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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
同害報復
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銃撃

何時もより少し長いです。

「よし、では改めて出発だ。一号車から発進せよ。」


「了解!」


アクセルを踏み、車を走らせる。


十二月に入って入るのだが、この前雪が降ったっきり、雪が降る気配はない。


北陸は一般に雪国と呼ばれているが、本格的に雪が降り出すのはいつもクリスマスくらいだ。


(クリスマス、か。)


悠斗は思考をめぐらせる。


世界が終わった今となっては、行事を行うどころか、生きることすら難しい。


自分たちはただ単に運がいいだけなのだ。


いつ何が起こってポックリ逝くかなんてわからない。


そういう世界だ。

















暫く車を走らせていると、遠くの方に看板があるのが見えた。


その看板は、この地方ではよく見かけるガソリンスタンドの看板であった。


無線で連絡する。


「大関さん、前方にガソリンスタンドが見えます。どうしますか?」


『燃料はなるべく多く確保しておきたいからな…。とりあえず寄ってみよう。』


「解りました。」


そのまま直進する。


だが。


「うわっ!」


近くに寄るまで見えなかったが、よく見ると、道に有刺鉄線によるバリケードが敷かれていた。


慌ててブレーキを踏むが、もう遅い。


疾風はバリケードを突き破ってしまった。


幸い、疾風は頑丈なので無傷であったが、車内の衝撃は凄まじかった。


「悠斗君…。何があったの?」


「いててて……。俺にもさっぱりわからねぇよ。なんでこんなところにバリケードなんか……。」


フロントガラスから外の様子を見る。


すると、武装した人がガソリンスタンドから出てきて、此方に向かってきた。


「大関さん!こちらに武装した人が来ます!」


『話し合いの余地はありそうか?』


「解りません……。これで新生大日本帝国の方々だったら最悪ですよ…。」


『だな……。』


武装した人の中でも、最も年配の男が口を開く。


「ここは、新生大日本帝国、北陸方面第七中継拠点だ!貴様らは民間人か?」


最悪のパターンだ。


「あぁ、そうです。」


「ラジオ放送は聞いたのか?」


悠斗は迷った。


素直に答えるべきかどうか。


ここで素直に答えれば、仲間になれと言われるか、浄化されるかのどちらかだ。


だが、素直に答えなかった場合、それが嘘だとばれたら相手の気分を著しく害するだろう。


「大関さん、どうします?」


『素直に答えておけ。奴らが私たちを引き込もうとしたら、我々は拒否する。恐らく戦闘は避けられんだろう。各員、戦闘準備。』


「放送は聞きました。」


「そうか。ならば問う。我々の仲間になるか?」


『全員、狙え。』


「仲間に………」


悠斗が窓から体を乗り出し、『YU━TO』と書かれた銃を取り出す。


伊吹が89式小銃を構える。


宮本がスコープで狙いをつける。


大関が、車を飛び出し、匍匐の姿勢となって銃を構える。


「……なるわけねぇだろ!」


『攻撃開始!』


構えられた四つの銃口が一斉に火を噴く。


まるで射的の景品の如く綺麗に整列していた相手は、瞬く間に倒れていく。


「礼儀が仇になったな!」


ダン、ダンと連射する。


だが、向こうも負けてはいない。


全員が後ろに下がり、土嚢を積んだ壁の後ろから射撃を行う。


何とか無傷で第一射を凌いだリーダーらしき男が、無線機で仲間を呼ぶ。


「緊急事態発生!賊だ!撃ち殺せ!」


すると、ガソリンスタンドから、装甲車が出てきた。


装甲車ではあるものの、正式に量産されているようなものではなく、ワゴン車をベースにして、その周りに鉄板の装甲で全体を覆ったもののようだ。


車体上部には、機関銃が搭載されている。


ドアの継ぎ目まで鉄板に覆われているため、恐らく天窓から出入りするのだろう。


そして、車体上部についている機関銃を放ってきた。


このままでは、いくら疾風が分厚い装甲を改造して付けているとはいえ、走行不能になってしまう。


「大関さん、このままじゃ!」


