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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
同害報復
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寂寥

少し長いです。

かくして、悠斗たちは林道を脱出することができた。


幸い、あの馬は追って来なかったようだ。


そして、その林道を超えた先にあったのが休憩所や土産物が売っている店。


所謂道の駅というやつである。


そこに車を止めた。


「整備班は給油。通信班は情報の収集。雑用班は汚物の処理などを頼む。戦闘班。伊吹は待機。私と悠斗と宮本は降りて建物の調査だ。」


「了解。」


ゆっくりとした足取りで建物内に入っていく。


「悠斗君、ごめん。槍使っちゃった。」


宮本が申し訳なさそうに謝る。


「いいよいいよ。気にすんなって!最近使ってなかったし。」


「二人とも静かにしろ。行くぞ。」


大関に窘められ、首を竦めながら店に入る。


店はいくつかの店舗が繋がって出来ている。


産地直売のコーナーに置いてある野菜から湧き上がる腐臭に耐えながら、さらに奥へと進んでいく。


「ッ!」


大関が立ち止まる。


奥にある倉庫らしきところの戸を、数体のゾンビが叩いていたのだ。


「アァぁぁぁアア………ゥェぇェぇエエエ…………。」


「ヵァぁぁアアぁぁァ………。」


すると、こちらに気付いたのか戸を叩くのをやめてこちらに向かってきた。


生前なら温和な笑顔を浮かべたであろう老夫婦や、身体に包丁の刺さった少年が歩いてくる。


そのゾンビの頭を大関と悠斗がバールと鉄パイプで、まるでスイカ割のように叩き割る。


「ぐぇェぇェぇ………。」


体を痙攣させて、動かなくなるゾンビ。


見慣れた光景ながら、どこかやるせなさを感じる。


「奥の倉庫に何かがあるな。もしかしたら生存者かもしれん。行くぞ。」


「はい。」


倉庫の前に行き、扉を叩いて呼びかける。


「あのー。誰かいますか?」


返事はない。


「開けますよ………。」


扉を開けると、30代くらいの女の人が、恐怖に満ちた顔で座っていた。


「ん?」


一瞬違和感を覚えたが、その原因は何かわからなかったので頭の隅にその違和感を置いて女の人に話しかける。


「大丈夫ですか……?」


「あ、は、はい。大丈夫です。」


どうやら無傷のようだ。






















その女の名を宇田うだ 祥子しょうこと言った。


倉庫にあった食料のおかげで生き永らえていたようだ。


彼女によると、生存者はいないらしい。


よく、こんな極限状況で一人きりで入れたものだ。


と、悠斗は感心する。


自分だったら、耐え切れずに狂っているだろう。


しかし、そのことを彼女が語っている間、彼女は震え、落ち着かない様子で辺りを見回していた。


きっとまだ恐怖が抜けきっていないのだろう。


「では、引き続き調査を続けよう。ここに有る物資は持てるだけ持っていくぞ。」


大関が立ち上がる。


「あ、あの!」


宇田が声を上げる。


「どうしました?」


「あ、その……いえ、何でもないです。」


歯切れ悪そうに言う。


何処か怪しく思うが、一応彼女も被害者であり、悠斗たちの仲間だ。


今は信頼することにする。


「では、私は他の場所を調査する。宮本は生存者がいたことを知らせ、トラックを近づけろ。悠斗はここで待機だ。解ったな。」


「了解。」


大関と宮本が倉庫を出る。


倉庫内が静寂に包まれる。


宇田はやはりそわそわしている。


「あの、何か心配事でも?」


「いいえ!何でもないです!」


怪しい。


きっと何かを隠しているのだろう。


この倉庫内に何か………。


「あの、私トイレに………。」


「あぁ、どうぞ。ゾンビには気を付けてくださいね。」


「はい。」


宇田が倉庫を出て行ったのを確認して、悠斗も立ち上がる。


(この倉庫内をくまなく調べよう。)


