァテインという名前も即決めしたという行動派王女様。
レティに絶賛片思い中で、エドガーのことは頼りになる爺やと思っている。
*レーヴァテイン
コロッセオの剣闘士で、15歳の少年。
10歳の頃にコロッセオのオーナーに買われ、それからの5年間を剣闘士として戦いの日々を過ごす。
記憶喪失である為、自分の名前や過去を知らず、その為『龍の子』と呼ばれていた。
龍人族の契約の事は体に流れる火龍の血が教えてくれた。
会話が出来る訳ではなく、脳内に情報が流れるようなイメージである。
マリアの事は物好きな女、エドガーの事は敵に回してはいけない腹黒じいさん、と思っている。
*エドガー・グレイス
マリアに使える老執事で年齢不詳。
見た目が銀髪青眼で一見物腰が優しそうな老紳士だが、実は腹黒。
レティが本能で察知した通りいろいろとぶっとんでる最強爺。
表向きはマリア専属の執事だが、裏では暗部統括責任者も担っている。
探ってみると闇が深いある意味要注意人物。
敵に回したらダメ絶対Np.1じじい。
マリアのことは孫のように可愛がり、レティのことは新しいオモチャだと思っている。
ツンデレって難しい、あと姫様一目惚れとかチョロイン疑惑が?
はい、というわけで主要人物である王女マリアと龍人族のレティの登場です。
実は何気に出番の少なかった最強老執事エドガーさんはネタ要員として色々とチートってます。
それは後々分かって行くのでお楽しみに。
ここまで読んでくささり、ありがとうございました。