『私以外の戦闘班!前方の疾風の物陰から応戦。それ以外の者は後ろに下がれ!』


「大関さんは!?」


「私はあの装甲車を何とかしてくる。」
















戦闘は苛烈を極めていた。


土嚢の壁の防御力と、機関銃の弾幕に、守ることで手いっぱいの悠斗たち。


機関銃という強力な力を持っているが、疾風の陰からの射撃で攻めあぐねる拠点兵。


だがしかし、拠点兵側は知らなかった。この隙に、大関が自分たちの後ろに回り込んでいることを…。


その頃、ガソリンスタンド内では。


「戦闘かよ!?」


「いいから行くぞ!俺は先に応戦しに行く!」


男が慌てて準備をし、テーブルの上のニューナンブを取った。


その瞬間。


「ガァ………ッ!」


背後から、誰かに首にナイフを突き立てられ、絶命した。


「後ろを取ったぞ……!」


そのナイフを突き立てたのは、誰でもない、大関である。


ガソリンスタンド内にいた敵は、今のですべて排除した。


ガソリンスタンド内から、外の様子を窺う。


すると、幸運にも、装甲車が一番後方から射撃していることが分かった。


そっと忍び寄る。


天窓から身を乗り出した男が、機関銃を撃っている。


まだ誰にも気づかれていない。


装甲車にいちばん近い柱に身をひそめる。


目測では、およそ8歩ほどの距離がある。


全員が向こうを向いている隙を見計らって、装甲車まで移動する。


一歩━━━。


誰も気づかない。


また一歩━━━。


全員が悠斗達に向かって撃ちまくっている。


さらにもう一歩━━━。


装甲車に近づく。


これで半分━━━。


悠斗達に撃ちまくる一人の弾が切れた。


五歩目━━━。


弾が切れたやつが後ろを向き、こちらを視認する。


もう一歩━━━。


弾が切れた奴が、敵が此方にいると伝える前に、銃を眉間に向けて放ち、黙らせる。


もう少し━━━。


撃たれた隣の仲間に匍匐で近づいた男が不思議がる。


隣にいた仲間は眉間を撃たれている。


では、何故眉間を撃たれたなら。


この隣にいた仲間は後ろを向いていたのに、悠斗たちの方向に向けて倒れたのか。


後ろを向いていて、眉間を撃たれるなどありうるだろうか。


弾は頭を貫通していないのに。


最後の一歩。


敵が後ろを確認した時には、既に大関の体は装甲車で見えなくなっていた。


大関は装甲車の装甲を溶接した時にできたであろう出っ張りを足掛かりにして、車体の上によじ登る。


そして、天窓から機関銃で射撃している男をナイフで首元を指して眠らせる。


天窓から男を引きずり出す。


大関がタクティカルベストから手榴弾を取り出す。


車内にいる者が、銃声が聞こえなくなったのを不審がって天窓を見る。


大関と車内にいる者の眼が合う。


そして。


「メリークリスマス。クソ野郎。」


手榴弾を投げ入れて飛び降りる。


直後、爆発が起きて、装甲車は完全に沈黙した。


そのまま大関は、戦闘の起きている道の脇にある路地に入る。


そしてその路地を抜けると、敵の側面にある民家に入る。


バリケードが張ってあったので、中にゾンビはいないだろう。


それに、いるならばもうとっくに出てきている。


服がたっぷり詰まっているタンスを横に倒して、窓際に持っていき、盾とした。


そこからAR-15を構える。


クロスファイア。


日本語で十字砲火を指す言葉だが、今敵は、まさにその状況に陥っている。


既に大関が側面に迂回しているとは知らず、後方を警戒しだした敵。


統率は乱れている。


「ゲームオーバーだ。」


そのまま引き金を引く。


何の防御もない側面を攻撃されてはひとたまりもない。


敵は蜘蛛の巣を散らすように逃げ出した。


だが、そうは問屋が卸さない。


「このッ!当たれッ!」


宮本の狙撃で、一人、また一人と倒れていく。


そして、一分もたたないうちに敵は全滅した。


『大関さん、敵は全滅です!』


「そうか。必要な物資だけ回収して、早く逃げるぞ。我々は音を立てすぎた。弾を多めに持っていくんだぞ。」


『了解です。』


動き出した疾風を見て大関も自分の車へと向かったのだった。






次回もお楽しみください。

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