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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
死中求活
34/64

方針

会話多めです。

午後6時。


医務室には、悠斗のベッドを囲むように仲間が全員集まっていた。


それぞれがビスケットや乾パン、ツナやコンビーフ等を咀嚼している。


また、コップに入った水も用意されていた。


乾パンにツナを乗せたものを口に放り込んだ大関が口を開いた。


「さて、今回集まってもらったのは、これからの方針について決めるためだ。」


「あれ?目標は東北の自衛隊基地ですよね?」


「あぁ。だが、それ以外の候補地も出てきた。村下。」


「はぁ~い。」


村下が立ち上がる。


「大阪の方に、かなり大規模なコミュニティが形成されているみたいなんだ。自衛隊や警察勢力も多くいて、その人数は400名を超えるみたいだよ。もっとも、東北の自衛隊基地は最終的に1000人を超えるだろうと予測しているらしいんだけどね。」


「ごくろうだった。村下。」


「いえいえ…。」


「さて、大阪でも避難民を受け入れているようだ。東北に行くか、それとも大阪に行くかという問題なのだが…。」


「距離的には大阪が近いですよね。」


「あぁ。だが、大阪は人が多い都市だ。したがってゾンビの数も多い。それに、道も通れなくなっているところがあるだろう。」


「その分、東北の方は距離は遠いが、山なりに進んでいけば、ゾンビに遭遇する確率は少なくなるな…。」


山本が顎に手をやりながら言う。


すると、麗香がおずおずと手を上げる。


「あの…。ここに留まるのは無理なんですか?」


確かに、移動するよりはここに居たほうが安全だろう。


しかし、大関は首を横に振る。


「残念ながら、それは無理だ。一か所に留まればゾンビが集まる。この前のようにカラスに襲われたりしたら終りだからな。ゾンビに囲まれていれば脱出もできん。」


「なら、東北か大阪かの二択ですね。」


「あぁ。では聞くぞ。多数決だ。東北がいいと思う者は手を上げろ。」


次々に手を上げる。


そして、全員の手が上がった。


「全員東北で異論はないのか?自分の意見を流すのは良くないぞ?」


「どうせ保護してもらうなら大きいほうがいいですよ。それに、大阪に行くのはあまりにも危険ですから。」


「そうか…。では、これまで通り東北の自衛隊基地を目標にする。村下。次の情報を。」


「次はゾンビの上位種についての情報だよ。正式名称は決まってないから、便宜上、unknownのuに番号を付けて呼んでいるみたいだ。地下駐車場に出てきた…あ、大関さんたちは前にも遭遇したっていってたすごく大きいのに速い奴はU-1。最も脅威なのはその爪だね。爪が皮膚を切り裂いても、ゾンビに噛みつかれたのと同じようにに感染してしまうらしいんだ。次は、ビルで出会ったカラスの親玉みたいなやつはU-2。U-2自体はそんなに強くはないんだけど、なんといってもその統率力だ。体中についている眼で周囲の状況を把握し、その情報を手下であるカラスに伝達することができる。いわば、U-2はチェスのプレイヤーで手下のカラスはその駒っていうとこかな。」


「他には確認されてないんですか?」


「他にも、まだ命名はされてないみたいだけど、極度に知性の発達した個体や、4mほどの大きさになるような個体もいるようなんだ。」


場の全員が緊張した面持ちになる。


4mの個体。


もし遭遇したら、どう対処すればいいというのだろうか。


それに高い知能を持ったゾンビ。


もし人間である自分たちよりも知性が発達していたというのなら、裏をかかれることだってある。


「いったい何が原因でゾンビが発生したんでしょうか…。」


宮本が口を開く。


それを聞いた村下が目を輝かせる。


「よく聞いてくれたね!いや~まだどこの国でも原因は分かっていないんだけど、僕は僕なりに考えてみたんだ。ほら、皆も聞いたことがあるだろう?もし、感染力の強いインフルエンザウイルスと、極めて危険なエボラウイルスが組み合わさったら、史上最悪のウイルスが出来てしまうのでは…ってね。僕は今回のこのアウトブレイクは、もしかしたら人為的なものかもしれないって思うんだ。」


