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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
阿鼻叫喚
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脱出

段々視界が開けていく。


「…朝、か。」


目を擦りながら立ち上がる。


「痛ッ!」


固い地面に転がって寝ていたので腰を痛めてしまった。


ふと窓の外に目をやる。


そこにはいつも通りの町の風景とはかけ離れた、世紀末と呼んでも過言ではない光景があった。


燃え尽きた家。激突した車。そして血にまみれた人。


やはり昨日の出来事は夢ではなかった。最も、そこまで落胆はしていなかったが。


昨日の夜、脱出計画を練った。確か数学の先生が外車オタで、ゴルフとかいう車に乗ってたという話を聞いたことがある。


だから、一度職員室にいってその車を手に入れ、後は自由気ままにドライブしてどっかに永住!


余裕があったら麗香を助けるし、銃も拾う。


という計画である。








荷物をすべて纏めて頑丈なリュックサックに詰める。


お茶とスポーツドリンクは、水が出るうちに水に詰め替えておいた。


リュックサックを背負って作業着を身に纏い、右ポケットにライト、左ポケットに携帯を入れてバールとハンマーを腰に下げる。


音が鳴らないようにテープで留めて、槍を持つ。


そしてなるべく音を立てないように扉を開けた。


戸を開けると、ゾンビの姿は見当たらなかった。


そのままゆっくりと歩き、角を曲がる。


いた。ゾンビだ。


どうやら、嗅覚は人と同じようだ。


もし嗅覚が鋭敏であったなら、とっくに気付いているだろう。


後ろからそっと忍び寄り、槍で一突きにする。


ゾンビは少し体を震わせた後、死者としての本来の姿になった。


(ふぅ……。何とかいけそうだな。)


だが油断は禁物。警戒を解かずに、次の廊下へ歩みを進める。


職員室は一階の南館にある。この廊下をまっすぐ行き、角を曲がればあるはずだ。


廊下を見渡すと、ゾンビが4匹。


まず手前の一匹を槍で突き殺す。


自分に気付いたもう一匹は、槍を抜きながらバールで頭を殴りつける。


一撃では死ななかったのでもう一撃加えて沈黙させる。


三匹目の女生徒のゾンビも槍で突き殺す。かわいいけどごめんね。


四匹目はイケメンの男子生徒だったので、問答無用で突く。全国の男子の敵め!リア充め!死んでしまえ!死んでるけど。


忍び足のまま角を曲がり、職員室の扉に手をかける。


開かない。


仕方がないので、技術室から持ってきた針金を2本出す。


(こういう無駄な知識が役に立つんだよね~。)


と少しニヤケながらピッキングを始める。


幸い周囲にゾンビはいないので安全だ。


何度か自室のドアでやったことがあるのですぐ開くかと思いきや、十分ほどの時間を要した。


ガチャッ。


(開いた!やったぜ!)


と歓喜し、戸を開ける。






















えーっと?なんで?


そこにいたのは下着姿の麗香であった。


麗香が顔を紅潮させて叫びそうになったので、あわてて口を押える。


「しーっ!」


コクコクと頷いたので手を放し、戸を閉めて鍵を閉める。


「ゆ、悠斗君…だよね?大分感じが変わってるけど。」


「あぁ、そっちこそ無事で何よりだ。」


イケメンは敵だが、美人は素晴らしい。


これは是非とも保護したい。


べ、別にやましい気持ちなんかn(ry


阿呆な事してないで。


「なんでここにいるんだ?」


「えっとね……。」


まとめるとこうだ。


あの後、教室から逃げ出した麗香は、走って先生に助けを求めに職員室に行ったそうだ。


ゾンビを躱していったのはすごいと思う。


ところが、職員室にいったら中にいたのは先生のゾンビで、食べられそうになってもうだめだと思ったら、銃声が鳴り、ゾンビが倒れたそうだ。振り向くと銃声の先に自衛隊の人が3人いたらしい。


その人は自分たちはすでに感染しているから、死ぬ前に多くの人を救いたくて来たといった。確かに噛み傷があったらしいので、本当に感染していたのだろう。


その自衛隊の人はアメリカで試験的に開発されたゾンビ化を遅らせる薬を投与していて、あと一日は大丈夫と言っていたらしい。


そして、自分に途中で拾ったという拳銃を一丁渡すと、ここで死ぬつもりだからといい車のキーを置いて去って行ったが、すぐ銃声がしたので戸に鍵をかけてじっとしていたそうだ。


やがて銃声が途絶え、不安になっていたところに俺が来たらしい。


「で、服は?」


「汚れたから洗って干してるの。」


「なるほどね……。銃は?」


「マニュアルと一緒に机の上にあるわ。」


みてみると、殴り書きで何か書いてあるメモと、拳銃━━━━━警察のM360J(SAKURA)と予備の弾倉が一つ添えられていた。


自衛隊の人はもう生きてないだろう。保護してもらうのは不可能だ。


自衛隊の車に乗って脱出するとしよう。


だが、脱出するには物資が足りない。


特に水と食料だ。


(どうするかな………。いや、確か?)


緊急災害時に校内に物資を貯蔵してあるという話を聞いたことがある。


その話が確かならこの職員室にもあるかもしれない。


「探してみるか……。」


と、呟きながら立ち上がった。





備蓄庫は5分ほどで見つかった。問題は鍵だが、校長先生の机に入っていたので拝借する。


扉を開けると、中にはカンパンや缶詰等の保存食、大量の水に携帯トイレ、毛布などがあった。


それらを詰め込めるだけカバンに詰め込み、二人で分担して持つ。


自衛隊の車……疾風(はやて)というらしいが、その車に詰め込んで脱出する寸法である。


自衛隊の人がおいていった運転マニュアルを熟読し、


麗香の服を乾かし、昼飯を弁当で済ませて正午過ぎに職員室の戸を開けた。










廊下にはやはりゾンビはいなかった。


車まで辿り着くには玄関を出て右に行くとある駐車場にあるらしい。これは時間との戦いだ。


麗香に合図を出し、小走りで音を立てずに玄関を出る。外には20匹ほどのゾンビがいたが、こちらには気付かない。


その中には麗香を救ったであろう自衛隊の面々もいた。


1匹道をふさいでいたので、これは槍で殺す。


ゆっくりとした足取りで駐車場に行く。しかし。


ズシャッ。


音のした方を振り返ると、麗香が転んでいた。そしてゾンビが蠢きだす。


「………は、」


一斉にこっちを向くゾンビ。


「走れぇ!!!!」


そう叫ぶと、一目散に駐車場に入る。


(車……車……どこだ!?)


見渡すと、奥にジープみたいなものがあった。


よく見ると、装甲が溶接され、窓には金網。恐らく鉄製と思われる屋根が取り付けられていて、タイヤ周りにはスカートをはいている。


扉を開けて荷物を詰め込む。麗香も飛び乗り、ドアに鍵をかける。


「悠斗君!黒い箱が置いてあるけど!」


「今は放っとけ!え~っと鍵!鍵!」


焦りながら鍵を取り出す。


が、なかなかエンジンがかからない。


ゾンビが目前に迫っている。


「早くして!!!」


「解ってる!」


ゾンビが金網をたたき始めたその瞬間エンジンがかかった。


アクセルを踏み、エンジンを全開にする。


自分たちを脅かしていたゾンビが轢かれ、弾き飛ばされる。


その光景を見ていると、恐怖で強張っていた顔が緩み、自然に口角が上がってくる。


「いぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉう!!!!!」


道をふさぐゾンビどもを蹴散らしながら、悠斗は学校を後にしたのだった。


































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