爆撃
和久井は疾風を走らせる。
もう少しで新生大日本帝国のゲート前だ。
悠斗に注意を促す。
「人質らしくしてろよ?……まぁ、両手両足縛ったから大丈夫だと思うが。」
「えぇ、一応人質を連れてきたっていえば通してくれると思いますからね。精一杯演じますよ。」
「そりゃあいい心がけだ。」
ハンドルを切ると、ゲートの前まで来た。
見張りの兵士が近寄る。
「何者だ?」
「岸沢閣下直々のご命令で、北陸の拠点をつぶした輩を捕えた。」
「待ってろ、今確認する。……確かに、攻撃隊を編成し、敵を捕えるという命令が出ているな。そこに転がっているのが人質か?」
「その通りだ。」
「他の攻撃隊のものは?」
「人質を連行するのに大人数は要らんだろう、ということらしい。」
「そうか……どうやら、東北の奴らが先に攻めてきたらしくてな。」
「何だって!?」
「急がないと、ここは危険になる。急いでいくといい。」
「情報をありがとう。そんじゃ。」
疾風が走り去る。
その時、北西の方向から戦闘機が迫っていた。
「目標確認!クラスター爆弾投下!」
「投下!」
戦闘機が唸り声をあげながら降下し、クラスター爆弾を投下する。
クラスター爆弾は空中で分裂し、広い範囲を焼き尽くす。
その爆弾はゲートにも着弾した。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
ゲートは所々が焼け、少し焼けた死体が出来上がる。
「やっべぇ!冗談じゃないぜ!」
和久井はハンドルを切り、できるだけ爆弾を避ける。
ナイフで縄を切った悠斗が叫ぶ。
「和久井さん、爆弾が!」
「クソッたれ!」
その直後、疾風の右前輪あたりに爆弾が着弾し、疾風がひっくり返る。
「うわぁぁぁぁ!?」
疾風は数回横回転すると、建物にぶつかって止まった。
「痛ぇな……無事か?悠斗。」
「えぇ、おかげさまで……。でも、もう疾風は使えませんね。」
疾風は、完全に上下逆さになっており、車輪が空を掻いている。
少し名残惜しいが、ここでお別れだ。
「そうだな。武器を持てるだけ持って歩くぞ。」
既に爆撃は止んでいた。
直に第二波が来るだろう。
急がねば。
「取り敢えず、ハンドガンとショットガンは持っとけ。弾もできるだけな。俺はMP5を使う。」
そういって、MP5を取り出す。
これは和久井が持っていたもので、ジープに積んであったものだ。
「にしても、少しハード過ぎますよ……。」
「ま、もう少し頑張ろうや。」
二人は少し足を引きずるようにして、本部ビルに向かう。
すると、戦闘機の来た方向から、コンテナをぶら下げたヘリが接近してきていた。
「ヘリ接近ッ!」
「叩き落とせ!対空砲、各個迎撃せよ!」
弾幕が雨のように発射され、ヘリが数機落ちる。
「“荷物”を投下する。奴らにバースデープレゼントだ。」
残ったヘリが、基地内にコンテナを落とす。
ドスン、と音がして、地面が少し震える。
すぐにそのコンテナに部隊が集まる。
兵士の一人が恐る恐る近づくと、不意に扉があいた。
「何が入ってる……?」
ゆっくりと近づくと、中から無数の手が出てきて、頭を、手を、足をつかまれた。
「う、うわああああああ!離せ、誰か助け……痛いぃぃいいい!ガァァァアァアアアァァ!」
そして出てくるのは無数のゾンビ。
コンテナの中にはゾンビがすし詰めにされていたのだ。
「何ということだ……。」
その場にいた兵士は立ち尽くすしかなかった。
一つのコンテナに、五十匹近くがいる。
そのコンテナが十箱は落ちたのだ。
「こんな……こんな……。」
先程食べられた兵士も再びゾンビとなって起き上がる。
「アァァアァ……ウゥゥアアァ……。」
「……ひるむな!何をぼけっとしている!攻撃しろ!」
いくつもの銃口が銃弾を発砲するが、次第にその数も減り、遂に無くなった。
一方、大関たちは東北の基地に明朝に到着していた。
基地の人間は歓迎ムードだったが、どこか浮き足立っているようにも見えた。
「今日は何かあるのか?少し落ち着かないようにお見受けするが。」
大関が兵士に問う。
「えぇ、今日はあの帝国の連中に攻撃する日なんですよ。」
「何だと!?」
驚いたものの、正直予想はついていた。
帝国の連中が宣言した日まであと一日。
何らかのアクションはあると思っていた。
だが、ここまで直線的な行動に出るとは。
「大関さんですか?」
まだ若い少年のような顔立ちをした兵士が問うてくる。
「あぁ、そうだが?」
「一度こちらに来ていただきたいのですが。勿論、お仲間さんもご一緒にです。」
「はぁ……いや、しかし何故?」
「司令官殿がお待ちです。」
「司令官!?」
司令官が、何の用だろう。
しかも、自衛隊の自分だけでなく、民間人である山本たちも呼ぶとは。
どこかきな臭い感じがする。
「あぁ、分かった。みんなも、異論はないな?」
全員に確認するが、特に何もないようなので、少年兵の先導に従って歩く。
どうやら、こちらも一枚岩ではないようだ………。
そう思う大関であった。
次回もお楽しみに。