「人為的なものだって!?」


その場にいた全員が口を塞げないでいる。


「まぁ、あくまで仮説なんだけどね。もし、人をあのゾンビみたいにするウイルスを誰かが発見して、感染力の強いウイルスと掛け合わせることに成功したのなら、こういう事が起こってもおかしくはないと思うんだ。」


「もし人為的に起こったことだとしたら…。人類史上最悪な事件になるな。」


大関が口を開いた。


「いや、そうといえないよ?確かに、人間はほとんど居なくなってしまった。その結果、何が起きたかわかるかい?」


村下が水咲に会話を振る。


「え~っと、人がいなくなったってことは…。」


「そっか!環境だ!」


麗香が、頭の上に電球が灯るが如く叫んだ。


「人がいなくなれば、車とかがほとんど走らなくなるし、工場とかも止まっちゃうから環境が改善されるんだ!」


「その通り。つまり今回のアウトブレイクで、人類という種が食物連鎖の中に組み込まれ、ゾンビが頂点として君臨した世界になったんだ。人類史上最悪でも、地球史上においては最高の事件だったって事なんだね…。」

















会議は夜8時に終わった。


そして、電気の付かない真っ暗な部屋で、悠斗は天井を見つめていた。


(東北…か。遠いよな…。)


悠斗が気になっている事。


それは仲間が死んでしまうかもしれないという事だ。


勿論、その可能性はいくらでもあったし、自分が死ぬ可能性もあった。


だが。


北陸から東北というその距離。


その長い道のりが悠斗の不安をあおりたてていた。


溜息を吐き、布団を頭から被る。


不意にガチャッと音がして、医務室の扉が開いた。


入ってきたのは………。


「悠斗君…。寝ちゃった?」


麗香だった。


「ん?あぁ、起きてるぞ?」


「あの、ね………。一緒に、寝てもいい?」


「別にいいぞ?」


「うん。有難う。」


そのまま悠斗のベッドに入ってくる。


麗香の少し小さな体から発せられる温かみが、悠斗の不安を解す。


この感覚がどこか懐かしく、柔らかく悠斗の心を包み込んでいく。


「何と無く落ち着くな…。」


「ふふっ……。うれしいな…。」


「ん?」


「あ、いや、何でもない何でもない!」


「?」


頭に?を浮かべる悠斗。


だが、麗香にとっては、その困惑した顔でさえ愛おしく感じるのだ。


「おやすみ、悠斗君…。」


「あぁ。おやすみ。」


そういって二人は目を閉じた。


しかし。


麗香はなかなか眠らなかった。


眠れなかったのではない。


眠らなかったのだ。


悠斗と同じベッドで寝ているこの時間。


この感覚を出来るだけ長く味わっていたかったのだ。


「悠斗君…。」


悠斗の体にそっと触れる。


その体は包帯だらけだ。


その傷を見ると、ずきりと胸が痛む。


「わたしは、何もできない…。」


大関さんのようにリーダーシップが取れる訳でもなく。


宮本のように狙撃が上手いわけでもなく。


山本のようにおおらかなわけでもなく。


奈菜ちゃんのように、周りを明るくするわけでもなく。


水咲のように元気を与えるわけでもなく。


そして、伊吹のように戦えるわけでもない。


(もし。もしも雨音ちゃんが悠斗君のこと好きって言ったら、私は何で悠斗君にアピールできるんだろう。)


麗香は、学校では一、二を争うほどの美人と言われてきた。


だが、それが悠斗にとってストライクであるかはわからない。


もしかしたら、伊吹のように強くて明るいほうがいいかもしれない。


伊吹はスレンダーで、女性から見ても魅力的な体形。


自分もそれなりに自信はあったのだが、それが悠斗に趣味かどうかが解らないのだ。


悠斗とキスをしたことはある。


だが、それは自分が誘ったからで、実は悠斗は嫌々だったのかもしれない。


考え出すと切りがないのだが、それでも考えを止めることができない。


そしていつも溜息を吐くのだ。


口に出して好きと言えたらどれだけいいか。


悠斗が寝ているのなら、いくらでもいえるのに。


「悠斗君…。好きだよ…。大好きだよ………。」


悠斗の背中にしがみ付いて絞り出すように言っていると、いつの間にか麗香の意識はまどろんでいった…。





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