おっさん登場
俺の名前はカルロ、俗に言う転生者らしい。
というのも、前世である前田次郎の時にはこういったサブカルチャーに触れずに生きてきた男だ。
前世では創作料理屋を息子夫婦と営んでいたのだが、50歳になったのを契機に店の経営を息子に譲り渡して一料理人に戻ったところで死んでしまった。ちなみに死因はわからない。
気が付くとこの世界のエルフ族の赤ん坊として生を受けていたのだが、その後の数年は今でも黒歴史である。さすがに50のおっさんにはリアル赤ちゃんプレイはきつかったとだけ言っておく。
まぁ最初は何がなんだか分からなかったが、取り合えず赤ん坊になったことを受け入れて新たな人生を生きることに決めた後は日々の努力始まりだ。
生まれ直して30年もすると生きるすべを身に着けたはいいが、いい加減我慢の限界に来たのが食生活だ。
どうもこの世界は食料事情がとても悪く、味噌・醤油・米が流通していないどころか調味料が殆ど存在しない。また調理方法も基本煮るか焼くだけと、前世料理人としては許せないものだった。
なので俺は冒険者となり各地を放浪することにして、地球料理を再現することに人生を費やすと決めたのは自然のことだろう。
そして冒険者となりソロランクBとなったときに俺は俺以外の転生者とであった。
その男は女に囲まれたパーティを作っており子供も格一人設けてるような男で、曰く『奴隷ハーレム主人公』と言っていたが俺にはよくわからんかった。
肝心なのは男が俺に対していろいろアドバイスをしてくれて、『無制限のアイテムボックス』『ステータスの振り方』『レベル』『スキル』についてといろいろ教わり、かなり実力が向上し旅が楽になったことだ。
俺は男に『なんでこんなに親切にしてくれるのか?』とたずねると『いい加減カレーライスが食いたい、牛丼でもいい!前世料理人ならぜひ再現してくれ!』と言われた。
この男は俺の同士であった!
出会いから5年ほどパーティに入れてもらい一緒に食材を探しつつ鍛えてもらったので今でも感謝の念が絶えない・・・
この男と別れるきっかけは一冊の本で、その本はのタイトルは日本語でこう書かれていた。
『地球食素材集』
まさに捜し求める情報で、中には日本語で筆者の想いがつづられていた。
『私はこの世界に転生したものだ。故郷の味を求め世界を放浪し、さまざまは食材を発見した。しかし、私には料理の才能と知識がなかった!私はどうしても味噌が食べたかった、醤油で刺身を、丼は最高のはずだ!しかし肝心の調味料が作れないため再現できなかったのだ。私には成し遂げれなかったが私に続くものが現れると信じて食材の情報を残すことにした。見知らぬ同胞よ、この情報で醤油と味噌がこの世界に生まれる日を願っている』
まさに俺にとって最重要情報が詰まった本である。
筆者は俺と同じ転生者ではあるが、最後まで食材を探しながらついには味噌・醤油は作れなかったようだがそれは仕方のないことだろう。
現代日本では完全分業のため一からそういったものを作成する知識がないのが当たり前だからだ。
俺は前世の創作料理屋を経営するに当たって、自家製の味噌や醤油を作っていたし、各種調味料も自作していたが麹菌などは市販のものを使っていた。
だが一応は天然の麹菌などを採取したこともあるので、この世界でも何とかなるとは思っているが。
そして俺はついに得た情報を元に食材を求めるため、パーティからはずれ旅立ったのだった。
ちなみに男の選別言葉は、
『カレーライス、カレーライスだ!ぜひともカレー粉を!!』
と言って両肩をつかみながら目を血ばしらさせて送り出してくれた。
そして俺はさまざまな地をめぐった。
時には一緒に米を収穫し、肉を確保する為に養豚に適した魔物を捕まえた。
その傍らで屋台を開いたりして食の研究も行った。
スパイス類は放浪の末、各地で何とか手に入れることができた。
そして俺には前世で培った料理経験がある。
素材にこだわる俺の料理屋は調味料から全て自作だったためカレー粉すら調合できるのだ!
