食事なんです
これを読む際は食後にどうぞ。
「まず、落ち着きましょう」
とリエルルと諭された支部長という名の変態はそこでようやく今の状況を冷静に見る事が出来たのか気を静めた後、実に見事な礼を私に見せて自己紹介を始めた。
彼は名をアウルス・アルバ・ロサという立派な名前をお持ちである紳士であった。
名は体を表すとはこのことか、と少し感心してしまったのだがアウルス支部長の熱い視線が私の尾から太ももに行った時点で心は違った様だと、この世を嘆く事になる。
私の名前自体はさっき伝えたので、どうも。とナナエルルに抑えられながら答える事にした。
それにしてもいい加減離して欲しいのだがと、彼女に目を向けたらナナエルルが私の耳に口を近づけて囁いた。
「支部長の病気をー、静めてねー? お食事したいのよねー」
「もう逃げないから。だから離しておくれ」
「うーん、どーしようかなー。アツヒちゃんってー、気持ち良いーのよねー」
ナナエルルが私の渾名をちゃん付けして呼びながらもぞもぞと動いて妙な刺激を与えてくる、だから何でそんなに慣れているのだ。後、それでは目的が変わっているではないか。
だが今の私には通用せんからな! 匂いは実に良いと思うが! と私が変態めいた感想を抱きながらもがいていた時の事である。
酷く鋭い冷たい物で刺された様な、そんな気をぶつけられたのだ、リエルルから。わ、私が悪いのか? 遊んでいるのでは無いぞ! と少しの理不尽と困惑を持ってリエルルを見ると、そこで私は固まった。
「叔母さん。アツヒは、あての」
あての何なのか、私には聞けなかった。
顔を顰め目を半眼にしてナナエルルを睨み、幾何学模様の入った白い杖を紫色に光らせるリエルルは最早、笑顔の似合う愛らしい娘ではなく不倶戴天の敵を睨む歴戦の魔女のそれである。
その視線を受けてようやくナナエルルは私を解放してくれたが、うーんもう少し触りたかったなー、と呟いてまた睨まれていた。
で、その後私はリエルルに抱きつかれた、彼女は落ち着く匂いではあるが状況が変わってない気がするのだよ御主人。
その頃。放置された支部長はというとだ。
「森人種特有の白魚のような手が沈み混んだ時のッ、あの美しい白毛の深みが私を悩ませるッ」
何か頭に手をあて勝手に悶えていた。
落ち着いたリエルルのアウルス支部長に話した妥協案とは、触って良いのは尾までです。という物であった。
私も身体に触れられる事が無いならそれで良い。と気を許したのだが、許した瞬間に支部長に残像を残す速さで後ろに回り込まれすぐに尾を愛でられる事になる、そういう技術の無駄使いは辞めたまえ。
その内飽きるだろうと我慢していたのだが、これまた触り方がいやらしいのだよ、この男。
愛を優しく女性に語りかける紳士が如く私の尾を持ち上げて毛並みに逆らわないように気をつけながら撫でてくるのだ。しかもたまに指を毛の中に入れ愛撫をしながら。
「美しい…何て艶やかな…」
と褒め称えるのも忘れない。ダンディなボイスで言わないで欲しい。
正直言うとちょっと手違いでこの男の顔を、尾で削り取ってしまいたかった。
支部長に尾を愛でられてる間リエルルの胸に頭を抱かれ背を撫でられていなかったら確実に床へと赤い花を咲かせていたと私は断言する。
その頃ナナエルルは水を飲みながら私達を楽しそうに見ていた、薄情なり。
そんな天国と地獄を同時に味わい食堂で私達は何をしているのだ、と黄昏れる事およそ三十分といった頃だろうか。
「私が生きて来た中で最高の心地でありました。ありがとうございます」
アウルス支部長が私の尾を満足する迄撫で回した後に軽く口づけして離したのである。私の背にどの瞬間で怖気が走ったのかは言う迄もなかろう、私は二度と触らせる事は無いと心に誓う。
「満足したならー、用事は終わりー?」
