秘策
爆風が起こり、熱風が体を包む。
「な、なんでヘリが……!」
顔を覆っていた手をずらす。
立ち込めた煙。
そして、そこから一つの塊がこちらのビルに乗り移ってきた。
「なんなんだ……?新手か……?」
その塊が煙を振り払う。
そして姿を現したのは。
長い舌。
筋肉がむき出しになったかのような体。
まさに、和久井の命を奪ったあのカエルだった。
「あの野郎ッ!」
悠斗はレミントンを構える。
だが、そこであることに気付く。
カエルは、服の切れ端を所々に纏っていた。
上半身にはカーキ柄の布が。
下半身にはに迷彩色の布の切れ端が。
「この服は……ッ!この服は!」
そう。
和久井の着ていた服だ。
「和久井さん……あなたなんですか?」
十二月だというのに悠斗の頬に一筋の汗が伝う。
山本は動けない伊吹を屋上の出入口の横に横たえると、ニューナンブを構える。
水咲が伊吹のもとに駆け寄る。
それにつられたかのように、宮本はスナイパーライフルを持って出入り口の屋根の上に移動し、大関と村下は銃を構えた。
だが、悠斗の視界にはその行動は入らない。
悠斗の視界にあるのは、目の前の化け物だけ。
まるで夏休みが終わった後、皆が自分の知らない宿題を提出し始めた時と似た焦りが心を支配する。
「……悪い冗談ですよね?嘘ですよね…。」
「グルルルルルルルル………」
カエルは体を仰け反らせる。
「和久井さんがこんな化け物になる筈が……嘘なんでしょ……嘘……。」
カエルが大きく口を開く。
「嘘だって言ってくれぇぇッ!!!」
「グガァァァァァァァァ!!!」
カエルが長い舌を伸ばす。
悠斗は横に飛び退く。
舌は先ほどまで悠斗がいたところを突き抜けた。
「クソ…クソクソ!!」
「悠斗!攻撃するぞ!」
大関が銃を構えて撃つ。
「グギッ……ギィィィ!」
銃弾が腕や肩に当たるが、すぐにそこから触手が生え、傷口を埋める。
「チッ!なんて再生力だ!」
「ギィィィアアアアアアア!!!」
次は少し屈んだかと思うと跳躍した。
そして大関の目の前に降り立つ。
「うおっ!?」
「ギッ!ギッ!ギッ!」
奇妙な声と共に拳を繰り出す。
「クッ!」
それを体を捻って躱す。
「当たらなくても牽制には……。」
村下が銃を撃つ。
その攻撃を察知したカエルは後ろに飛び退き攻撃をかわした。
「当たれッ!」
カエルが着地したタイミングを見計らって宮本が狙撃する。
「ギッ!?」
足を貫通し、少し体勢がぐらつく。
だが、すぐに持ち直し、何事もなかったかのように立ち上がる。
「これは、あの馬の時と同じだ……どこかに核がある筈。」
大関が呟く。
「もしあれが和久井君……だったかな。その人だとするなら、あの化け物たちは皆人間がもとになっているということだね。ということは、核は人間体の脳か心臓か……。」
村下が冷静に分析する。
「しかし、どこに人間体があるんだ?」
大関が問いただす。
「あれだけの再生能力を持っているとしても、再生には何らかのエネルギーが欲しい筈だ。僕たちがあいつに食べられることなく戦い続け、再生させ続ければ引き下がってくれるか、あるいは人間体が出てくるかも。」
「まぁ、難しいことはよくわからんけども、要はガンガン攻撃すりゃあいいんだろ?」
山本はそう言って銃を撃つ。
数発カエルの身体に当たるが、少し驚いたような声を上げた以外反応はない。
「村下さんよォ、一体どれくらい再生させりゃあいいんだ?」
「う~ん、数回か、数百回か、はたまた数億回か……。」
「なんだよそりゃあッ!?」
ずっこけそうな勢いで山本が突っ込む。
「やってる場合か!仕掛けてくるぞ!」
大関が声を張り上げ、二人に注意を促す。
「うひゃあっ!」
二人がバラバラの方向に走ると、二人のいた場所にカエルが跳んできた。
「どうすんだよこれ!」
山本が素っ頓狂な声を上げる。
その時。
「大関さん!時間を稼いでください!俺に考えがあります!」
悠斗がいきなり叫んだ。
「考え……か。どれくらい時間を稼げばいい?」
「十分……いや、七分ほどお願いします!」
「七分……厳しいが、やってみよう!早く行け!」
「解りました!」
悠斗は出入り口に走り出す。
それを見たカエルが悠斗に舌を伸ばそうとするが、銃撃に阻まれる。
「グゲギッ!?」
「よォ、お前の相手はこのダンディ三人組が務めるぜ。」
山本、大関、村下の三人が立ちはだかる。
それを見て宮本は思う。
「僕、忘れられてません……?」




