おっさん、勇者と癒しの女神さまにであう
そして幾許かの時が過ぎ、ついに勇者が召喚されたらしい。伝え聞くところによると黒髪黒目の男女だということと日本語をしゃべっていたとの事なので、男の予想通り日本人だった。
男も最近は王都にずっといるようで頻繁に食堂で飯を食べては勇者達のことを話してくれたので気になって聞いてみた。
『肉じゃがおまち、そういや何でそんなに勇者のこと詳しいんだ?こういうのって結構な国家機密だったりしないのか?』
『ん?ああ、おれ今勇者とその連れの指南役やってるんだよ。正規の剣術とかはともかく、野営の仕方やダンジョン攻略なんかは冒険者の方が勇者向きなんでな。で、国王のおっさんから勇者パーティーがなれるまで子守してくれって指名依頼が来たから同郷のよしみで面倒を見ることにしたってわけだ』
『なるほどな。じゃ俺も同郷のよしみってことで差し入れでもしてやるか。帰りまでに用意しとくから持って行ってやってくれよ』
『ん、わかったよ。しかしこの肉じゃがうめぇな!これには日本酒だな、大将、日本酒出してくれよ』
『ふむ、じゃ最近できたこの端麗辛口「千本桜」でどうだ?』
『大将わかってるぅ!ついでに持ち帰りでたのむ、国王のおっさんに日本酒頼まれてたんだ』
『あいよ、差し入れと一緒に用意しとくわ』
そして俺は唐揚げなどの若者向けメニューを持ち帰りように用意したのだった・・・
勇者への差し入れから2ヶ月ほどたったころ、ついに勇者が民衆の前にお目見えした。大通りをパレードでつっきってそのままダンジョン攻略に赴いてレベルを上げ、民衆に力を示すのだとか。男も付き添いで一緒に行くとかで俺の食堂で料理を片っ端からアイテムボックスに詰め込んでいった。
俺はそのパレード自体は店の仕込みもあって見ていないがな。
半年後、無事に勇者達はダンジョンを攻略して凱旋した。さまざまな魔剣や魔道具などをダンジョンから持ち帰り、民衆の前をパレードしながら王城へ凱旋したのだった。
ちなみに俺はその時、日本食材を仕入れに別の場所へ空間転移していたのでまたしても勇者を見ることが適わなかったのだった。
勇者が凱旋したということは男も帰ってきたということで、こういうときは必ず奴は俺の食堂に飯を食いに来るのだ。
で、いつも様に男が食堂にやってきた、高校生ぐらいの男女を連れて・・・
『よっ大将、無事帰ってきたぜ』
『おう、無事帰ってきたな。で、いつものやつでいいのか?』
『ああ頼む。取り合えず紹介しとくわ、こっちの二人が勇者とその幼馴染だ。ダンジョン攻略中にお前の料理おすそ分けしたら是非とも食べに行きたいってんでつれてきた』
『そうかい、俺はカルロだ。この食堂を経営している、気軽に大将とでも呼んでくれたらいいよ』
『はじめまして、ヒカル・アマミヤです。カルロさんの料理を食べて是非とお願いして連れて来てもらいました』
『はじめましてカルロさん、カエデ・トウドウです』
おや、少女の方の名前に聞き覚えがあるような? まぁ前世で知り合いだったのかも知れないな。
『アマミヤ君とトウドウさんか。注文はどうするね、あいつと同じカレーライスでいいかい?』
そうたずねると二人がうなずいたので俺はカレーライスを3人前用意して配膳をした。男が言うには二人とも日本料理が恋しいということでつれてきたそうで、二人ともぜひカレーライスが食べたかったんだそうだ。
配膳も終わり3人がそれぞれにカレーライスを口に運ぶと、なぜかトウドウさんが涙を流しだした。それでもカレーライスを食べていたので、男が最初に食べたときのように郷愁にかられたのだろうな。なんせこっちに来て初めてのカレーライスだろうし。
みんながカレーライスを2回ほどお替りして食べ終えた頃、トウドウさんが質問してきた。
『大将さん、このカレー私の家のカレーと似てるんですけど何でです?』
『そういわれてもなぁ、俺の前世でやってた食堂で出してたカレーを再現しただけだしな。もしかしたらその食堂のカレーレシピをまねたんじゃないか? 一応企業秘密以外のレシピは配ってたからな』
『・・・そうですか。えっということはもしかして大将って前田のおじちゃん!? 』
『まぁ前世では前田次郎として創作料理屋を経営してたな。50歳まで生きて死んだらしいんだが死因は全然覚えてなくてなぁ』
『私のこと、覚えていないんですか? よくご飯食べに行ってたんですけど・・・』
『ん~さすがにトウドウさんみたいな高校生の可愛い子がうちのような家族向け料理屋に着たら覚えてるはずなんだが、こっちに転生してすでに80年ぐらいだしなぁ』
『私がおじさんの店に行ったのはおじさんが死ぬ2日まえで、しかも私その時は小学校4年生でしたから今とはだいぶ違いますよ?』
俺はその言葉に大変驚いたもんだ。なので記憶を掘り起こしてみると、居た。カエデと呼ばれてうちのカレーライスが大好きな女の子がいたのを思い出した。
『あぁ! 思い出した思い出した、そうか、カエデちゃんか! 長い間見ないうちに随分可愛く育っちゃったなぁ、』
『ごめんなさい!おじさんが死んだの私を交通事故から助けてくれたせいなんです!』
そういってカエデちゃんは涙ながらに語ってくれた。どうも俺の死因はカエデちゃんを助けての交通事故らしく、原因は居眠り運転で歩道に突っ込んできた車からカエデちゃんを抱きしめて跳ねられたからだとか。一応死ぬ間際にカエデちゃんへ遺言を残して最後に『俺のことを思うなら精一杯生きなさい』と言葉を残して死んだそうな。
ちなみに遺言の内容は息子に俺のレシピ帳のありかを伝えただけだったとの事。その後息子夫婦は特にカエデちゃんを責めることなく付き合いがあったそうだ。さすが俺の息子だな人ができてる。
『まぁ俺のおかげで生きてるってんなら精一杯生きてくれればいいさ』
『はい...あの時はお礼もいえなくてすみませんでした。助けてくれてありがとうございます』
そういって深々と頭を下げた後の顔は何か晴々としたものだった、俺の最後の一言が重荷になっていたのかねぇ?
まっ、俺も死因がわかり長年の疑問も解けていい機会だ、秘蔵のあれを開けるか!
『よし!湿っぽい話は終わりだ。秘蔵の日本酒、大吟醸御国の誉開けるから飲んでってくれ!』
『マジか!大将愛してるぜ!』
『私たち未成年ですよ?飲めないです』
『え~、俺は興味あるな』
『気にすんな。此処での飲酒には法律なんてないし、これから勇者やるんなら酒は飲みなれておいたほうがいいぞ。特に初めてなんだったら此処で試しておけ』
『...わかりました。貴族のパーティーで醜態さらすわけにも行きませんしね』
こうして勇者達との縁が深まってしまったのだった。