独立
新生大日本帝国の攻撃隊が列を作り、倉庫から脱出しようとする。
ゾンビが迫っているのは爆発した壁の方であり、U-3はこちらを追わずに、今倉庫内にいる人間を襲うと決めたらしかった。
その攻撃隊の真ん中の車の中に麗香がいた。
(どうしよう………。何とかしないと。)
そう思うが、両手両足を縛られている今の状況では何もできない。
仕方なく、隊員の話に耳を澄ます。
「………しかし、良かったんですか?こんな小娘一人で。確か全員連れて来いという話では?」
「奴らはこの小娘一人を残してゾンビに襲われ死亡した。………この世界じゃ何にも珍しくはないだろう?」
「ハハハ………。確かにそうですね。」
どうやら元々は全員捕まる予定だったところを自分一人に変更したらしい。
それは麗香にとって好都合だった。
この隊員たちはあの状況から悠斗たちが助かる筈はないと思っていたが、あれしきのことで死ぬはずがないと麗香は信じている。
必ず助けに来てくれるだろう。
もし悠斗たちが生きていたことがこの隊員たちの上司に知れたら、一大事だ。
この隊員たちには罰が下るだろう。
そう考えると、胸がすくような思いがした。
どんな目にあっても必ず生きて、悠斗にもう一度会う。
そう心に誓った………。
一方。悠斗はあの後すぐにU-3を射殺した。
いまだに悠斗の足もとにはU-3が体を痙攣させながら転がっている。
その死体を蹴り飛ばし、
「クッソォォッ!!」
吠えた。
悠斗は悔しかった。
力を持っている気がしていた。
何でもできる気がしていた。
だが、現実は違った。
自分はあの状況を前にして、何もできなかった。
もしあの時ああしていたら………。
そういう考えが頭をいっぱいにする。
後悔。
悠斗は今、初めて後悔の意味を知った気がした。
大関が駆けつける。
「悠斗!麗香は!?」
「連れ去られました……。」
「何だとっ!?」
どうやら大関はその瞬間を見ていなかったようだ。
「早く助けに行きましょう!」
悠斗が走り出す。
だが、大関はその手をつかんだ。
「駄目だ。」
「どうしてですか!」
「あの攻撃隊はそれなりの訓練を受けていたし、数だってかなりのものだ。我々が束になってかなうかどうかも分からない。数人は死ぬだろう。もしかしたら全滅するかもしれない。一人を救うのに、そのリスクは大きい。」
大関の言うことが正しいことは分かっていた。
だが、悠斗には我慢できなかったのだ。
麗香の笑顔が壊されることが。
「だったら麗香を諦めろって言うんですか!?冗談じゃないですよ!麗香は今も助けを待っているんです!不安を抑えて必死に待ってるんです!助けに行かないと!」
「………………。」
「大関さん!」
「……駄目だ。私はリーダーである以上、全員の安全を最優先しなければならない。」
「………だったら、俺一人で!」
悠斗は手を振り払い、疾風に向かう。
「悠斗!何をするつもりだ!」
大関が追いかける。
だが、悠斗が疾風に辿り着き、ドアを閉めて鍵を掛ける方が早かった。
「やめろ!危険だ!無茶だ!」
「無茶なんて言葉はこれまでに何度も吹き飛ばしてきました!大関さんは皆を東北まで無事届けてください!それがリーダーとしての務めです!」
そう言ってアクセルを踏む。
疾風が急発進する。
倉庫から出ようとすると、山本が疾風の前に立った。
あわててブレーキを踏む。
「どいて下さい!」
「……助けられると思っているのか?」
「……はい。」
「………ガキが一丁前な口聞いてんじゃねえぞ!」
山本が初めて見せる鬼のような形相に悠斗は竦む。
「みすみす死にに行くようなもんだ!俺はもう、お前みたいな子供が死ぬのは見たくねぇんだよ!」
山本にもつらい過去があるのだろう。
悠斗自身がその話を聞いたことはないが、それでも、そういうものを持っているからこそ出せる説得力を山本は有していた。
「……それでも、俺は行きます!行かなくちゃいけないんです!」
「……生きて帰ってくるんだな?」
突如聞かれる質問。
だが、今の悠斗にとって、その質問に答えるのは容易だった。
「はい。」
漢ならその一言ですべてが伝わる。
「……そうか。だったら俺はもう何も言わねぇ。ほらよ。」
山本が近づいてきたので窓を開けると、ネックレスを渡してきた。
持ってみると、かなりの重さがあった。
「そいつは、俺が俺の親から貰ったお守りだ。大事にとっとけよ。」
山本の優しさに涙が出そうになる。
「俺は奈々ちゃんを守らなくちゃならねぇから、一緒にはいけねぇ。だが、この言葉を忘れるな。ノーガッツ、ノーグローリー(ガッツの無い者に栄光はない)だ。」
「ノーガッツ、ノーグローリー……。」
「さぁ、行け!………死ぬんじゃねぇぞ。」
山本の頬を涙が伝う。
「ッ!……行ってきます!」
山本の思いと言葉を胸に、悠斗は疾風を走らせ、麗香を追跡する。
「待ってろ、麗香。必ず、必ず━━━━━━。」
去って行った疾風の後ろを、数匹のゾンビがフラフラと追って行った。
次回もお楽しみください。




