閑話 おっさん、決闘をする
何とか書きあがった・・・
先頭描写難しいです
おれは男の注文である『魚のみそ漬け焼き』を無事に完成することができた。それをカエデちゃんに渡し配膳してもらい、勇者を追って表に出る。そこにはイライラしている勇者と冷たい視線をこちらに送るハーレム要員がいた。
「やっと出てきたか、さぁ決闘を始めよう!」
勇者は右手に聖剣を抜き、左手にはアダマンタイトの盾を装備しながら言ってきた。どうやら彼のスタイルはオーソドックスな前衛型であるらしい。前に聞いた男の話では剣は騎士に習ったそうだから守り重視なのかもしれんな。そんな勇者をみつつ俺は一声かけた。
「まぁまて。立会人がいるだろ? おい、男! 責任もって立ち会えよ!」
俺が声を張り上げて呼ぶと、男も渋々ながら酒とつまみを両手に表に出てきた。
「仕方ねぇな、けしかけたのも俺だし立会人になろう」
「当たり前だ。たまには仕事しろ!」
「うっせ、せっかく楽しく飲んでんだ、ほらお前も準備しろ」
そういわれて俺も戦闘準備に入いった。アイテムボックスから戦闘用の純白の前掛けを取り出し今の物と付け替え、さらにすりこぎを右手に持ち、左手にはフライパンを持つことで装備が整った。
「なっなんだそれは! バカにしているのか?!」
勇者はこちらを罵倒してくるが男は『ヤベェ!』と冷や汗を垂らしている。俺もさすがに勇者との決闘でふざける気はなく、この装備は俺の手持ちの中では最上位に位置するものなのだが...
「おっおい大将、お前マジだな?!」
「当たり前だろ? うちの看板娘にコナかけてんだ、しかも女連れで。保護者として、いや男としてちぃとばっかりお灸をな。まぁこういうお仕置きをするのもおっさんの役目であり、楽しみなんだがな」
「そりゃそうか、まぁ今の坊主にはちっときついお仕置きが必要だしな。わかった、じゃあ決闘を始めよう!」
そう言って男は俺と勇者との真ん中まで行き、声を高らかに宣言を行う。
「諸君! これよりマコト・カンザキ名誉公爵の名のもとに、勇者ヒカルと英雄カルロの決闘を行うこととする!」
『『『ワーーー!!』』』
「双方準備はよいか!」
「俺はいいぞ」
「バカにしやがって! ぜってぇ倒す!」
カンザキ名誉公爵はゆっくりと俺たちの真ん中から後ずさり、決闘の開始を宣言した。
「では! 決闘を始めよ!」
決闘が開始されてすぐに勇者は聖剣を振りかぶり前へ突っ込んでくる。彼の持つ聖剣は代々の勇者が魔王を打ち倒す為に受け継がれたもので、魔王に特攻の効果がある。それ以外にも切れ味は本物で、そこら辺のダンジョンから発見される魔剣なんぞ一刀両断できたりする。何が言いたいかというと、聖剣ってのは世界で上位の剣であるってことだ。
「おぅ、威勢がいいな。しかし、この程度のことで頭に血を登らして特攻とは若い若い」
左手に持った『神器』フライパンで聖剣を受け流しながら右足で蹴りを足元に放つ。当たり前だが、俺が持っているフライパンはただのフライパンではない。食の神より授かった一品で、どんなに食材が焦げ付いても洗えばたちどころにきれいになり、そのうえ匂いも風味もまったく付かない。あとおまけに聖剣ごときでは傷もつかないので金属製のフライ返しも使えるすぐれものである。ついでに魔法も反射したりできる。
足元にはなった蹴りは避けられ、受け流した勢いのまま勇者は飛びのいた。その顔には苦い表情が浮かんでおり、『なんでフライパンでうけれるんだよ?!』と言葉を吐いていた。
「おら!勇者の力はそんなもんか? もっと力入れてかかってこい!」
「なめやがって!」
俺は勇者を軽く挑発する。俺としてはさっさと倒しちまっても構わんのだが、カンザキ名誉公爵からは『鼻っぱしをへし折れ』ご指示をいただいているわけで、まだまだ付き合う必要があるのだ。
勇者は再度聖剣を構え、今度慎重に間合いを測りつつ接近してきた。さすがに魔王との戦闘を経験してきた勇者は、こちらがただの食堂のおっさんではないと理解したようだ。まぁこの時点で気づいたんだが遅すぎるので100点中20点というところか。
「ほらほら、かかってきなよお坊ちゃま!」
「俺はお坊ちゃまじゃない!」
