詐欺
大関たちが司令室に通される。
司令室はそれほど広くはなく、少し簡素な机に書類が積んである。
そしてその書類の向こう側から一人の男性が顔を出す。
「君たちか?避難民は。」
どうやらこの人物が司令官のようだ。
「大関陸男です。そしてこちらが……。」
「いや、自己紹介などいい。今は時間が大事だ。」
少しムッとするが、その指摘は核心をついている。
黙って返事をすることにした。
「それで、一体何のご用でしょうか。私共が出来ることなど……。」
「君たちにはこの帝国との戦争に参加してもらう。」
「なんですって!?」
自分が戦争に駆り出されるのは分かる。
だが、民間人も戦争に投入するというのか。
「待ってください!私以外は全員民間人です!」
「だから?」
「ッ!民間人を戦場に出すなど!」
司令官はやれやれというように大きくため息をつき、口を開いた。
「大関君。君は大変優秀な人材だ。ここまで、一人も死者を出さずにここまで来たと聞いている。だからこそ、君に指揮を頼みたいのだよ。そして、その彼と行動を共にしてきた君たちなら、この戦いでも戦果を挙げられると思っている。」
言いたいことは分かる。
だが、そんなことがまかり通るのだろうか。
いや、まかり通ってしまうのだ。
なぜなら、この場所にも法律がないのだから。
この戦いでは多くの兵士が死ぬだろう。
そして、その遺族が見返りを求める。
その見返りは膨大な量になり、ここの政治を圧迫する。
また、不信感を抱かせることにもなるだろう。
それに対して、大関たちはここにきたばかりで、ここの人とのつながりがない。
なので、大関たちは戦場に出すのにうってつけだったのだ。
「その代りと言ってはなんだが、部隊編成は君に一任する。そこの小さい御嬢さんはもちろんここに置いて行ってもらって構わん。あと、ここにいる自衛隊員で部隊に欲しいやつがいたら連れて行け。私の部下は優秀だ。では、部隊編成が終わったら、部隊を発進させろ。発進が終わり次第、ここに来い。いいな?」
このような横暴でも、はいと言わざるを得ない。
ここでの拒否は死を意味する。
「……わかりました。」
そう、絞り出すように言って部屋からでた。
ドン。
大関が廊下の壁をたたく。
「クソッ!また俺は民間人を守れんのか……!」
「大関さん……。」
水咲が同情したように言う。
彼女にはわかっていた。
大関のつらさが。
だから、ここで声をかけても無意味だと感じた。
「何か方法は……!」
大関は必死に考えを巡らせる。
そこに、伊吹がやってくる。
「別に気にしなくてもいいよ?最初っから覚悟してたことだし。それに、悠斗だってそこにいるかもしれないじゃん?行かない理由がないよ。」
平静を保ったように言うが、足が少し震えていたように見えたのは気のせいではあるまい。
結局、自分は気を使われっぱなしだ。
その情けなさや、不甲斐なさが大関の胸を縛り、締め付ける。
だが、その時大関が何かを閃いた。
「この方法なら……!もしかしたら!」
「大関さんどうしたのー?」
奈々ちゃんはそんな大関を少し怪訝そうに見つめた。
「攻撃隊、発進しました。」
司令室に入ってきた兵士が言う。
「そうか。で、大関君は?」
「今に来ると思います。」
だが、十分の間待っても来ない。
「遅いな……。何をしているのだ?……まさか!」
急に司令官が大声を上げる。
「いかがいたしました!?」
兵士があわてて駆け寄る。
「大関君の仲間を乗せたヘリに連絡を入れろ!今すぐだ!」
「ハッ!」
あわてて通信機をヘリにつなぎ、司令官に渡す。
『こちら第六飛行隊ヘリ3番機。何かあったのですか?』
「何かあっただと!?……いや、取り乱して済まない。そこに大関という人間がいるか?」
『えぇ……少し待ってください。…………はい、います。』
「そいつと代われ!」
『ハッ!』
向うで通信機を受け取る音がする。
『通信代わりました。こちら大関。応答せよ。』
「こちら大関ィ!?ふざけるな!君は部隊編成の後司令室に来いといっただろう!」
『えぇ、ですから、“私をこの部隊の隊長として編成した。”というわけです。』
「なっ!?」
失念していた。
いや、見誤ったというべきか。
この男はこういう男だったのだ。
この大関陸男という男は、自分が安全地にいることを良しとしない。
自ら戦地に赴き、できる限り損失を減らす。
そういう人間だったのだ。
「今すぐ戻ってこい!さもないと!」
『ピーピー!ガーガー!通信不調につき通信を終了する。それでは。』
「ふざけるな!おい!応答せよ!おい!」
いくら呼んでも応答しない。
これには司令官も頭を抱えるしかなかった。