すると最初は楽しそうに見ていたが手持ち無沙汰で暇になったのか、テーブルに突っ伏したナナエルルが言ってくる。支部長にその態度で良いのであろうか。
「はい、お見苦しい物をお見せしてしまい大変申し訳ありませんでした。つきましては、この食堂を暫く貸し切りで使って頂く事でどうかご容赦を頂きたく存じます。では実に心苦しいのですが私はこの辺りでお先に失礼を、またいつかお会いしましょう。それでは!」
「またねー」
「はあい、またです!」
「さ、さようなら」
よく噛まないな。しかも帰りは私にウインクを食らわせつつ、残像を残すあのスピードで帰っていったぞ。しかし嵐の様な男であった、出来れば余り会いたくない人種だが、また会うんだろうなあ。
「アツヒ! こっち!」
「あ、ああ」
リエルルがいつの間にか私から離れてナナエルルの対面に座って私を呼んでいたので慌てて隣に座る。
そういえば貸し切りとか言っていたな支部長は、まさか私の尾を揉む為だけに貸し切りにしたのかあの男。ギルド食堂の今日の売り上げが心配である。
それはそれとして、だ。さて何を頼もうかとメニュー表を見てみるのだがさっぱりなのだ。読めない訳ではないのだよ、全て日本文字で書いてあるし、さっきも読んでいたのだし。
だが異世界の品とはどうもハイカラな名前が多く私には元の食材の想像がつかない物が多い。ヌーガステーキとかルベの炒め物とかニュアンスまでは分かるのだが。先達者達にもこればかりはどうしようも無かった様だ。
さあて、どうするか? リエルルにオススメを聞いてみようかね? と考えていたら。ナナエルルが先に決めたようだ。
「ヌーガの唐揚げ定食かなー」
ヌーガとは一体なんだね。
「あても、それで」
これは私もヌーガの唐揚げとやらを選ばなくてはいけない流れではなかろうか。
いやしかしだな、現物を見た事の無い食物は食べる気が余りしないのだよ。
「アツヒもヌーガの唐揚げで良い? 美味しいよ!」
「それで頼む」
「じゃー、頼んでくるわねー」
ナナエルルが注文の為に料理長の下へ向かった。
それにしてもリエルルが可憐な笑顔を見せてくれたのでつい私は肯定してしまったんだが…実にちょろい獣であると言える。だが流石に気になるのでリエルルにどんな食材なのか聞いてみるとだ。
「えっと、アツヒが分る様に言うとね。上半身鳥で下半身牛の動物だよ!」
と言われた。実にファンタジックな家畜であるらしい、卵生なのだろうか。
そうして暫くメニューに書いてある品の食材を一つ一つリエルルに教えて貰っていたら、ナナエルルが左手にお盆、右手に丼、頭にお盆という姿で戻ってきた。バランス感覚の凄い女性である。
なお米はこの世界にもあった事をここに記す、先達者たる落とし子達に私は心から感謝した。ついでに頂きます文化もついでに確認できたのである。
そうしてテーブルに置かれた料理であるが。
リエルルとナナエルルは普通の唐揚げ定食の様相であり私の分は食べやすい様にであろう、大きな丼にご飯を入れその上に唐揚げ全部盛りであった。犬食いするしかない。
米と唐揚げのバランスが崩れるとちと困るので、ナナエルルにかき混ぜて貰った後、彼女に礼を言い食す事にする。味はと言うとだ、普通に鶏の唐揚げであった。
衣に包まれた熱々の肉汁含む鶏の唐揚げは実にご飯にぴったりであり、これこそがコストパフォーマンス良好な組み合わせである日本人の国民的料理と言えよう。今いる国ではどうなのか知らないが。
まあ普通に美味しいのだ、御託はいるまいて。正直知らない名前の食べ物に戦々恐々していたので私はありがたかったのだ。
食事時間という余り会話は無いが実に心地の良い時間が過ぎて行く。
途中ナナエルルに支部長に私の事を話したらあんな事になってしまったのを謝られたが、君のせいではなかろうと気にしない様に伝えると。ナナエルルが唐揚げ一個くれた、実に嬉しい。何故かそれを見たリエルルからは笑顔で手ずからに唐揚げを一つ食べさせられた、恥ずかしい。
