会議
「悠斗!今の銃声はなんだ!」
倉庫の扉を叩く音がする。
恐らく、宇田が悠斗を逃がさないように鍵を閉めておいたのだろう。
「今開けます。」
そう言って鍵を開けて扉を開く。
大関と宮本が中に入ってきた。
そして倒れている宇田と、その傍らに眠るように倒れているこどものゾンビを見て、驚愕している。
ついさっきまで話していた相手が屍になっていたら、驚くのも無理はないだろう。
事の顛末を話さなければと思い、悠斗は口を開いた。
一方、大阪。
大阪湾の近くにある大きなビルに、新生大日本帝国の本拠地がある。
元々はどこかの会社が使っていたようだが、その設備をほぼそのまま利用している。
と言っても、最早使いものにならなくなったパソコンなどは、高所からパソコンを落とし、バリケードに群がるゾンビを駆除するのに少しは役立つこととなったが。
バリケードの範囲はどんどん拡張されていき、このビルの半径3kmは安全地帯であり、軍の駐留地である。
また、沖縄にある基地からは、海路や空路で物資が運ばれてくる。
また、四国からは食料が送られてきている。
物資、食料共に問題はない。
また、あのラジオ放送以後、こちらの仲間にしてくれと頼むものも増え、人員もかなりのものになった。
そして今、その新生大日本帝国の帝王である岸沢 誠一郎と、幹部である数人が会議室の大きなテーブルを囲んでいた。
「作戦の決行まであと六日………。首尾はどうだ。」
「問題ありません。」
幹部の一人が答える。
「そうか。では、これから作戦会議をする。」
テーブルの上に、日本地図が置かれる。
その日本地図には、青い丸と赤い丸が書きこまれていた。
「青い丸が味方拠点。赤い丸が敵拠点です。」
参謀長がポインターを使って説明する。
「場所は正確か?」
「はい。偵察部隊を何度も送りました。確実です。」
「そうか……。続けてくれ。」
「解りました。………敵の本拠地はここです。」
東北の一部を指し示す。
「スパイからの情報によると、奴らは北海道の拠点から物資を運びこんでいるようです。冬が終われば、栽培を始めるでしょう。」
「長期戦になる前に叩き潰せばいい話だ!」
幹部の一人が息巻くが、岸沢はその幹部を射抜くような冷たい目で見た。
「陸軍大将……。敵を見縊ってはならない。我々は日本が今まで行ってきた戦いでそれを習ったのではないか?」
「ハッ!申し訳ありませんでした。」
「わかればいい……。では、改めて続けてくれ。」
「はい……。この基地には、対空攻撃用の兵器が配備されています。また、もともと自衛隊の基地だったという事もあり、正規の戦闘員が多いようです。」
「そうか……。その対空攻撃とは?」
「03式中距離地対空誘導弾や、81式短距離地対空誘導弾などを積んだ車両が配備されており、対空砲も周囲のビルの屋上などに設置されている模様です。」
「となると……。陸か海からの攻撃で敵を混乱させた後、空軍で爆撃を仕掛けたほうが犠牲が少なくて済む……か。」
「海からが一番現実的かと思われます。我々は、くらまを始めとした6隻の護衛艦と、きりしま、ちょうかいのミサイル護衛艦を持っています。これを使わない手はありません。」
「動かせるのか?」
「はい。その船の正式な乗組員は8割がこちら側におり、残りの乗組員を訓練中です。」
「では、海からその基地や、その周りに拠点を砲撃し、混乱したところに陸軍が進撃。そして敵の基地に空軍が急降下爆撃を与える。これでいいか?」
「大筋はそれでよいでしょう。では、それで作戦を立てていくと………。」
その直後、急に扉が開き、通信部の兵士が転がり込んできた。
「大変です!」
「何事だ!」
「哨戒班より報告です!北陸の拠点が一つ落ちました!」
「何だと!?」
会議室が騒然となる。
だが。
「静まれッ!!!!」
岸沢の怒声で静まり返った。
「どこの拠点だ?」
「ほ、北陸方面第七拠点です!」
「解った。その基地は確かガソリンスタンドだったはずだ。ガソリンの残量を調べろ。」
「調べてあります!最後の報告時よりも、一割ほど少なくなっていたそうです。」
「一割……か。敵は東北の奴らではない。賊だ。」
陸軍大将が口を開く。
「どうしてそう思われるのですか!?」
すると、岸沢はこともなげに、
「もし敵が東北の奴らならガソリンを残したりはしまい。残さず持っていくか、基地を破壊させるかだろう。」
と言った。
場の全員が納得する。
「だが……。その賊は必ず見つけ出して殺せ。これは兵の士気にかかわる問題だ。」
「解りました。」
「では明後日、小松の空港を押さえる。そこを足掛かりにして東北を攻撃する。」
「ハッ!」
全員が岸沢に頭を下げる。
(あの拠点の隊長とは面識があった。妻子を愛する男だった。……賊め、見つけ次第捕まえて公開処刑だ。)
そう心に誓う岸沢であった。
「そうか……。そんなことが。」
そんなことなどつゆ知らず。
悠斗は事の顛末を話し終えていた。
「災難だったな………。」
「いえ、それに最後は親子で寄り添って眠ることができたんです。形は違えども……。幸せでしょう。」
「そう願おう。」
倉庫の方に車が入ってくる。
「さて、搬入だ。やるぞ。」
「了解。」
そう返事をして、悠斗は立ち上がったのだった。
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