爆誕! 看板娘の女神様!!
さらに月日がたち勇者召喚から時が流れ、カエデちゃんが18歳になったころに魔王が討伐されたと噂がながれた。まあ、その噂が真実であることを俺と男は知っているんだが、そんなことより困ったことになっている。
『いらっしゃいませ~!』
『おう、カエデの嬢ちゃん。取り敢えず生で!』
『はい! 大将!生一つ入りました~!』
そう、何故かうちの食堂で癒しの女神『カエデ・トウドウ』が看板娘をしているのである。普通に考えたら教会の教皇様が憤死するようなことが今ここで起こっており、俺の最近の悩みである。
事の起こりは1週間ほど前にカエデちゃんが大荷物をアイテムボックスから出しながらこういったのが始まりである。
『カルロさん! 魔王を討伐してきたのでここに置いてください!』
『・・・はぁっ!?』
それは俺が仕込みをしているときにカエデちゃんが来てとんでもないことを言ってきたのだった。俺としては最近店が忙しくなってきたのでお手伝いでも雇おうかと先日カエデちゃんに漏らしていたが、それに反応してやってきたのではないと信じたい。だが、カエデちゃんの目を見ると冗談で言っているわけではないようなので事情を聴いたところ、さらに頭を抱える羽目になった。因みにこのとき男がまた『トンコツラーメン食いたい』と言って、奥で寸胴鍋をかき回していたため一緒に聞くことになった。
『カエデちゃん、魔王討伐できたのはいいことだけど、あの、ヒカル君はどうしたんだ? 一緒に帰ってこなかったのかい?』
『ああ、あの色悪ですか? 一応魔王討伐までは一緒に行動はしましたけど、もうどうでもいいです』
『いや、仮にも勇者様なんだから・・・』
そう言った男の言葉を聞き、カエデちゃんは腕を組んで重々しく声を吐き出した。
『12人、12人のハーレム野郎なんか色魔で十分でしょう?しかも最後の一人は魔王ですよしかも見た目10歳の!?流石に面倒見きれません』
『『はぁっ!?』』
『なのでヒカルのことはずいぶん前から距離を置いていました。さすがに魔王をハーレムに入れたことで愛想が尽きましたけど、もう死ぬようなこともないと思ったから勇者PTから抜けてきました。』
俺たちは開いた口が塞がらないまま続きを聞きました。
『しかも、ヒカルのやつ全員に手を出したんです。魔王がハーレムに入ってその夜に魔王城の寝室でみんなを集めて「14Pしよう」って』
カエデちゃんはプルプル震えながら訴えてきた。
『だから身の危険を感じたので荷物をまとめて帰ってきました。もう、教会や王族とかと絡みたくないのでここに置いてください!』
頭を下げてお願いしてくるカエデちゃんをみつつ俺はほほを掻いた。
『そりゃぁ苦労したな。だが独り身の男の家に転がり込むのはだめなんじゃないか?』
そういってたしなめようとしたんだが男から待ったの声が入った。
『確かに普通に考えればそうなんだが大将、お前さんが引き取ったほうがいいと思うぞ?』
『なんでだよ。さすがに若い娘さんを一緒の屋根の下は世間体的にまずかろうよ』
『大将、彼女は勇者PTの癒しの女神さまだ。放っておくと協会が抱え込もうとして拉致監禁するかもしれんし、もっと悪いことに奴隷として所有しようとするバカが出てくる可能性もある。だから力ある者のここに置いてやったほうが安心だぞ』
俺は男の話を聞きなるほどなと思ったが、それなら男の下でもいいわけで、わざわざ独身男性のところに身の危険をさらしてまでくる必要はないとおもった。そのことを言おうとカエデちゃんへ視線を向けると、こちらを見て微笑んでとどめの言葉をいただいた。
『カルロさんは依然、私のことを家族のように思っているって言ってくれました。だから私は前田のおじちゃんを信じて頼ることにしたの。お願いです。私をここに置いてください!』
その言葉を聞き、俺は降参だというように両手をあげて了承の意を返すことにしたのだった。
この日、下町の食堂に女神の看板娘が誕生した。それを知った教会のお偉方は卒倒しかけたがそれは仕方のないことだろう。さらに王宮も混乱したが不思議と下町の人々は平平凡凡としていたそうだ。まあこの女神、よく下町で酔いどれていたのをよく目撃されていたのでその功績のなせる業だったのだ。
そして数か月後、ついに勇者が王都へ凱旋した。勇者の周りには12人の美女美少女美幼女が並び立ち、それはそれは見事なハーレム勇者の姿であった。しかし一緒に旅だったはずの癒しの女神の姿が見えず一部の関係者以外は不思議に思っていた。そのころ当の癒しの女神さまは下町の食堂で芋を一心不乱に剥いていたのだが…
で、その夜に起こったわけだ。歴史上初めて記される、『勇者と女神の痴話げんか』事件が・・・
「ちょっとヒカル!営業妨害になるからかえって!」
「目を覚ましてくれカエデ!君の居場所はこんな大衆食堂じゃない、俺ら勇者パーティーの仲間としてみんなの助ける旅をすることなんだ!だって俺達幼馴染じゃないか」
「えぇヒカルとは幼馴染だし以前は恋焦がれたこともあるわ。でもね、気づいてしまったのよ・・・」
「さすがにハーレムはないわ。それも12人とか、日本人の感覚からして百年の恋もさめるわ!」
表から聞こえてくる痴話喧嘩を聞きつつ『今日も平和だな』と現実逃避をしつつ料理を作る、俺はただの転生者にして下町の食堂の店主だ。
もしかしたらエピローグ的な何かを書くかもしれませんがここで完結とさせていただきます。