誘拐
まず悠斗と伊吹は倉庫の奥にある小部屋を探索することにした。
そこには、収穫した作物を置いてあるらしく、小麦粉等が置いてあった。
入口の横にある棚が目に留まる。
「なんかないかな……。」
暫く探すと、zi〇poライターとオイルがあった。
ポケットにしまっておく。
その後も小部屋の探索をつづけたが、何もないようなので二階に上がる。
カツン、カツン。
一段ずつ梯子を上っていく。
2階はどうやら物置のようになっているらしく、精米機や脱穀機などの機械や、鍬や鎌などが雑多に置かれている。
悠斗は伊吹と共に物の間を縫うように歩く。
「敵は居ないのか……?」
レミントンを使うには狭すぎるため、9mm拳銃を構えた状態で索敵する。
「うおッ!」
ドタン。
前のめりに倒れる。
「アハハ!悠斗だっさ~い!」
「うるせー。……何に引っかかったんだ?」
足元を見ると、そこの部分の板に亀裂が走っていた。
老朽化により、板が割れてしまったのだろうか。
割れた亀裂から、先程入った小部屋が見える。
「全く……ちゃんと直しとけよ。こういうのはだれか引っかかるから危ねぇだろうが。雨音も気を付けろよ?」
「解ってるって。」
再び歩き出すと、
ガタッ。
急に物音がした。
その方向に体を向けると、血を流した人がうつ伏せで転がっていた。
「人ッ!?死体か…?雨音、もし彼奴がゾンビだったら銃で撃ってくれ。」
「解った。気を付けてね。」
伊吹の射線を開けた状態で死体に近づく。
バールの先で体をあお向けにする。
死体は女だった。
開き切った眼。
青白くなった顔。
その口からは一筋の赤い線が伝っている。
体の部分は、腹が大きく欠損していて、背骨が見えそうな感じだ。
「ひどいな……。」
せめてその眼を閉じてやろうと死体の顔に手をやろうとしたその時。
伊吹の叫び声が聞こえた。
「悠斗!上!」
「上!?」
天を仰ぐようにして上を見る。
天井に着いた大きな窓。
その窓が大きな音を立てて割れる。
「うわッ!」
悠斗はとっさに後ろに飛び退く。
すると、その窓を突き破った物体が二つ悠斗たちの前に降りてきた。
「なッ!U-1!」
U-1というあの赤い生物。
それが悠斗たちの目の前に降り立った。
しかも2体。
「何でここに此奴らがいるのッ!?」
「何で…………そうか!」
此方の道を塞ぐように立って動かないゾンビ。
女が転がってきた途端に出てきた赤い生物。
そして村下の話していた敵の情報。
その三つが悠斗の頭の中で一つの線で結ばれる。
「村下さんが言っていた頭が異常に発達したゾンビ(U-3)だ!それ以外に考えられない!」
恐らくU-3がどこかに隠れて指示を出しているのだろう。
そう考えれば辻褄が合う。
「雨音!多分俺の推測は正しいから、それをみんなに伝えてきてくれ!」
「悠斗はどうするのッ!?」
悠斗は赤い生物に向き直る。
「此奴らを………殺す!」
伊吹は考える。
ここで自分が行ってしまえば悠斗が死ぬかもしれない。
だが、伊吹の頭の中では不安より信頼が勝った。
「絶対に死なないでね!死んだら殴り殺すから!」
「二度も死んでたまるかッ!……早く行け!」
伊吹が後ろを向いて駆けだしたのと同時に9mm拳銃をU-12体に向ける。
ダン、ダン
2回続けて発砲する。
銃口から放たれた2発の銃弾がU-1の片方の肩ともう一方の頭に命中する。
だが、スラッグ弾でさえ仕留めきれなかったのだ。
9mm拳銃ではひるみもしない。
「クソッタレ!」
後ろに下がりながら4発銃弾を撃つ。
一発は大きく左に逸れ精米機を穿ったが、残りの三発は命中した。
「グォォォォォォォォッ!」
U-1が2体で大きく咆哮を上げ、腰を落とす。
突進の体勢だ。
すかさず残りの三発を2体の右足に撃つと、リロードしようとする。
だが。
「あれッ?無い……無い!」
ポケットに入れておいたマガジンがなかった。
きっと転んだ拍子に落としたのだろう。
U-1達が突進してくる。
悠斗との差は10mもない。
到達までは恐らく数秒だろう。
しかし、悠斗はその間にレミントンを何とか前に構えていた。
もうU-1達は目前に迫っていた。
「ッ!!」
悠斗は銃口を少し下に下げ、床を撃った。
U-1の足が前に出る。
その瞬間。
悠斗の視界から、バキバキという音とともにU-1達が姿を消した。
悠斗の目の前にはぽっかりと空いた大きな穴。
そう。
悠斗は唯地面を撃ったのではない。
撃ったところには、悠斗がさっき躓いた亀裂があった。
その亀裂をレミントンでさらに広げ、U-1達の体重に耐え切れずに床が抜けたのだ。
そしてその下は最初に悠斗と伊吹が調査した小部屋。
悠斗は穴を覗きこむ。
すると、中でU-1が2体とも起き上がろうと手足を動かした。
その拍子にたくさんの小麦粉の袋が破れる。
それらの中から小麦粉があふれ出し、小部屋は真っ白になった。
「だから言っただろうが!ああいう亀裂は直しとかねぇと危ないってなぁ!」
悠斗はさっき拾ったライターに火を灯す。
そして。
「皆伏せろぉぉぉぉぉッ!!!」
出来る限りの大声で叫ぶとライターを投げ入れ、後ろに飛び退いて伏せた。
その直後、爆発が起こり、小部屋が吹き飛んだ。
開いた穴から炎が噴き出し、木造の2階部分に引火した。
急いで下に戻らねば、2階が焼け落ちてしまうだろう。
悠斗は梯子を焦りながら下りたのだった………。
一階に降りると、先程開いた穴からゾンビが迫ってきていた。
今は炎のおかげで侵入を防げているが、じきに入り込んでい来るだろう。
だが、今急いで逃げたからと言って道路で立ち往生が関の山だ。
ここを切り抜けるには、U-3を倒す必要がある。
まず、大関達と合流しようと思った悠斗が車の方に向かった瞬間。
「ギィィィィィィィッ!」
上から何かが落ちてきた。
一言で表すなら脳のお化け。
巨大な脳から頭と手が突きだしているような感じだ。
きっと天井裏にでも隠れていて、煙で燻されるか、炎の熱で落ちてきたのだろう。
ラッキーだなと思いつつレミントンを構えた。
だが、そうは問屋がおろさなかった。
壁が吹き飛ぶ音とともに、叫び声が聞こえてきたのだ。
「悠斗君!助けて!」
吹き飛んだ壁から、屈強な男たちが入り込み、麗香を引っ張っていく。
村下も、突然のことだったので守りきれなかったのだろう。
「麗香!」
しかし、敵の一人が悠斗に向けてMP5を撃ってきたため、柱の陰に逃げ込んだ。
「止めろ!」
だが、勿論止めるはずもなく。
麗香は『新生大日本帝国』と書かれた車に乗せられ、その車はどこかへ走り去ってしまった。
「麗香ァァァァッ!絶対助けるからなァァァァッ!」
その叫びは果たして麗香に届いただろうか。
いや、届こうが届くまいが、麗香は信じているだろう。
必ず悠斗が助けに来てくれる、と。
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