切断
最近短いのばっかりですみません。
和久井は低いうなり声を聞いた。
「なんだ……?」
悠斗の方を見る。
悠斗は地面に立っていた。
そしてその足の下にはマンホールがあった。
そして、そのマンホールが少し浮く。
「危ねぇッ!!」
直感で危険を察知し、悠斗のところに走る。
「え?」
悠斗はまだ何が起きたか理解できていないようだ。
そのまま、両手で悠斗を押す。
その直後マンホールの蓋が勢いよく開いた………。
悠斗には何が起きているのか理解できなかった。
気が付いた時には、和久井に押されていた。
「和久井さ……ッ!」
悠斗が和久井の方を向く。
だが、悠斗にはその情景を信じることが出来なかった。
苦痛に歪む和久井の顔。
そして、マンホールから生えた巨大な舌。
宙を舞う手。
平たく言えば、マンホールから生えた巨大な舌が和久井の左手の肘から先を切り落としたのだ。
「ぐっああぁっぁぁあああああッ!!」
「和久井さん!」
慌てて和久井に駆け寄る。
すると、マンホールからその舌の持ち主が姿を現した。
それはまるで巨大なカエル。
緑色の身体に深紅の舌を持っている。
すぐさまレミントンを構えて撃つ。
「この野郎ッ!」
散弾がカエルに当たる。
だが、カエルはその傷をちらりと見ると、何事もなかったかのように歩き出した。
その傷口がうじゅうじゅとうねり、傷が瞬く間に無くなった。
「なっ、無くなッ!?」」
最後まで言い終える前に、その舌が悠斗の手を拘束する。
「グッ!離しやがれッ!」
必死にもがくが、一向に拘束が緩む気配はない。
そしてカエルが口をさらに大きく開ける。
「アグッアガッギボエッ!」
奇妙な声を上げながら口をほぼ水平まで上げると、中からもう一枚舌が出てきた。
「二枚目ッ!?」
そして、その二枚目の舌を悠斗に突きたてようとする。
「畜生ッ!」
そして、その舌が悠斗に当たるかと思いきや、その攻撃は銃撃によって妨害される。
その銃撃は、帝国の兵士によるものだった。
「大丈夫か!?」
一瞬、何故自分を助けてくれるのかわからなかったが、よくよく考えればあの兵士たちは悠斗が敵ということを知らないのだ。
「すまないが、負傷した者がいる!急いで運ぶから、その間援護を頼む!」
そう兵士に向かって言うと、兵士は大きく頷き、攻撃を開始した。
カエルがその攻撃に気を取られている間に、移動する。
ビルとビルの間に、和久井を横たえる。
「和久井さん!大丈夫ですか!」
「あぁ……。無傷だよ。最悪な状況に変わりないがな。」
「無傷?」
思わずそう言い返してしまった。
和久井の左腕は現にない。
なのに無傷とはどういうことだろう。
疑問に思って和久井の腕を見る。
「こ、これは………。」
悠斗が絶句したのも無理はない。
和久井の腕の切断面からは、血が出ていなかった。
それどころか、もう塞がっている。
そう。
傷口がうじゅうじゅとうねりながら。
「ま、まさか感染した………?」
悪夢だ。
ただでさえ勝ち目の薄い賭けだったのに、和久井がいなくなれば麗香の救出は不可能に近い。
だが、突きつけられるのは残酷な現実だ。
「多分な……ッ!?」
和久井が道路の方を見ると、先ほどのカエルがうろうろしていた。
どうやらこちらを探しているようだ。
「来やがったか。」
和久井はそのカエルを一瞥し、悠斗に向き直る。
「悠斗、よく聞いてくれ。」
重い空気が流れる。
そして、数秒後和久井自身の口から衝撃の事実が転がり出た。
「実は、俺は帝国側の人間だった……。」
疑念は確信に変わった。




