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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
死中求活
35/64

静養

少し長めです。

悠斗の傷が完治するのには、数日が必要だった。


つまり、悠斗たちはここで数日間足止めされるという事だ。


「すいません。迷惑かけて。」


そのことを伝えに来た大関に申し訳なさそうに謝る。


「気にすることはないさ。我々は仲間なんだ。それに、移動ばかりの生活はストレスが溜まるものだ。今のうちに発散させるのもよかろう。」


大関はそう言って医務室を出て行った。


今、医務室には悠斗が一人きりだ。


ふと、横のサイドテーブルに置いてある銃を見る。


この銃は、悠斗が持っているニューナンブ。


そのニューナンブが、その体を横たえていた。


「清掃でもするか。」


ニューナンブに手を伸ばした……。














一方、こちらは会議室。


そしてそこに集うのは麗香と伊吹と水咲。


その中心には菓子。


そして水。


女子がお菓子を持ちよってすることなど決まっている。


そう。


女子会である。


恐らく、どこの地方であっても女子会というものは大体恋にまつわる話だろう。


所謂恋バナというやつである。


そして、この女子会もご多分に漏れず、恋バナであった。


おもに水咲が暴走するのだが。


「いや~。今回のことで雨音ちゃんと悠斗君の仲が深まったんじゃない?」


「い、いや、別にそんな事ないよ?」


「これはまさかの三角関係というやつですか~?」


ニヤニヤしながら水咲がきく。


伊吹は平静を繕っているが、内心では図星だった。


このままでは追い込まれると察知した伊吹は攻勢に出る。


「そういう水咲ちゃんはどうなのかな~?」


「そ、そりゃあ私だって女の子ですし、好きな人位は…。」


「えぇ~~~!!!」


「きゃ~~~!!!」


麗香と伊吹の黄色い声が会議室にこだまする。


「え!?本当にいるの!?誰々!?」


「教えて教えて!!!」


「……言っても笑わない?」


「笑わないよっ!」


「ねぇねぇ誰!?」


そして水咲が思いつめたように言う。


「…………大関さん。」


「…………。」


「…………。」


静寂が流れる。


「え、えっと、きっと私の耳がおかしくなったのかな?」


伊吹が麗香に聞く。


「いや、多分私の耳もおかしくなったみたい。も、もう一回行ってくれない?」


「だから、私は……大関さんのことが好きなんです!」


「…………。」


「…………。」


「えぇ~~~~~っ!?!?」


「嘘!?冗談でしょ!?」


「本気なんです。」


「はぁ~~。で、どこなの?」


「どこ?」


「好きになったところよ。」


「えっと、色々あるけど、一番は私を鉄砲店から助けてくれたときですね。もう駄目かもって思っていた時に、抱きかかえられて、『大丈夫か!?』て言われたときに……もう!それから意識するようになったんですけど、リーダーシップがあって、強くて優しくて。とってもかっこいいんです!」


水咲が顔を赤らめながら話す。


「おぉ~~~。正に白馬の王子様って感じ?」


「でも、大関さんっていくつだっけ。」


すると、水咲がメモ帳を取り出す。


「28歳独身。身長182.7cm。体重81.2kg。趣味はピッキング。好きな食べ物はカレーで、嫌いな食べ物はパイナップル。実直な性格で、判断能力は高い。休日の過ごし方は…………。」


この後、水咲の大関解析データの読み上げが約一時間続くことを麗香と伊吹は知らなかった。






















医務室。


「ハックション!!!」


「大関さん、大丈夫ですか?」


「誰かが噂をしているらしい。」


今、二人は銃の清掃をしていた。


そして、悠斗は大関に89式小銃の分解、清掃を習っているところだ。


「それにしても信じられないですね…。」


「ん?何がだ。」


「とても先月まで普通の生活してたとは思えませんよ。こうやって自衛隊の人と一緒に銃を分解するなんて夢にも思いませんでしたよ。」


「あぁ。だが、できれば君たちに銃を持ってほしくはないんだ。」


「え?」


「曲がりなりにも私は自衛隊員だ。国民を守らなければならない。だが、その国民に何度も助けられた。そして今、守るべき国民が銃を取って戦っている。私が自衛隊に入ったのは、国民が戦わなくて済む国を作りたかったからなのだがな…。」


大関は自衛隊員。


自衛隊そのものが瓦解してしまいそうなこんな世界でも、大関は自分の自衛隊員としての矜持を貫き通したかったのだろう。


「いえ、俺たちは大関さんにかなり助けられてますよ。」


「そう言ってもらえると助かるな。」


そう言って笑う。


元気を出してくれてよかった。


「悠斗君いる?」


宮本が医務室に入ってきた。


「おう、宮本。今銃の清掃してるから、お前もやらないか?」


「あ、やるよ。」


こうして、男三人が鼻を突き合わせながら作業したのだった…。


















その頃。


山本は、自分に宛がわれた部屋で奈菜ちゃんと遊んでいた。


今は、二人でルーレットを回して駒を進め、億万長者を目指すゲームをしている。


「やった~~~!また10だ!」


「おぉ、奈菜ちゃん凄いな~!」


「えへへ~。」


嬉しそうに駒を進める奈菜ちゃんを見て、山本は思う。


あの時、自分の妻と娘を守れなかったのはなぜだ。と。


世界が終わった日、山本は自宅のガレージにいた。


急にガラスの割れる音がして、スパナを持って家に戻ると、ゾンビが妻を喰らっていた。


怒りに任せてスパナを叩きつけた。


そのままゾンビは動かなくなったが、山本も、宮本と同じように噛まれたら感染することを知らなかった。


避難所に行く準備をしていた時に、ゾンビ化した妻が娘に噛みついた。


涙をこらえながら妻を殺し、娘に駆け寄ったが、噛まれていればどうにもならない。


「ヒック……お父さん……痛いよぉ……ウッ……助けてよぉ……!」


自分は、そう訴える娘に何もしてやれなかった。


苦しんでゾンビになっていく娘の姿は今も瞼の裏に焼き付いている。


「おじさんの番だよ!……あれ?おじさん泣いてるの?」


「え?」


いつの間にか涙が出ていたらしい。


「あ、あぁ。何でもないぜ。」


ゴシゴシと服の袖で涙を拭う。


「?…変なおじさ~ん。」


「さ、次は俺の番だな。」


ルーレットに手をかける。


(俺に待つのは天国か、それとも地獄か……。」


ルーレットを回すと、7が出た。


(『ラッキー7』、か。)


山本は天井を仰ぐ。


(俺はお前たちを守れなかった。だが、この子は命に代えても守って見せる。だから……。)


山本は妻と娘の顔を思い浮かべる。


(そっちから、見守っていてくれ。)


そう、妻と娘に誓った。











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