俺の挑発を受けつつ勇者は再度大ぶりな一撃を放つ。ふむ、スピードもパワーも悪くない、惜しむらくは重さがまったくないな。俺はそう思いつつ、フライパンで聖剣を受け止めはじき返し、ついでとばかりに『御神木』すりこ木でわざと勇者の盾を軽くぶったたく。
「ぐぅっ!おっ重い?!なんですりこ木の軽い打撃がこんなに重いんだよ?!」
勇者は3メートルほど両足で地面を削りながら後退させられた。
「あったりまえだ。こちとらこの世界に生まれてからの積み重ねがあり、何よりもカエデちゃんを守ると心に決めてるんだ。お坊ちゃんとは武器に込めてる信念の重さが違うんだよ!」
「なっ何を! 俺だってカエデを救うために戦っているんだ! 俺の攻撃がそんなに軽いわけがない!」
そう言いながら勇者は聖剣をがむしゃらに振り回す。最初のころは騎士に習っていたんだろうが、修行を怠っているのが目に見えるほど剣筋がなってない。少なくともこんな信念もこもっていないような攻撃をしているようじゃ、カエデちゃんを任す男としては不合格である。
さて、先ほどから『信念がこもっていない』と言っているが、ここでこの世界の武器について説明しておこう。この世界では武器にはクラスと呼ばれる階位が存在する。上から順に、神話級、伝説級、超越級、上級、中級、下級となっており、聖剣は伝説級の武器である。
この階位は攻撃時に込められる魔力で決定しており、これによって攻撃力が変わっているのである。もちろん魔力を碌に込められないものが上位の武器を使用しても、大した威力を発揮することができない。
また、魔力の量を限界まで込めたうえで威力をさらに上げるには、魔力に強い意志を込める必要がある。この意思を十分に籠めることができればとても『重い』斬撃が放つことができるのであるが、実力上位者の戦いにおいて意思を込めれないということは武器を十全に使えていないということである。
つまり、勇者は聖剣にある程度の魔力は込められるのだが、全く意思を込めることができていないため、俺のフライパンに簡単にはじかれてしまうのである。十分に意思を込めれていれば、いくら神話級のフライパンでもここまで簡単にはじくことはできない。
「軽い軽い。これならまだ召喚された当初のほうが意思がこもってたな。たく、どこで腑抜けになっちまったのか・・・」
「うるさい! 俺はカエデを取り戻して、みんなで幸せに暮らすんだ!」
「はぁ、ヒカルの坊ちゃんよ、現実を見な。勇者、勇者とおだてられて、勘違いしているみたいだから教えておこう。確かにお前さんは勇者だ。でもな、勇者だから最強ってわけじゃないんだぜ?」
「いや! 俺は勇者なんだから俺より強い奴はいないんだ! だからカエデは俺の隣にいるのがふさわしいんだ!」
勇者は叫びながら聖剣を構え、俺のほうへ突撃してくる。俺のほうもフライパンを盾にして受けるが、やはり聖剣に意思がこもっていないため簡単にはじく。
さらに盾で殴り掛かってきているがそっちはすりこ木で弾き飛ばし、斬撃を繰り返してくるがすべてはじき返す。
「さて、そろそろ終わりにするか」
俺は男のほうを見てみると、男もうなずいていた。全くもって嫌な役回りではあるが、これも若人の未来のために、間違った自信を打ち砕いてやるのもおっさんの役目なのである。
「ほら、今度はこちらから攻めるぞ!」
「何?! ガハァッ!」
俺は手に持ったすりこ木で勇者の持っている盾を強打し粉々に打ち砕いた。そして連撃とばかりに鎧を滅多打ちにして砕いてゆく。
「ほらほら、ちゃんとよけないとだめじゃないか!」
「ばっバカな! なんでただの木でアダマンタイトの盾が砕け散るんだよ?! 鎧だってオリハルコン製なんだぞ?!」
勇者はボロボロになりながら躱そうとしているが、俺もそれを先読みしじりじりと体力を削ってゆく。
「勘違いしているようだが、このすりこ木は神話級の武器だよ?この世界の創造神自らが御神木から削り出して作成したとされる『聖棍』すりこ木だ。ちなみにゴマをすりつぶすのにも使えるけど、こいつの威力に耐えられるすり鉢がなくて困ってるんだよ」
「ハァ?!」
俺は聖剣を壊さないように慎重にすりこ木ではじく。さすがに聖剣を壊していしまうと教会のお偉方がショック死しかねないからな。
勇者は鎧や盾もすべて砕かれてもはやぼろ雑巾のようになっている。
「さて、もう勝負はついた思うがまだやるかい?」
「何で?! 何で下町の食堂のおっさんがこんなに強いんだよ! 理不尽だろ?!」
