恋敵
「う……ん……?」
パチ、と眼が開いて悠斗は起き上がる。
「あっ、悠斗。起きたんだ。」
真横から声が聞こえる。
横を向く。
すると……。
鼻がくっつく位の距離に伊吹の顔があった。
「うわっ!」
「うわって何よ!」
「あぁ、悪ィ。それで、怪我はないって聞いたけど、本当に大丈夫か?」
「お陰様でね。悠斗は?」
「まだ少し体のあちこちが痛むけど、多分骨が折れたりしてるわけではないと思うぜ。打ち所が良かったんだろ。」
「あの………有難う。」
伊吹が少し照れくさそうに礼を言う。
その、いつもの元気さとは全くかけ離れたしおらしさに、居心地の悪さを感じる。
「あ、あぁ。別に気にすんなよ。」
「うん……。」
「………。」
「………。」
気まずい。
どうしようもなく気まずい。
「…あっ!喉乾いてない?」
唐突に伊吹が口を開く。
「お、おう。」
「飲み物持ってくるッ!」
そういうと、伊吹は電光石火の勢いで悠斗のベッドから離れていった。
「はぁ~。何やってんだろ。私…。」
そう呟きながら医務室の戸を開ける。
「キャッ!」
驚くのも無理はない。
何故なら、今伊吹の目の前には、両手で口を覆い、ワナワナと震えている麗香がいたからだ。
「もう…。びっくりさせないでよ。」
「………して、た?」
「えっ?」
「今、ゆ、ゆ、悠斗、君と、キキ、キ、キス…してた…?」
「キスゥ!?」
きっと、悠斗が起きてこちらを向いた時に、麗香の角度からはキスをしているように見えたのだろう。
「してないしてない!!!」
「ホント…?」
「あれは唯こっちを向いただけ!何にもしてないってッ!!!」
「そうなんだぁ…。良かったぁ…。」
心底ホッとした顔で麗香が息を吐く。
(これで益々悠斗が好きって言いづらくなったな…。)
と、伊吹は思った。
「あ、飲み物何処にあるか知ってる?」
伊吹は慌てて医務室を出たため、どこに飲み物があるかは全く知らなかったのだ。
「え~っと、ここの廊下を…。いや、やっぱり私が案内するから、ついてきて?」
「あいよ~。」
二人で並んで歩きだす。
「雨音さんって、悠斗君と二人きりだったんだよね?」
「う、うん。そうだけど?」
「どういう風に過ごしてたのかな~って。」
「あ、あぁ、なるほどね。う~ん、風呂に入ったかな。」
「ふ、風呂!?ゆ、悠斗君と!?」
「違う違う!別々だよ~!」
「よ、良かった…。」
廊下の突き当りで左に曲がる。
「それから?」
「う~んと、髪を切ったね。二人で。」
「あぁ、道理で短くなってると思った!二人でってことは切り合いっこ?」
「うん。まぁ、技術もへったくれもなかったけどね。」
「いいなぁ…。私も悠斗君に髪切ってもらいたいな…。」
「お~い麗香~。帰ってこ~い。」
「ハッ!だ、大丈夫大丈夫!それから?」
「次の日は、病院行って、そこでゾンビに追われて。で、皆の援護もあってここまで来たってわけ。」
次の角を右に曲がる。
「あっ!そういえば、バイク降りるとき、悠斗君が雨音ちゃんを抱きしめてたよね!どうだった!?」
「ど、どうって……。」
(今日の麗香はグイグイ来るな…。)
と思ったことは心にしまっておく。
「こう、抱き締められた感覚的な!」
「ん~、意外と男らしい体してるなぁ~とは思ったけど…。」
ガールズトークに花を咲かせていると、物資を保管している部屋に到着する。
「ここだよ。」
「あっ、ありがとう。助かった~。」
こうして、伊吹は麗香の質問攻めにあいながら、飲み物を手に入れた…。
『大関より。全員、午後6時になったら、医務室に集合してくれ。これからのことについての会議を行う。』
麗香と伊吹が飲み物を手に入れ、医務室に入った瞬間にアナウンスが入る。
しかし、麗香はそんなことも気にならない様子で。
「悠斗君大丈夫?どこか痛まない?お腹空いてない?痒いところない?あ、もしかしてトイレしたい?」
「大丈夫だって!いいからじっとしてろよ!」
すると、麗香が見る見るうちに目に涙を溜める。
「ご、ごめん、なさい…。謝るから…。私のこと、嫌いにならないで…。」
「お、怒ってない怒ってない!!!だから泣くなって!」
頭を撫でてやる。
「わふぅ…。」
「ふぅ、落ち着いたか…。」
何故だか、麗香がいつもより幼く見える。
それは麗香が悠斗に暫く会っていなかったからであるのだが、悠斗はそんな事には気付かない。
そして、伊吹はその光景を嬉しそうに、されど、少し残念な顔で眺めていた。
出してほしい場所や、武器がありましたらご一報ください。