そして俺はカレーライスを完成させた。
ちなみに各素材の収穫場所は空間転移場所として登録済みである。
この間わずかに3年ほどですんだのは素材集のおかげで、男と再会したときにカレーライスを振舞うと狂喜乱舞して喜んでもらえた。
ただ彼の食べ終えた後に涙を流しながら言った言葉は俺にはどうしようもなかった・・・
「おかあちゃんのカレーとは違う・・・」
やはりカレーの一番はお袋のカレーということか。
そんなこんなで食材のめどが立った俺は、男の進めもあって前世と同じく食堂を経営することにした。
理由はいろいろあるがまずは料理をだして美味しさに気づいてもらい、料理法の浸透を図るつもりなのだ。
ちなみに店を出したのはこの国の王都の中級区で、件の男もここの上級区に居を構えているためちょくちょく店に顔を出してくれる。
『カツ丼うめ~!大将、今度ラーメン作ってよ!背油チャッチャ系のやつがいいな。あスープはトンコツ醤油系で!』
ここは食堂でラーメン屋じゃないのに言ってくるから困ったもだとは思うが、俺も食いたいものを50年近く我慢したので食べたい欲求はわからないでもない。
なので、
『ん~トンコツか。あれは時間かかるしな。せっかくの異世界だ。魔物食材で作っていいなら作ってやるぜ? ただし、食材と人足はお前もちな』
言ってやったら、奴は即答しやがった。
『よっしゃ、SS級冒険者舐めんなよ!ちょっとオークロード狩ってくるわ、後スープ作るの俺も手伝うから!』
そう言い残して店から飛び出していった。ちなみにではあるがオークロードとはA級の魔物で、出現すると小国では対応できず壊滅するレベル。しかもその素材である肉は超高級でとても美味だとか、そんでもって骨は伝説級武器の素材になるらしい。
肉はともかくそんな骨でトンコツスープ作成とか鍛冶師が聞いたら噴飯どころか憤死レベルの所業である。
で、あの男何をトチ狂ったのか『オークエンペラー』を持ってきやがった。
『いや~ オークロード狩ろうとしたらエンペラーが発生しててさ。こりゃ大変って事で嫁さんと子供達総動員して狩って来た。まぁロードの上位種だから食材としては大丈夫!』
問い詰めたい、小一時間ほど問い詰めたいが、問い詰めてもどうにもならないのが転生者クオリティらしいので諦めた。
一応であるがオークエンペラーはSS級の魔物である。発生が確認されるともはや大災害であるため周囲の国軍とS級以上の冒険者で10名ぐらいでないと討伐できないのが普通だが、この男のハーレムパーティーは全員がSS級で子供達も全員A級以上の15人になる。ぶっちゃけ中規模国の軍隊ならほぼ無傷、大国の軍隊にも辛勝できるレベルである。
で、狩って来た物はしょうがないという事で早速ラーメン作りの為に肉をチャーシューに、骨はトンコツスープにと調理を開始して男には寸胴鍋をかき混ぜる仕事を与えた、3日ほど!
俺はその間に薫玉とかいろいろ準備していたわけだが、まぁ男は暇なのか雑談しながら寸胴をかき混ぜていた。
『しかしさ~、SS級冒険者が寸胴鍋かき混ぜてるとか国王のおっさんが見たら驚愕するな』
『だろうな。普通ギルドに依頼出しても来るのはGランクがいいとこだからな。おし、紅生姜の仕込み終了っと』
『む、紅生姜か。ならトンコツオンリーでもいけるな。しかしあれだ最近魔物が活発に動き出してるんだよね。ロード狩りに行ったらエンペラーになってるとか、あれかね魔王でも出たかね』
『何だよ魔王って。あっほらもっと寸胴よくかき混ぜろ!骨が粉々に砕けるまで出汁とるんだから』
『おう任せとけ! 30年ぶりの好物だからな手は抜かん。あぁ魔王な。何でも周期的に現れるんだと、この世界だと。んで前兆として魔物が異様に強くなったり増えたりするらしい』
『ほ~、そりゃ難儀だな。まぁお前がいれば魔王ごとき屁でもないんだろ? 醤油だれの配合こんなもんかね?』
『いやいや無理無理、何でも聖剣じゃないと止めがさせないんだと。んで今度勇者召喚するとか国王のおっさんが言ってたわ、あれだねテンプレ召喚勇者ハーレムだな』
『そうなのか?まぁ俺には大して関係がないな。そういや餃子も作っとくか?やっぱりラーメンといえばラーメン、餃子、チャーハンだろ』
『だな!テンプレだと日本の高校生辺りが召喚されると思うから飯に釣られてここに来るかもな』
『じゃあ皮と餡仕込むかね。エンペラーの肉でひき肉作ってと、あぁ? 勇者日本人なのか? まっ客として飯食いに来るなら拒みはせんさ』
そんなこんな雑談をしつつラーメンは完成した。ちにみに余談ではあるがそのラーメンは王宮に献上され、それを食べた国王の慢性腰痛が瞬時に完治したとか。どうも材料が錬金反応を起こしていたらしく、一種のエリクサーになっていたようだ。料理は錬金術、とはよく言ったものだが、原因はSS級のオークエンペラーの骨髄と肉であった。