凶弾
「じゃあ、開けるぞ……。」
ゆっくりと扉を開ける。
中に入ると、ドラム缶や木箱が置いてあり、壁にはパイプが伝っている。
「麗香はどこだ………。」
9mm拳銃を構えながら進む。
天井についている蛍光灯が薄暗く室内を照らしている。
「岸沢!いるのか!?」
大声で呼びかける。
だが、もちろん返答はない。
周囲を警戒しながら進む。
「雨音、後ろを警戒してくれ。」
「もうやってるよ~。」
その直後。
人影がチラッと視界を横切った。
「雨音。人影がいた。追うぞ!」
「オッケー。」
人影の行った方向へ走る。
暫く追いかけると、やがて行き止まりに来た。
「どこに行ったんだ……?」
きょろきょろと辺りを見渡す。
すると、急にガタッと音がした。
音の方向に振り向く。
その直後、伊吹が抱き着いてくる。
「悠斗!」
抱き着かれた途端に銃声がし、悠斗の視界が一瞬血飛沫で赤に染まる。
そして伊吹の身体から力が抜ける。
「雨音ッ!」
伊吹を抱き寄せる。
背中から血が流れている。
「悠斗……私……ね…………。」
力なく悠斗の頬に手を添えながら伊吹が喋る。
「やめろ!雨音、もう喋るな!」
「言わせ……て。わた、し………悠斗……の………こと…………………が…………………。」
悠斗の頬に添えられていた手がだらりと床に落ちる。
「雨音……?おい、嘘だろ!冗談だろ!?起きろよ!なぁ……おい!雨音えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
急いで脈を測る。
弱まってはいるが、まだ死んではいない。
止血をし、早く医療施設に持って行かないと死んでしまう。
「ハハハハハハッ!大事な仲間が一人減ったな……。」
声の方向を睨む。
「おっと……動くな。」
相手が銃を構えている。
その相手を違えるはずがない。
「岸沢ァァァッ!」
銃を向けようとする。
だが、岸沢が銃を撃ち、悠斗の手から9mm拳銃が弾かれる。
「私は……いわゆる不運な子だった。政財界の大物の父と、その秘書の母。父も母も家には帰らない。たまに帰ったかと思えば、それぞれ知らない異性を家に連れ込む。空虚。まさに空虚な空間で私は生まれた。そしてそんな家を見るたびにこう思った物だ。“ああ、この世はなんとつまらないものか”と。そんな環境で育ったからかもしれないが、私にはいつしかこの日本自体にも反感を覚えた。そして作り直そうと思った。」
「その結果がこれか……?」
「初めは極僅かな人数しかいなかった。それを私は各地の避難所を回って一つの国家にまで作り上げた。仲間は次々と死んでいった。結成当初の仲間はもう一人も生きてはいない。だが、それでも私は前進をやめない。亡き仲間の墓前ですら涙を流さない。私は涙の流れる力をも帝国の未来への推進力にしているのだ。」
「だから、どうする……?」
「お前を殺す。お前を殺し、外敵を排除して初めて私の帝国は完成する!」
岸沢が銃を構える。
「最後に、お前に褒美をやろう。麗香……だったか。悠斗の元へ行くがいい。」
すると、岸沢の後ろから麗香が出てきた。
「悠斗君!」
「麗香!」
二人は抱きしめあう。
「やっと……やっと会えた!」
「ようやく……だな。」
二人は感慨に浸る。
だが、勝負が決したわけではない。
「二人まとめて地獄に送ってやろう!」
岸沢の引き金を引く指に力がこもる。
「ノーガッツ・ノーグローリーッ!俺は!諦めない!」
悠斗は素早く麗香を自分の後ろに回らせると、伊吹の腰元にあるニューナンブを取り出す。
しかし、少し遅かった。
「死ね!帝国の糧となるがいい!」
岸沢が銃を撃つ。
キィィィ…………ン。
甲高い金属音が鳴る。
そして悠斗が銃を撃つ。
ダン。
岸沢の肩に当たる。
「グッうううおおおおお!?何故、何故銃が効かん!?」
岸沢が苦悶の声を上げながらのたうち回る。
「サンキュー、山本さん。」
そういって胸元のネックレスを手に取る。
金属の装飾の、ちょうど受け皿のようになっている部分が少し凹んでいる。
岸沢の放った弾丸は偶然にも、山本がくれたネックレスに当たったのだ。
悠斗は岸沢に向き直る。
「さて、形勢逆転だ……。」
悠斗は岸沢の身体に銃口を向ける。
「フハハハハハハハハハハハハハ!」
岸沢が笑いだす。
「どうした?気でも違ったか?」
「してやられたよ……。だが!」
岸沢がポケットから何やら棒状のものを取り出し、その先端のボタンを押すと銃声がし、悠斗の左肩に銃弾が当たる。
「ガッアアアアッ!!!」
「悠斗君!」
肩を抑えて蹲る。
(どこからッ……?)
「予め用意していたのだよ……。防犯用にボタン一つで発射できるような銃をな。もっとも、お前に当たるかどうかは分からなかったが……。やはり、神は我々帝国の味方のようだ。」
形勢は再び逆転した……。




