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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
同害報復
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出発

翌日。


悠斗の傷もある程度治り、動けるようになったので、移動を開始することになった。


ちなみに、今まで悠斗たちが使ってきた物資輸送用の三号車は、自衛隊の73式大型トラックと変更された。


燃料は多く使うが、その分耐久性に優れていたからだ。


フェンスには、かなりの数のゾンビがいたため、悠斗たちの進路と反対方向にロングノーズで砲撃し、ゾンビを集めた。


信管を抜かずに使用したため、かなりの威力になった。


『それでは、発進だ。一号車から順に発進せよ。』


「了解!」


アクセルを踏み、基地内から移動する。


といっても、音があまりならないように、時速は20kmぐらいなのだが。


これからしばらくは、日本海側をゆっくり北上し、東北まで向かう事となる。



















一方。


大関はラジオをつける。


『ザザッ……皆様…どうか落ち着いたこうど…ザーッ……避難所へ……』


放送局が自動で流しているラジオがついていた。


何処のチャンネルも似たようなものだ。


暇つぶしに、様々な放送局に合わせてみる。


『ザザッ……緊急事態宣言が発動され……』


『ザザッ……決して家から出ないように……』


『ザザッ……国民よ!決起せよ!』


「ん!?」


不意に、年配の男の声が演説している放送局を見つける。


大関はそのままその放送を聞く。


『今まで、我々は長きにわたって……ザッ……られてきた!欧米列強の家畜同然の……ザザッ』


電波が届きにくいのか、よく聞こえない。


大関は急いで無線機で全員にしらせる。


「全員、急いでラジオをつけろ!演説が行われている放送局がある。」


そういうと、再びラジオに耳を傾ける。


『世界は皮肉にも、あの忌まわしき亡者どもに……ザザッ……ザーーッ……今こそ、我々日本人の……ザザッ……見せる時である!……ザザッ……我々は、世界に向けて宣戦布告する!』


「何だとッ!?」


そう。この演説の内容は、世界に対する宣戦布告だったのだ。


『この!十二月八日……ザザッ……我々日本人が欧米列強を相手に聖戦を……ザザッ……我々はあの屈辱を欧米列強に味わせるのだ!……ザザッ……同志よ集え!武器を取り……ザザッ……がれ!我らがうけた屈辱を銃弾に……ザザッ……返してやるのだ!まずは国内にいる反乱分子……ザザッ……除する!我らの考えに……ザザッ……ものは、静岡の富士駐屯地に……ザザッ……一週間後の現時刻に本土浄化作戦を開始する。……ザザッ……我らは新生大日本帝国!臆することはないぞ同志よ!復讐の時だ!』


大きな拍手と歓声が流れる。


その口ぶりからするに、既にかなりの戦力を得ているようだ。


村下の呼びかけにも応じなかったという事は、恐らく今まで誰にもばれないように息をひそめていたのだろう。


そして一週間後、よく聞き取れなかったが、自分たちに賛同しないものをこの日本から排除するようだ。


これは尾西の時よりもまずい。


『どうしますか…?』


悠斗からの通信が入る。


「自分たちに賛同しないものを排除…か。だが、私は賛同できん。」


『ですよね…。』


「ここは全員の意見を聞きたいのだが。一度停車する。」


『わかりました。場所を探します。』


「頼んだぞ。」


無線を切って、シートに体を預け、溜息を吐く。


その様子を水咲は心配そうに見つめていた。




















ここは基地から、数十km離れたところの山間にあるキャンプ場。


そのキャンプ場の、『ふれあい広場』と書いてある看板が立っているところに五台の車が並べられている。


そして、その広場の中心にある噴水の前に、悠斗たちは集まっていた。


「あれ?村下さんは?」


「東北の基地と交信している。さて皆、ラジオ放送は聞いたか?」


全員が頷く。


「新生大日本帝国を名乗る彼らは、賛同しないものを浄化するそうだ。東北にある自衛隊基地がどう出るかだ。奴らに賛同するか、それとも全面戦争になるか、だ。」


「戦争ですか…。」


宮本が呟く。


「皆~!聞いてくれ~!」


不意に村下の間延びした声が聞こえる。


「どうやら、東北にいる国防大臣は徹底抗戦するつもりらしいよ。戦争だね、これは。」


「やはり…か…。皆の意見を聞きたい。」


山本が口を開く。


「俺には政治とか、そういう難しいことは全くわからねぇけどよ、その、新生……なんちゃらは、自分たちに賛同しないやつらを皆殺しにするんだろ?俺はそんな奴らには従えねぇよ。」


「僕もそう思います。」


宮本も賛同する。


「では、このまま東北に向かうという事で構わないか?もしかしたら、我々は戦争に駆り出されるかもしれんぞ?」


恐らく、そうなるだろう。


特に、大関のような自衛隊員は真っ先に駆り出されることだろう。


だが、大関が案じているのは自分のみではなく、未成年である悠斗たちの事であった。


「構いませんよ。変な奴らの駒になるよっかマシですから。」


それを心に刻んだ悠斗が力強く言う。


「異論はないか?」


誰も何も言わない。


「では、このまま東北に向かう。じゃあ、ここで食糧を補給してから出発だ。雑用班と悠斗はここで待機。村下は情報収集。それ以外の者は、管理棟で食糧を探す。いくぞ。」


「了解!」



















「さて、と。」


ガンホルダーから取り出したのは自衛隊の9mm拳銃。


SIG社の拳銃をライセンス生産した銃である。


実は悠斗は、自衛隊基地からこの銃を持ってきていた。


勿論弾も豊富にある。


9mm拳銃を適当に弄ぶ。


すると、視界の端に、赤い缶が移った。


近づいて行って持ち上げると、それは赤色のスプレー缶だった。


使ってみると、鮮やかな赤が地面に映し出された。


「………少しくらい、いいよな。」


その缶を手に取り、9mm拳銃のグリップに文字をスプレーしていく。


「出来たぜ!」


拳銃のグリップには、『YU━TO』の文字が。


「やっぱ自分専用っていいよなぁ~~!くぅ~~~!」


一人悦に入る。


その様子を麗香は蔭から覗いていた。


(自分専用か…。私も体に『YU━TO』て書いて、「私は悠斗君なの!」………何考えてるんだろ、私。)


頭を横に振りながら、自分の頭に浮かんだ考えを否定する麗香なのであった。
















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