そうして皆が料理を食べ切った時、ナナエルルが更にデザートを取ってくる言いながら左手にお盆、右手に丼、頭にお盆の姿で席を立っていく。一つのお盆にまとめてしまえばいい気がするが、ナナエルルが得意気だったので突っ込むのはやめた。それにしてもデザートか、どういう物なのだろうと思いリエルルに聞くと。
「プルプルしてて美味しいよ!」
と言われた。プルプルか、ゼリーかプリンみたいな物かねと私が楽しく予想していたら。ナナエルルが三つのコップを持ち席に戻って来て、それを全員に配った。
「今日のスライムはー、ブルーだったわよー」
「ありがとう!」
ちょっと待ちたまえ。
「すまない。もう一度品名を聞いていいかね」
「んー? ブルースライムよー」
「美味しいよ?」
「そ、そうか」
リエルルが可憐な笑顔を見せてくれたので私は思わず肯定…いやちょっと待って欲しいのだよ。
スライムである。これは食べ物、しかもデザートになるような物であったであろうか? RPG序盤から出て来て終盤までお世話になったり、服を溶かす目的で作られたり、迷宮の分解者であったりする物であって食べたりするものでは無い筈だ。私の常識はそう言っている。
いるのだが、席を共にする二人の女性は普通にコップに口を付けて吸い込み、噛みちぎり、咀嚼して嚥下した。実に爽やかな顔をしている。美味しいのだろう、か? 自分の分であるコップを見てみる事にする。コップの中で蠢き這い出そうとしている青い液体生物がそこにいた。
「アツヒ、食べないの?」
「いや、そのだな。初めて食べるからちょっとだな」
「そっかあ。じゃあ食べさせてあげるね!」
「あ、ああ。ありがとう…」
リエルルの手により頂いたスライムは爽やかな味わいとドロリとした後引く喉越しであった。
食事を済ませた私達は、ギルド食堂を後にして支部横に置いてある転送魔術器という幾何学模様が走る浮く縦横奥行きが人ほどの大きさの四角形という奇怪なオブジェを使って、住宅街までショートカットしながらリエルル宅へと戻って来ていた。
行く時には何故使わなかったのか聞いたら道を覚えて欲しかったそうだ、だが私が覚えているのはシチジョウタケル君の半生くらいだ。まあ、そんな事より今は横になりたい。未だにスライムが腹の中で蠢いてる気がするのだよ。
「ただいま」
と気取ってリエルル宅の玄関へと入る事にした。久しく言ってない言葉で有った為に私が勝手に感動していたらリエルルがはにかみながら。
「おかえりなさい」
と答えてくれたので私の心は更に感動に打ち震えていたら。
「お邪魔しまーす」
とナナエルルは気の抜ける台詞で上がっていた。帰らなくて良いのか。
「帰っても暇だしねー。襲われないかもー、心配だしー? 暫く泊まるわよー」
誰が、誰を襲うのか問いただしたくなる。なるが聞くと藪蛇だな、これは。
「やった。三人で一緒に寝れるね!」
さん…?ああ、母親かね。いやまて、リエルルは一人暮らしだったはずである。つまりは私とリエルルとナナエルルで三人なのか? 二人と一匹な気がするがリエルルの計算では私は人なのであろうか、なんだか嬉しくなる。
だがしかし幾ら獣になったとはいえ一匹の男である私と一緒に寝るのは如何なものかと思う、なので私は床に布で構わないと伝えたのだが。
泣かれた。
「一緒に寝たくない?嫌?」
と懇願するリエルルに私は完全に負けた。子供の目はやはり兵器である。後は夜までに有耶無耶になることを祈るしかあるまい。
そうと決まればとナナエルルは着替えを取ってくると言い自宅へ帰っていった。
何故上がってきたのか謎であるが、多分今思いついたのだろう、本能で生きている感が凄い。
