交錯
少し展開が急です。
その日の深夜。
いや、もう翌日の明朝というべきだろう。
麗香は新生大日本帝国の入り口を過ぎようとしていた。
車が急停止し、目を覚ます。
(ここは、どこだろう?)
手足を拘束されているため、詳しい様子は分からないが、兵士が数名見張りについているようだった。
それぞれが銃を携帯している。
(一体、どれほどの国力を持っているのかな?)
恐らく、東北の自衛隊基地に匹敵するほどなのだろう。
いや、それ以上かもしれない。
運転手が見張りの兵士と少し雑談をすると、車が再び動き出した。
それからまた数分ほど進むと、車が止まり、麗香に男が近づいてきた。
「到着したぞ。」
男は乱暴に麗香の手をつかみ、歩き出した。
抵抗しようと思ったが、他数名の兵士が銃を構えているためにできなかった。
その数時間後。
東北自衛隊基地作戦司令室。
国防大臣が、マイクに向かって口を開く。
このマイクはこの基地や、他の基地にもつながっている。
「諸君!いよいよだ。この一戦で我々の日本の運命が変わる。ここが正念場だ。奴らは強い日本を作るという大義名分を元に、この日本を!我々の美しい国を軍事国家に変えるつもりなのだ!そんなことが許せるのか!?否!我々は日本を、日本の誇りを賭けて!戦う義務があるのだ!歴史を誤った方向に進めてはならないのだ!」
その演説に歓声が上がる。
「そうだ!その通りだ!」
管制官が次々に立ち上がり、右手を上げる。
恐らく、他の基地の人々も同じように手を挙げ、咆哮を上げているだろう。
「航空隊全機発進せよ!第一、第二、第三船隊!所定の位置まで移動!陸戦隊は各基地より発進せよ!敵は奴らだけではない!歩く亡者どもとも戦うことになるだろう!だが、諸君!これは我々の愛する日本の運命をかけた一戦なのだ!臆するな!この戦いで真の平和を手に入れるのだ!過ちの連鎖はここで断ち切るのだ!負の運命の鎖を………我々の手でッ!」
「航空隊発進せよ。繰り返す。航空隊全機発進せよ。」
『あいつらにミサイルのプレゼントをくれてやろうぜ!発進する!』
次々に飛び立つ飛行機。
錨を上げ、海原を切り裂いて進む戦艦。
そして重厚な音を、咆哮を立てながら猛進する陸戦隊。
戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
新生大日本帝国の基地が見える丘。
そこに、悠斗と和久井がいた。
「そろそろ始まる筈だ。準備しろ、悠斗。」
「はい。」
準備をしながら考える。
何故この人は東北の基地が攻撃することを知っていたのだろうか。
勿論、基地の人間だと言われたらおかしくはない。
だが、もし基地の人間だったとしたのなら、どうしてたった一人で行動していたのだろう。
もしかしたら、元は大勢で行動していて、その途中に仲間が死んでしまったのかもしれない。
しかし、ジープにはあまり食料がなかった。
食料はできる限り持っておくのは鉄則のはず。
初めは大勢で行動していたと考えても、少なすぎる。
まさに、一人が生活していく分の食料しかなかった。
(食料を持って行けない理由があったのか……?だとしたら……。)
和久井の方をちらりと見る。
(この人は一体、何者なんだろう。)
疑念が、膨らむ。
数十分後。
新生大日本帝国通信指令室。
「レーダーに反応あり!航空機です!……これは!」
「どうした!」
「50、100……100機以上の航空機が、この基地に接近しています!」
「ええい、何故気づかなかったのだ!急いで兵を戦闘配置につかせろ!奴らが先に攻めてきたのだ!岸沢閣下にお伝えしろ!急げ!」
「は、はいぃ!」
通信機に向かって男が喋りだす。
「緊急警報発令!敵機接近!迎撃しろ!一機残らず叩き落とせ!」
(スパイは何をやっていたのだ……。優秀なのを三人向かわせたというのに、連絡がない。ばれたのか……?それとも……。)
航空機だけということはあるまい。
恐らく、陸からも海からも攻めてくるだろう。
「陸軍と海軍にも連絡を取れ!迎撃するのだ!」
急に慌ただしくなる部屋。
それは戦いを前にして気持ちが高ぶっているからだろうか。
交錯する思い。
それは一つの糸となり繋がっていく。




