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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
死中求活
33/64

恋敵

「う……ん……?」


パチ、と眼が開いて悠斗は起き上がる。


「あっ、悠斗。起きたんだ。」


真横から声が聞こえる。


横を向く。


すると……。


鼻がくっつく位の距離に伊吹の顔があった。


「うわっ!」


「うわって何よ!」


「あぁ、悪ィ。それで、怪我はないって聞いたけど、本当に大丈夫か?」


「お陰様でね。悠斗は?」


「まだ少し体のあちこちが痛むけど、多分骨が折れたりしてるわけではないと思うぜ。打ち所が良かったんだろ。」


「あの………有難う。」


伊吹が少し照れくさそうに礼を言う。


その、いつもの元気さとは全くかけ離れたしおらしさに、居心地の悪さを感じる。


「あ、あぁ。別に気にすんなよ。」


「うん……。」


「………。」


「………。」


気まずい。


どうしようもなく気まずい。


「…あっ!喉乾いてない?」


唐突に伊吹が口を開く。


「お、おう。」


「飲み物持ってくるッ!」


そういうと、伊吹は電光石火の勢いで悠斗のベッドから離れていった。



















「はぁ~。何やってんだろ。私…。」


そう呟きながら医務室の戸を開ける。


「キャッ!」


驚くのも無理はない。


何故なら、今伊吹の目の前には、両手で口を覆い、ワナワナと震えている麗香がいたからだ。


「もう…。びっくりさせないでよ。」


「………して、た?」


「えっ?」


「今、ゆ、ゆ、悠斗、君と、キキ、キ、キス…してた…?」


「キスゥ!?」


きっと、悠斗が起きてこちらを向いた時に、麗香の角度からはキスをしているように見えたのだろう。


「してないしてない!!!」


「ホント…?」


「あれは唯こっちを向いただけ!何にもしてないってッ!!!」


「そうなんだぁ…。良かったぁ…。」


心底ホッとした顔で麗香が息を吐く。


(これで益々悠斗が好きって言いづらくなったな…。)


と、伊吹は思った。


「あ、飲み物何処にあるか知ってる?」


伊吹は慌てて医務室を出たため、どこに飲み物があるかは全く知らなかったのだ。


「え~っと、ここの廊下を…。いや、やっぱり私が案内するから、ついてきて?」


「あいよ~。」


二人で並んで歩きだす。


「雨音さんって、悠斗君と二人きりだったんだよね?」


「う、うん。そうだけど?」


「どういう風に過ごしてたのかな~って。」


「あ、あぁ、なるほどね。う~ん、風呂に入ったかな。」


「ふ、風呂!?ゆ、悠斗君と!?」


「違う違う!別々だよ~!」


「よ、良かった…。」


廊下の突き当りで左に曲がる。


「それから?」


「う~んと、髪を切ったね。二人で。」


「あぁ、道理で短くなってると思った!二人でってことは切り合いっこ?」


「うん。まぁ、技術もへったくれもなかったけどね。」


「いいなぁ…。私も悠斗君に髪切ってもらいたいな…。」


「お~い麗香~。帰ってこ~い。」


「ハッ!だ、大丈夫大丈夫!それから?」


「次の日は、病院行って、そこでゾンビに追われて。で、皆の援護もあってここまで来たってわけ。」


次の角を右に曲がる。


「あっ!そういえば、バイク降りるとき、悠斗君が雨音ちゃんを抱きしめてたよね!どうだった!?」


「ど、どうって……。」


(今日の麗香はグイグイ来るな…。)


と思ったことは心にしまっておく。


「こう、抱き締められた感覚的な!」


「ん~、意外と男らしい体してるなぁ~とは思ったけど…。」


ガールズトークに花を咲かせていると、物資を保管している部屋に到着する。


「ここだよ。」


「あっ、ありがとう。助かった~。」


こうして、伊吹は麗香の質問攻めにあいながら、飲み物を手に入れた…。














『大関より。全員、午後6時になったら、医務室に集合してくれ。これからのことについての会議を行う。』


麗香と伊吹が飲み物を手に入れ、医務室に入った瞬間にアナウンスが入る。


しかし、麗香はそんなことも気にならない様子で。


「悠斗君大丈夫?どこか痛まない?お腹空いてない?痒いところない?あ、もしかしてトイレしたい?」


「大丈夫だって!いいからじっとしてろよ!」


すると、麗香が見る見るうちに目に涙を溜める。


「ご、ごめん、なさい…。謝るから…。私のこと、嫌いにならないで…。」


「お、怒ってない怒ってない!!!だから泣くなって!」


頭を撫でてやる。


「わふぅ…。」


「ふぅ、落ち着いたか…。」


何故だか、麗香がいつもより幼く見える。


それは麗香が悠斗に暫く会っていなかったからであるのだが、悠斗はそんな事には気付かない。


そして、伊吹はその光景を嬉しそうに、されど、少し残念な顔で眺めていた。














出してほしい場所や、武器がありましたらご一報ください。

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