「そういわれてもな。こちとらこの世界で80年戦ってきたんだ、これくらいは出来る様になるさ」
「なら、何で魔王を討伐しなかったんだよ! どう考えても魔王より強いじゃないか!」
まぁぶっちゃけた話、魔王の討伐は俺や男に掛かれば倒すことは全然余裕でできる。ただとどめを刺すことはできないのだ。その上、魔王を倒すとパワーアップして復活するため俺たちが倒すとどんどん魔王は強くなってしまうという厄介な性質を持っている。そしてその性質を打ち砕けるのが聖剣であり、それを装備できるのが勇者である。俺たちが聖剣を持っても、性能を引き出せないため勇者を召喚する必要があったわけだ。
ちなみに俺たちが勇者一行についていかなかったのは、俺たちがこの国の最高戦力で周辺諸国に攻め入らせないためである。この国は小さいながらも経済的に豊かで周辺諸国からは狙われており、俺と男がいなくなれば速攻で攻め入られる可能性が高いのだ。
「ま、その辺の事情はカンザキ名誉公爵に後から教わりな。さて、お客さんを待たすのも駄目なんでそろそろ最後の一撃とするかね」
「クソッ!俺は勇者だ、勇者に負けはないんだ!」
勇者は聖剣を両手で上段に構え、魔力を充填し始めた。まぁここで大技の準備を阻止してもしらけるだけなので俺は準備が完了するのを待っていた。
そうこうしていると最後の準備が整ったようで、聖剣から金色の魔力光が激しくあたりを照らしている。
「これが俺の最大必殺技だ!『秘剣・究極聖光飛燕斬撃刃!』」
技名と共に聖剣が振り下ろされた。聖剣からは金色の斬撃が俺に向かって放射され地面を抉っている。
まぁ今までの攻撃の中ではそれなりの威力ではある。しかし、俺とて英雄と呼ばれるぐらいには力を持っているのだ。
「ほうほう、まぁまぁの威力だな。はいお疲れさん!」
そういって俺はその斬撃をフライパンで打ち上げた。
「は?」
勇者から間抜けな一言が漏れる。まぁ仕方ないとは思うが・・・
「だめだな、これくらいのこと気を抜いちゃいかんぞ?ほれ、お仕置きだ!」
俺は勇者に一気に近づき右こぶしを握ってそのどてっ腹に叩き込む。
「勝者、英雄カルロ!」
カンザキ名誉公爵から勝負ありの宣言が入り決闘は終了した。まぁ本来の決闘と違い相手が死ぬ前でとか、名誉のためにとかではないしこんなもんである。
「グフ、おっ俺まだ負けてなんか・・・」
そう言いながらまだ立ち上がろうとした勇者にとどめの一撃が入った。
「大将! 追加の注文入りました~ってヒカルまだ居たの? いい加減諦めてよ。私は勇者のハーレムメンバーになりたくないの! あと自分のハーレムぐらいちゃんと面倒見ないとそのうち後ろから刺されるわよ? まぁ生きている間に私が間に合えば治療ぐらいしてあげるから」
「カエデ! 愛しているんだ! だから・・・」
その愛の告白を聞いた癒しの女神が勇者へゆっくり近づいて行き、優しい笑みを浮かべつつ右手を動かす。そして、
「ヒカル... 寝言は寝てから言うから寝言なんだよ? あと私が愛してるのは前田のおじちゃんだから!」
あげ切った右手に拳を握り、その拳を勇者の脳天へ容赦なく突き下ろす!
「グベッ」
勇者は地面に突っ伏したまま動かなくなってしまい、その周りで勇者ハーレムのメンバーが慌てて介護しようと取り巻いている。
「ガハハハッ! カエデの嬢ちゃんも思いっきりがいいねぇ、こんな公衆の面前で愛の告白とは」
その言葉に当の癒しの女神さまは腰に手を当てて悠然と言い放つ。
「だってこの朴念仁の時にさんざん思い知ったもの。思いを胸に秘めて気付いてもらえるのを待つだけじゃダメなんだって、だから私は積極的にカルロさんの正妻の座をもらいに行くの!」
「こりゃ大将も年貢の納め時か。まっこれはこれでいい夫婦になるのかもな。さて、中に入って飲みなおすか、カエデちゃん! 生一つと枝豆急ぎで!」
「は~い、すぐお持ちしますね~!」
そう言って客たちは店の中へ入ってゆく。後に残されたのは地面に這いつくばってる勇者とその一行、それに公衆の面前で愛の告白をされた大将だけだった。
「おい、なんだこれ! 勇者と決闘したらいつの間にか勇者の幼馴染取ったことになっちまったよ?!」
妄想話がもうちょっとだけ続くんじゃよ?
でも遅筆なのでのんびり待ってください!