リエルル宅であるが二階あるうち一階の殆どを占めるのが玄関と繋がる広いロビーである。八人が休憩できそうな椅子と低い机のスペース有り、壁にはシダのような観葉植物有り、高そうな調度品有りのまるでホテルの様相で有った。
主に来客用為に見栄えの良いようにしたそうだが、豪華過ぎて個人宅では無い気がしてくるのだ。ホテルのフロントが無い代わりにキッチンが付いているからやっとそこで、ここが家だと認識出来た。一階はキッチン付きロビー以外だと風呂とトイレしか無いそうだ。
機能的なのだろうかはまだ判断できない、今朝は朝御飯を頂いたらすぐに出かけてしまったからだ。二階は色々な部屋があったが寝ていた部屋以外はよくわからないしからなあ、まあ後で教えて貰おう。
「私は少しそこの椅子で、休ませて貰うよ」
スライムがまだちょっとな。
「あ、うん。あてはちょっと寝室を片付けてくるね」
「了解だ。手伝おうか?」
「えと、散らかってるから…その、ごめんね! ありがとう!」
「そ、そうかね」
と、矢継ぎ早にリエルルは言うと二階へ急いで上がっていった。
そういえば、この家で起きた時は倉庫その一みたいな部屋だったが、あれより散らかっているのだろうか。我が御主人は片付けられないタイプなのかも知れない。まあまだ決まったわけでは無いし、とりあえずは休ませて貰うとしよう。
「ん」
と、椅子へ近づく途中で不意に私は尿意を感じた。昨日から尿意も便意も感じていなかったので排泄は必要ない体なのかと少し喜んでいたのだが、甘かったようである。
確か一階にトイレがあるんだったか。と探していたらすぐに見つけた、階段横すぐである。
開けて中に入ってみたが、これまた雰囲気がホテルの様相であった。大理石で出来た床に落下式便器つまりポットンと、何か落ち着かないのは私が庶民な感覚のせいなのか水洗じゃ無いせいなのかは分からなかった。後、トイレ内部は薔薇の香りがしていたよ。
まあ用をたせれば何でも良いかと便器へ近づき出来るだけ周囲と毛を汚さない様に済ませて、便器横に置いてある四角い箱に入った拭き紙を左尾で取りってみたのだが。尾の先の毛を指の様に絡ませて紙を取る時に六枚ぐらい取れたのだろう随分と厚くなってしまった。これも要練習である。とりあえず濡れた箇所を紙で拭いて便器の中へ投げ捨てる。
そういえば紙巻式のトイレットペーパーはまだ無いのであろうかこの世界。これは特許でも取れるかね? と考えながらトイレより出ようとした時に便器の奥より物音が聞こえた。
「んん?」
便器の奥より物音、つまり生物がいるという事はだ。このトイレは地球の豚便所の様な物である筈だ。だが便器は落下式である、流石に直下型の光差し込まぬ穴に生物が生息できるのであろうか? すごく気になる。すごく気になるが見たら確実に後悔すると思われる。だがさっき私がしたのは尿の方だ、まだ見る分にはマシでは無かろうか。
「どうれ」
トイレで悩む事三分ほど、好奇心に押されて私は覗いてみる事にした。
先程は汚さぬ様に四苦八苦しながらだった為によく見なかった穴の奥をじっくり見つめる。不思議な事に臭気は感じられず部屋に撒かれている薔薇の香りしかしない。
薄暗くてよく見えないが確かに何かいる、目を凝らし見つめ続け暗闇に目を慣らした頃それは見えた。茶の色着く液体生物である、つまりは昼に食べたあのデザートと…。
「……」
其処まで考えて私は思考を放棄していた。トイレより出てロビーの椅子に横たわると寝る事にする、忘れたい。
目覚めは灰色のローブ着込むリエルルの手により果たされた。
何でも寝室の片付けを終えて、戻ってみると私がまだ眠っているではないか。ならばと寝ている間に私の体をブラッシングしたそうだが、暫らくして突然うなされ出したそうだ。私自身どんな夢を見ていたかは忘れてしまったが、恐らく思い出さない方が良いのだろう。
