馬鹿
今回は一応ギャグ回です。
悠斗は急いで階段を駆け下りる。
悠斗の秘策は正直言って穴だらけだ。
だが、これをしないと倒せる見込みはない。
そして悠斗は一人の女性兵士を見つける。
「動くな!止まれ!」
少し大きめの声で銃を突きつけながら近づく。
「ひぃっ!」
どうやら竦んで動けないようだ。
「答えろ!薬品類の倉庫はどこにある!?」
「あ、あの、私新米で……。」
「早く言え!言わないとぶっ殺すぞ!」
「あ、え、えっと、確か地図が……これ、これです!」
女性兵士が地図を出す。
それをひったくるようにして掴むと、薬品倉庫を探す。
「あった!」
この先の廊下を右にまがって直進したところにあるようだ。
「邪魔したな!お仕事がんばれよ!」
そう言いながら悠斗は走る。
「え、は、はい~。ありがとうございます……?」
悠斗は素早く角を曲がる。
薬品貯蔵庫の前に二人兵士がいた。
「どけ!」
拳銃を撃つ。
「うおわっ!?」
兵士二人が飛び退く。
尻もちをついた兵士を素早く撃ち殺しながらドアを蹴破るようにして中に入った。
「どこにあるんだ……?」
悠斗が探しているのはある薬。
有るか無いかは賭けに等しい。
「きっと厳重に保管されているだろうから……。」
呟くように言って奥に進む。
「う、動かないでください……!」
すると、後ろから声がした。
振り向くと、いたのは先ほどであった女性兵士。
「悪いが急いでるんだ。後にしてくれ。」
悠斗が背を向け歩き出す。
「はい、わかりました……じゃなくてですね!」
女性兵士が銃を構える。
「そ、その、あなた悪い人ですよね……?」
「…………。」
ゆっくりと女性兵士に向き直る。
「じゃあ、逆に聞くがお前の善悪の定義はなんだ?」
「そ、それは……。」
「例えば、俺が重い荷物を運んでいる老人を助けたとする。それは良いことか?」
「良いことです。」
「果たして、本当にそうかな?」
「え……?」
「もしかしたら、その老人は筋トレをしていたのかもしれない。だからわざわざ荷物を持っていたのかもしれない。そうとも考えられるし、その荷物をその人自身が持って行かないと殺されると脅されていたのかもしれない。」
「あ……そういえばそうですね。」
(馬鹿でよかった……。)
悠斗は心からそう感じたが、言わないでおく。
「だったら、老人を助けるという気持ちであっても、向こうにとってはいい迷惑かもしれない。わかるな?」
「はい!」
OK、間違いなく馬鹿だ。
「それで、お前は何で俺が悪い奴だと思った?」
「それは……見張りの兵士さんも殺されてましたし、帝国の人間じゃないですし……。その、お薬渡しちゃダメかなって。」
「だが、人殺しは、お前の所属している帝国が平気でやってることだ。違うか?」
「それはそうですけど……。」
「だったら、その帝国を倒そうとしている俺は良い人じゃないのか?」
「う~んと、悪い人を倒してるから良い人……?でも、その人も悪いことを……?あれ?何だか解らなくなってきちゃいました。」
なんだろう、この虚無感。
まぁいいだろう。
「つまり、俺は正しいことをしてる。OK?」
「そう……なるの、かな?」
「んじゃ、俺急いでるから。」
悠斗は再び薬を探し始める。
「あの、何かお探しでしょうか。」
「うん。それは………。」
悠斗は探している薬を説明する。
「あ、それでしたら確か……新人研修で習った気が……どこだったかな~。」
「早く!早く思い出してくれ!」
「もう!急かさないでください!えっと……思い出しました!もう少し奥のところにダイアル式のおっきな金庫があって、そこに保管されてるんです!」
「よし、開けに行くぞ!」
言われるがままに進むと、確かに大きなダイアル式の金庫があった。
「あった!」
「よかったですね。」
「で、番号何?」
「ほえ?番号……?」
「ダイアル式なら番号いわねぇと開かないだろ!?」
「えっと……何でしたっけ?」
「オーマイガッ!」
駄目だ。
馬鹿にもほどがある。
軽い眩暈を覚えながら、悠斗は聞く。
「……他に、薬置いてあるところないか?」
「無いんじゃないんでしょうか。」
悠斗が落胆し、部屋を出ようとしたその時!
「でも、その薬私持ってますよ?」
「はぁあああああ!?」
「いや、見張りの方がくれたんですよ。『君とは出来るだけ長くいたい』って……。」
眩暈を通り越して吐き気までこみあげてきた。
「それ、くれるか?」
「はい、いいですけど。」
悠斗はその薬を受け取る。
「んじゃ、今度こそさようなら……。」
「は~い。さようなら~。」
悠斗は再び屋上に向かって走り出す。
壁にかかっている時計は先ほど見た時から4分進んでいる。
移動を含めると、約六分。
(間に合ってくれ!)
悠斗はそれだけを思って走り出す。
一人残された女性兵士。
「……嵐のようなかたでしたね。」
ダイアル式の金庫の前に立つ。
「!」
頭に電球が付いたような衝撃が体を襲う。
「そういえば、私忘れた時の為に番号メモしてたんでした~。アハハハ……。」
その声を聴くべき者はもういなかった……。




