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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
百折不撓
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士気

基地は最初の爆撃により被害を受けていた。


敷地内には、爆弾の破片や、壊れた車。


そして四肢の千切れとんだ死体や、その手足の残骸が転がっている。


所々の建物に火が付き、いくらかの兵士が消火に当たっていく。


「ひでぇな……。」


和久井が煙草を咥えて、百円ライターで火をつける。


傍から見ると、かなりの被害が出ているように見える。


だが、これでも第一波にすぎないのだろう。


これが後2、3回続けば、機能が麻痺してしまう。


しかし、帝国側もただ見ているだけではあるまい。


今に反撃を開始するだろう。


そう思った時、どこからか低いうなり声のような音が聞こえてきた。













慌てふためく司令室。


怒号が飛び交い、目も当てられないような惨状である。


「えぇい、落ち着かんか!」


陸軍大将も制止しようとするが、一向に収まらない。


すると、そんな司令室の扉が勢い良く開いた。


扉を開けた人物は。


「き、岸沢閣下ッ!!!」


岸沢であった。


岸沢は大きく息を吸い込むと、吠えた。


「黙れぃッ!!!」


一喝。


司令室自体の時が止まったかのように静まり返る。


司令室ここがしっかりせんでどうする?ここが踏ん張りどころなのだ。大将。無線を貸せ。全軍に聞こえるチャンネルでだ。」


「は、ハッ!」


急いで無線を渡すと、岸沢はその無線を引っ手繰るようにして持つと、静かに話し始めた。


「我が同志よ。聞いてくれ。我々は現在敵の攻撃を受けている。今の第一波の爆撃により、決して少なくはない数の施設が、物資が、そして人命が失われた。私は、彼らが銃を取り、運命を共にし、理想を掲げ、そして凶弾に倒れたその果てに、何を思って死んでいったのかはわからない。私は、その質問に答える術を持たない。だが、恐らく彼らは家族の、友人の、若しくは恋人の為に。そして、それらが住みやすい国を作りたかったと思い死んでいったのではないだろうか。」


通信兵の一人が涙を流した。


きっと大事な人を失ったのだろう。


「だが、それでも……我々が凶弾に倒れ、体が四散し、跡形もなくなるように殲滅されても、我々は歩みを止めることはない。いや、死んでいった者たちのためにも歩かねばならぬのだ。両の足で地面を踏みしめ、足がなければ両の手を以て這いながら、前に進み続けるのだ。諸君。私に……死んでいった者たちの理想の為に、他国に屈せず、自国だけで様々な問題を解決できる理想国家の為に。力を……貸して欲しい。」


その直後、各地から歓声が巻き上がった。


「そうだ!もう一踏ん張りだ!」


迫りくるゾンビに弾丸をばらまきながら叫ぶ。


「ここが正念場!何時までもやられていられるか!」


双眼鏡で、丘を駆け下りてくる兵士を見ながら叫ぶ。


崩れかけていた軍隊が、圧倒的な士気のもとに再集結した。


反撃が、始まる。


















太平洋沖。


東北の艦隊と帝国の海軍が相見えようとしていた。


帝国海軍の旗艦くらまの艦長がいう。


「戦闘艦。本艦を目印に集結せよ。これより戦闘予定海域に入る。戦闘配備を維持したまま進軍する。」


重厚な唸りを上げながら、水を切って進む船はまさに壮観である。


暫く進行すると、レーダーを見ていた兵士が声を上げた。


「敵艦隊と思われる反応あり!味方識別信号なし!7隻ほどと思われます!」


「ようし、まずはこちらから仕掛けさせていただこう。各砲座に敵の位置情報をリンクさせろ。照準合わせ!」


すべての艦の砲座が回転し、敵の方向に向く。


「照準!………………よし!」


「撃てえぇぇッ!」


各艦が次々に砲弾を発射していく。


「初弾………中央の艦に命中!火災炎上!最後尾の艦中破!先頭の艦小破!速度が少し落ちているようです。」


「よし。閣下の思いに報いるのだ!次弾装填!」


すると、レーダーを見ていた兵士が反応を捕えた。


「敵航空機多数接近!」


「来たか……。対空戦闘準備!スタンダードミサイルだ!」


「敵艦砲撃開始します!」


その直後、五番艦“たかなみ”に次々と砲弾が命中し、砲塔が爆発し、艦橋は爆発し、機関は停止した。


やがて、悲鳴のような音を発しながら、海中に没した。


「たかなみ…………沈みました。」


艦長が帽子を深めにかぶり、呟いた。


「仇は……とるぞ。生存者の確認急げ!」


艦長はおもむろに立ち上がると、右手を大きく前に出した。


「ミサイル艦!対空攻撃を開始!一機残らず叩き落とせ!こちらの航空隊はまだか!」


「後数分で到着予定です!」


「わかった。主砲は順次砲撃を開始せよ。航空隊の到着まで持ちこたえろ。」


すると、艦橋に通信が入る。


『水中音発生!魚雷接近!潜水艦もいる模様!』


「短魚雷で迎撃!こちらも魚雷を発射して、潜水艦を海の藻屑にしろ!」


吐き出された魚雷が接近する魚雷をいくつかは破壊できたが、それでも数発は命中した。


“くらま”が揺れる。


「くっ……被害状況知らせ!」


「右舷後方に被雷!右舷傾斜4度!」


「大丈夫だ。これくらいなら沈まん。速力28ノットを維持!」


そして艦隊戦は佳境に入っていく。



































次回もお楽しみに。

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