おっさん、ハーレムについて語る
勇者達との邂逅から3ヶ月ほど経った。勇者パーティーはその間ダンジョン攻略をしていたそうだが俺には関係なく、日々忙しく食堂を運営していた。特に最近では勇者の訪れる食堂として有名になってきておりてんてこ舞いだ。
特にカエデちゃんは一人でたずねてきては俺に料理を教わり一生懸命に練習していて、理由は幼馴染に旅先で食べてもらうためなんだとか。まこと良い嫁さんになれる娘だ。
『そう、こうして面取りすると煮崩れが防げるんだ』
『なるほど』
ちなみにアマミヤ君もよくご飯を食べにくる。宮廷料理は毎日食べると庶民の俺達には飽きが来るとの事で、やはり日本人高校生は丼とかカレーのようにガッツリとしたものを食いたいらしい。
そんなこんなでついに勇者パーティーが本格的な魔王討伐の旅に出て行った。俺は餞別として日本食材を山のようにプレゼントしのだった。
そして時は過ぎ、客足も勇者が旅立ったということで落ち着いてきた。まぁ、男は普通に通ってくるがいつものことだ。
時折男が無茶な注文をしてくる以外は平穏無事な毎日で、何ヶ月かした頃にカエデちゃんがひょっこり訪ねてきた。理由は食材を分けてほしいとのことで、どうやって来たのかと聞くと『空間転移を覚えました!』と胸を張って教えてくれた。
これには男と俺も落ち込んだ、だって俺達がそれをできるようになったのはもっと修行を積んでからだったのだ。まさか1年やそこらで使えるようになるとは・・・
できるようになったのはしかたないとして、まさか食材確保のためだけに空間転移で帰ってくるとは恐れ入ったものである。
『そんな無茶して大丈夫か?』
『だって地方の村とかでは食事がおいしくないんだもん』
と、可愛らしく膨れていっていたが、俺達はその美味しくない食事にウン十年付き合ってきたんだがなぁ・・・
これを契機にカエデちゃんは頻繁に顔を出すようになったんだ。
それから2年ほど頻繁にカエデちゃんは通ってくれたんだが、最初のほうは嬉しそうに食材を買って行っていた。しかし暫くたつと偶にお酒を飲んでいくようになり、愚痴を聞くはめになった。まあ愚痴の内容は惚れた腫れたの色恋沙汰の暗い部分で、前世も今世も居酒屋家業の俺にはよく聞くないようだ。
何でもアマミヤ君はいろんな娘をパーティーに入れているそうだ。で、それだけならよかったんだが、女の子のほうが惚れており一種のハーレム状態なんだとか。それを横で聞いていた奴隷ハーレム男が
『なんだ、やっぱり召喚勇者ハーレムか。テンプレだな』
との賜ったのを聞いてカエデちゃんがの愚痴が噴出した。ちなみに引き金引いた男は知らぬ存ぜぬで避難して酒を飲んでいる。俺も避難したいが小さい頃から知っているのでしかたなく、聞いて宥めてヨイショしてとなった。
『おじさん、聞いてくださいよ! ヒカルったら折角好物のからあげ作ったのに他の娘を呼んであげちゃうんですよ!でもその娘も食べたら美味しいって行ってくれるからいいんですけど、私が作ったから揚げで「あ~ん」はないです......』
『ヒカルったらまた女の子拾ってきたんです。今度はエルフの弓手でとってもグラマーなんです、ヒカルは大きいほうがいいのかな...』
『う~、折角ヒカルと二人っきりになったのに、そして告白したのに、何で聞こえない振りをするのよ~』
などなど、恋に生きる乙女は日々大変、しかも相手は鈍感難聴無自覚ハーレム主人公と来たもんだ。俺も男も不憫なものを見る目で愚痴るカエデちゃんを宥めていたもんだ。
そして時は巡り、カエデちゃんはどんどん暗くなってきた。愚痴はどんどん重くなるばかりで、偶に明るいと思うと次にはどん底になっている、あれだなアマミヤ君が持ち上げて難聴か鈍感で乙女心を叩き落してるんだな。
最後のほうには
『おじさん、ハーレムってどう思います?』
『俺はこっちに来て長いからな。別に養えるなら良いんじゃないか?』
『でも私は私をちゃんと見てくれて、浮気しない人が良いです』
『なるほどな。日本人感覚ではそうなっちまうよなぁ。俺はすでに子供を立派に育てたから結婚・ハーレム願望はないが、この世界は女があまり気味なんだよ。だから男が複数で結婚しないとダメなんだ、後は生んで増やさないとすぐ人口が減っちまうんだよ。と、言っても納得できないんだろ?』
『うん。説明の意味は納得できるけど・・・』
『じゃあ、ゆっくり考えな、自分はどういう形が良いのかと。俺もこっちに来たときはいろいろ考えたもんさ、食材の命を奪う、人を殺す、奴隷について、俺の寿命とかな。結局は自分が考えて結論出してそれに納得がいくようになるしかない』
『......そっか、参考までにおじさんがハーレムについてどう考えたか教えてもらって良いですか?』
『ふぅむ、まあいいか。俺は特にハーレム願望なんざないし結婚願望もない。男と話して考えさせられた時の結果だが、ハーレム要員を選ぶのは俺じゃなくて女房だと思ってる。特に貴族でもない俺たちは惚れた腫れたに日々の暮らしを勘案して集まるんだ。俺との仲より女達の仲がいいほうが絶対にうまくいく、だからハーレムに入れる入れないは女達に任せることになるな』
『おじさんの考えるハーレムって、私が考えてたのと違うね。ヒカルのような取り合いのハーレムかとおもってた』
『まぁ、前世ですでに女房と連れ添った経験があるからな。そうさな、この食堂を女房達と一緒にわいわいやっていけたらそれが俺の理想のハーレムだ』
そういうとカエデちゃんは何か眩しい物見るように目を細めて俺を見ていた。...いかんちょっと恥ずかしいことを語ってしまったな。
この後、2ヶ月ほどカエデちゃんが顔を出さなかったこと意外は平穏無事に過ごしていた。