暫く倉庫を探索すると、段ボールが積み重なった壁があった。


「行き止まりか……。」


そう思い、戻ろうとする。


すると、その時に持っていたバールの先端が段ボールに当たり、段ボールの壁が崩れる。


「うわわっ!」


押しつぶされると思ったが、どうやら中身は空だったようだ。


「何だって空の段ボールを………。」


そう思い、段ボールの壁があったところを見ると、そこには扉があった。


「扉……?」


扉を開ける。


すると、中にあったのは。


「宇田さんが隠していたのはこれだったのか………。」


搾りだしたかのような呻き声。


椅子に縛り付けられた手足。


大きく欠損した肩。


白濁した目。


幼稚園児くらいのゾンビだった。


服装から、男の子だと推測できる。


きっと、宇田の息子だろう。


そして極めつけは、そのゾンビの回りに転がっている人骨。


宇田は恐らくこのような姿に成り果てた息子に、最高の餌を与えていたのだろう。


大関に連絡をいれようとし、無線機を取り出したその直後、後ろから段ボールを踏みつぶす音がした。


後ろを振り返ると、宇田が鉄パイプを振り上げていた。


「やぁぁ!」


「グッ!」


バールで受け止める。


「見たわね………。」


「宇田さん……アンタの息子さんか?」


「そうよ!」


宇田が後ろに飛び退く。


そしてもう一度鉄パイプで殴りかかってくる。


それをまたバールで受け止める。


最初に宇田と出会った時の違和感。


あの時の違和感は、『救助にきた』と告げて入ってきたのに、まるでゾンビに遭遇したかのような恐怖に満ちた顔をで見ていたことだったのだ。


「ここにある人骨は、あんたが食わせたのか?」


「その通りよ!何も食べないとこの子死んじゃうじゃない!」


「…随分と好き嫌いが激しいお子さんみたいだな。」


最初に会ったときは、よくこの状況下で正常でいられたなと思ったが、なんのことはない。


最初から狂っていたのだ。


「だって仕方ないじゃない!この子は動いてる!お腹だって空かせてるのよ!?子を殺せる親がいるの!?」


「アンタの息子さんはもう死んでるんだよ!動いていようが息してようが、感染した時点で死人と同じだ!」


鉄パイプ越しに伝わる宇田の力が強まる。


「私は、人間である前に!親でありたいのよ!」


「クッ!……あぁ、なるほど、そいつは立派だ。………だけどなッ!」


鉄パイプにバールを叩きつけて鉄パイプを弾き飛ばし、腰のホルスターから9mm拳銃を取り出す。


「それは唯の自己満足だ。その自己満足の為だけにどれだけの人を犠牲にしたかよく考えろ。アンタは俺が裁く。」


「裁く?あなたが私を?法もないのに?笑わせないで!子を思って何が悪いのよ………!」


「確かに法のない今じゃ、刑法でアンタを裁くこともできない。だから俺が決める。俺が法だ。アンタは危険すぎる………。そして。」


引き金に力を込める。


「アンタには最初っから死刑が下ってたんだよ。」


ダン。


宇田の胸に赤い花が咲き誇った。


「うぐっ………。」


宇田が胸を押さえてよろめく。


だが。


「………ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」


「何ッ!?」


撃たれた直後、宇田はすごい勢いで這い出した。


向かった先は、愛する息子のもと。


息子を縛る枷をすべて外す。


悠斗は一心不乱に枷を外すその様を呆然と眺めていた。


枷を外し終わると、力を使い果たした様子で、その場に倒れ伏した。


「これで……あなたは自由………好きなだけ………………あなたの…………好きだった………サッカー…を………。」


それきり宇田は動かなくなった。


一方、解き放たれた宇田の息子は、その場にしゃがみ込んで、宇田を喰い始めた。


悠斗は、やるせない気持ちにかられながらも、宇田の息子に銃を向けた。


躊躇うことなく引き金を引く。


銃弾が、頸椎に穴をあけた。


ドシャリと倒れた息子は、母に寄り添ったまま、動かなくなった。


「本当の自由をあげよう……。そんな体じゃ自由になれないだろ?なぁ………。」


悠斗はくるりと踵を返す。


「名前も知らない男の子よぉ……。」


何故そう呟いたかは悠斗自身にさえ分からなかった。








どんな形であれ、親が子を思う気持ちは大きいものです。

そのことに日々感謝していきたいですね。

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