追走
五台の車が列を作り、山道を走る。
そしてそれを追いかけるように、馬が走る。
「クソッ!あの馬何処までもついてきやがる!」
山本がハンドルを叩く。
山道なので、あの馬を突き放すほどのスピードは出せない。
五号車が馬に追いつかれる。
「チッ!応戦したい所だがハンドルから手を離せんな。永森は運転できないし………。」
「グガァァァァァァァァァァ!!!」
馬が体当たりをしてくる。
「キャアッ!」
車が揺れ、水咲が悲鳴を上げる。
「何か手は………!このままでは!」
「ッ!」
水咲には許せなかった。
こんな切迫した状況で何もできない自分を。
そしてそんな自分がのうのうと守られていることを。
「わ、私だって!」
運転している大関の腰にあるホルスターに手を伸ばす。
そこから大関の9mm拳銃を抜き出す。
「な、永森!何をするつもりだ!」
「私はあなたの力になりたいんです!撃ち方は解ってます!」
「な、何故知っているんだ?」
「私はあなたをずっと見ていたんです!」
「何で私ばかり見ていたんだ!?」
大関は頭に?マークを浮かべている。
「わ~~~~ッ!今のはき、聞かなかったことにしてください!」
そういって窓を開ける。
「え~っと、ここをこうしてこうやって………。」
「ガァァァァァァッ!!!」
「ひっ!……大丈夫。落ち着いて落ち着いて………。」
すると、馬が鬣に生えている触手を、車に突き立ててきた。
割れた窓ガラスの破片が水咲の腕に突き刺さる。
「痛ッ!………くない!こんなの痛くない!」
痛みを堪えながら、銃を構える。
「この距離なら外さない!」
ダン、ダン、ダン
引き金を引く。
頭に、首に、胴体に銃弾が当たる。
だが、馬は走るのをやめない。
「当たってるのに!何で止まらないの!?」
撃たれたところから触手が噴き出し、元通りになる。
「奴の体の中は恐らく触手の集合体だ!本体を殺さなければ、恐らく倒せないだろう!」
「そんな!」
また自分は何も出来ないのか。
そんな思いが胸を裂く。
そして馬は鬣を蠢かせながら、大関の車に徐々に近づいてきた。
一方三号車の宮本。
「このままじゃ大関さんたちが危ない!伊吹さん、運転替わって!」
「あいよ~!でも何するの?」
「……あの馬にご褒美を上げなきゃね。」
そういうと、悠斗が作った電動槍を持って扉を開ける。
「ち、ちょっと何を!」
「ほら、前見てないと事故るよ!」
そして、扉から身を乗り出し、車上に出る。
十二月の冷たい風が体を切り裂く。
そのまま這うようにして、車の一番後ろまで移動し、片足立ちになる。
今からやろうとすることは、危険極まりない行為。
しかも失敗は許されない。
緊張感に、汗が頬を伝う。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
深呼吸。
深く息を吸い、熱くなる体を冷ます。
(落ち着け。冷静になれ。慌てちゃだめだ。)
心の中で呟きながら、立ち上がる。
そして。
「たぁッ!」
宮本は槍を携えて飛んだ。
時間が制止する。
唯々ゆっくり時間が過ぎていくように思える。
そして、宮本は四号車の車上へ着地した。
「フゥ~!上手く行った!」
同じ要領で四号車の最後尾に移動する。
五号車の横を馬が並走している。
無線で連絡を入れる。
「山本さん!五号車との距離を縮めて下さい!」
『おうよ!任しとけ!』
「大関さん!もっと端に寄ってください!」
『解った!』
四号車が、五号車との距離をつめる。
その距離は、およそ一馬身差といったところか。
そして、五号車が道路の端を走る。
すると、並走している馬は、道路の真ん中あたりに来る。
宮本から見れば、一直線上で、槍の届く位置に馬がいる。
馬の意識は完全に五号車に向いている。
やるなら今だ。
ポケットからテープをだし、ドリルのスイッチを押して固定する。
「ご褒美にニンジンをあげるよッ!」
真っ直ぐに突き出された槍が、馬の額に突き刺さる。
そして、先端の槍先がドリルの力で馬に沈み込んでいく。
「グガァァァァァァァァォォォォォォ!!!」
宮本の作戦はこうだ。
あれだけの馬を動かすほどの本体は、決して小さくはないだろう。
だから、槍を額から胴体に向けて一直線に刺すことによって本体を燻りだそうとしたのだ。
果たして、馬の背中から巨大なカブトムシの幼虫のようなものが現れた。
「キュィィィイイイ!キュィィィイイイ!」
うねうねと左右に体をくねらせながら叫んでいる。
その本体に、水咲は狙いを付けた。
「今度こそ!えいッ!」
放たれた四発の弾丸は、一発しか命中しなかったものの、多大なダメージを与えたらしく、馬はもんどりうって倒れた。
見る見るうちに馬との距離が遠ざかる。
「やったぁッ!」
宮本と水咲が同時にガッツポーズをする。
東の空が少し白んできていた………。
次回もお楽しみください。
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