とりあえず椅子に座り直したらリエルルはブラッシングを再開してくれた、実に気持ちが良い。
私が寝ている間に戻って来たのであろうナナエルルを対面の椅子に見つけた。彼女はだらけた格好で座っており本を読みながら私に。
「おはよー」
と挨拶してきた。おはようと応えておく。彼女の今の装いは革鎧ではなく若草色の丈の長いワンピースである、好きなのだろうか。そんな感想抱きつつ、ふとロビーの壁に備え付けてある窓を見てみたら外はすっかり暗くなっており、随分と私が寝ていた事が分かったのだ。その時。
「アツヒ、何食べたい?」
とリエルルから聞かれたので。
「すまないな。貰えるのであれば、何でも食べるよ」
と、私は言われた側が一番困る返答をしてしまった。だが、未だに何があるか知らないのだよ。ヌーガは美味しくてスライムは飲みたくない事くらいである。
だが、其処は完璧少女な御主人様であった。わかった、と答えるとすぐにキッチンへ迎い十五分もすると良い匂いのする赤緑黄と彩り豊かな野菜炒めにベーコン状の物が入ったスープ、柔らかい黒パンと。簡単ながらもハズレの無い料理を出してくれたのだ。有り合わせだけどとリエルルは謙遜していたが実に美味しく頂けた、感謝である。そういえばナナエルルから私がいてよかったと食事中に言われたが、理由を聞くと二人だけだとパンにスライムで済まされるそうだ。キッチンの冷凍術器は絶対に開けまい。
腹が膨れて満足していたら、次は風呂だとリエルルより言われた。それに私は構わないと言ったのだが
「獣の匂いがするわねー」
とナナエルルにぽつりと言われた為に急遽入る事が決まる。言われた時、私の心にヒビが入った音が聞こえた気がした。ならば二人が入った後に頂こうとしたのだがリエルルから素晴らしい笑顔と共に。
「使い方、わからないよね?」
と圧力をかけられた為に一緒に入る事になる。
風呂の内容は私が隅々まで洗われて、共に百五十数えるまで風呂に入り、風呂から出た時に乾燥術器十秒で乾く君が活躍したとだけ言わせて頂く。直接な描写をすると薄緑がうっすら生えていたとかなのだ、何処にかは聞くで無い。とりあえず私の獣欲の方はさっぱり無かった事だけ記す。
次にナナエルルが風呂へ入り、浴槽を見たらしいが私の毛は殆ど抜けて無かったのだとか。彼女が風呂上がりにロビーに戻って来た時、残念ー、と呟いていたのも確認した。何がだ。
その後ロビーの椅子で三人で談笑ののち就寝する運びになり、何かやたらデカイ天蓋付きベッドのある二階の寝室へ来たのだが。ここでまた問題が起きた。
もう私に一緒に寝るというのを断る気はなかったのだよ、リエルルに左尾を優しくもしっかりと捕まれていたのだし。
だが二人が私を真ん中にして寝出したのだ。
「ちょっと待とうか。こういう時はリエルルが真ん中の川の字では無いかね?」
と私が説いたら。ナナエルルから。
「そうしたら私がー、抱き枕に出来ないじゃなーい?」
と言われて抱き枕前提である事に私は呆然とした。
いや一旦待て。と私は抵抗したのだが、ナナエルルが昼間見せた寝技を又かけられる事になる。自身と同じか少し大きい獣をなぜこうも容易く掌握してしまえるのか、手慣れ過ぎだこの女性。
そりゃあ何の問題があるかと言われても私の羞恥心位ではあるが分かって欲しかったのであるよ。と私がもがいていたら。
「アツヒの毛ー。んふー」
腹の側にリエルルが抱きついた事で争いは終結した。リエルルを傷つける訳にはいかないのだ、使い魔は御主人様に弱い。
その後、ナイトウェアにショーツのみと何とも悩ましい格好の二人に抱き枕にされながら私は寝る事になる。私の胸に顔を擦り付けるリエルルは愛らしかったのだが、私の首に腕を回して軽くロックをかけてくるナナエルルは突き飛ばしたかった。
尚、素晴らしい匂いを嗅ぎながら寝れた事を追記しておく。