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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
死中求活
28/64

急襲

受験終わりました。

連載再開です。

翌朝、悠斗は無線機の音で目覚めた。


『全員、応答せよ。』


かなり小さい声で無線が入る。


「何かあったんですか?」


『外にゾンビ化したと思われるカラスの群れがいる。全員、絶対に大きな音を出すな。』


「何だって…?」


眼を擦りながら、バリケードの設置された窓を覗く。


外の景色は恐怖そのものだった。


昨日降った雪で、一面の銀世界となった街。


そして、それを埋め尽くさんばかりの黒い点。


ざっと見ても千羽は居るだろう。


そしてその中でもひときわ大きい塊…。


一言で形容するなら異形。


基本はカラスなのだが、特筆すべきはその頭であろう。


大小の無数の眼がついているのだ。


(恐らくあれが上位種…。彼奴が群れを率いているのか。)


解ったところでどうしようもない。


撃っても、音で他のカラスが襲ってくるからだ。


『全員、ここに留まっていては危険だ。静かに移動せよ。車の止めてある玄関にだ。』


「了解。」


小さな返事をしてから、麗香を見る。


長い付き合いともなると、眼だけで合図できるようになってくる。


悠斗が話している間、麗香は昨日纏めておいた荷物を持ってきていたのだ。


「サンキュー。」


「ううん、別にいいよ。それより早く行こう?」


「あぁ…。」


慎重に扉まで移動していく。




パリィィィ…ン




何処からかガラスの割れる音がした。


「!」


『全員走れぇ!』


悠斗は、麗香の手を掴み、扉を吹き飛ばす勢いで走る。


「クソッ!」


ガラスが割れたという事は、そこからカラスが侵入できるという事。


もしかしたらもう入ってきているのかもしれない。


つまり、もうここは自分たちの束の間の安息地ではなく、カラスの狩場となったのだ。


階段を駆け下り、玄関に走る。


玄関には人が集まっていた。


(全員が………いない。)


確認すると、伊吹と奈菜ちゃんがいない。


「大関さん、雨音と奈菜ちゃんは…?」


大関が首を横に振る。


「それが応答がないんだ。」


「じゃあ、もしかしたらもう…。」


口に手を当てて呟く水咲。


「大丈夫だ。雨音なんか死んでも死なねぇよ。」


そうは言ったものの、正直のところ不安である。


もしガラスの割れたところが雨音たちの部屋だったなら…。


今頃カラスの朝食だろう。


タッタッタ…。


足音がした。


全員が振り返ると、そこには目に涙を浮かべた奈菜ちゃんがいた。


「大丈夫かい?」


大関が近づく。


「私はッ…。大丈夫ッ…だけどぉ…。伊吹おねぇちゃんがぁ…。」


「噛まれたのか?」


「ううん…。噛まれては…ック…いないけどぉ…私に任せて逃げてってぇ…。」


「まだ生きているかもしれんな。」


悠斗は一歩前に出た。


「俺が行ってきます。」


「しかし、あまり待てんぞ?」


「敵が来たら、先に行ってもらって構いません。その時は、駐屯地で落ち合いましょう。」


「解った。気を付けるんだぞ。もし無理だと思ったら戻ってこい。誰も責めはせん。」


「仲間を諦める位なら責められた方がましですよ。じゃ、行ってきます。」


89式小銃を持って歩き出す。


「悠斗君、気を付けてね。」


「あぁ、解ってるって。心配すんな。」


「悠斗君が死んじゃったら…私…ッ!」


麗香は項垂れて呟く。


ポン、と不意に頭に手を置かれる。


頭を上げると、笑みを浮かべた悠斗がいた。


「絶対に戻ってくる。安心しろ。」


普通なら心配で気が気でなかったが、この笑みは、不思議と安らぎを与え、絶対に帰ってくるという確信をくれるものだった。


麗香は、去っていく背中を唯見つめていた…。






























「アハハ…。私もここまでかぁ…。」


座り込み、壁に背中を付けて呟いたのは伊吹。


入ってきたカラスを何とか仕留めて、部屋にあったものを積み上げて窓にバリケードを作ったが、多くのカラスが体当たりを敢行していて、いつ壊れるかわからない状況である。


逃げることならいくらでもできるが、仲間が逃げるまでの時間を稼がなければならない。


そう決めたのだ。


他の窓からもカラスが入ってきそうな勢いである。


「カラスかぁ…。嫌いだったけど、これで大っ嫌いになれそう。喰われるって痛いのかな…。」


自分のボウガンに目を落とす。


ここまでの修羅場を共に潜ってきた相棒だ。


「なら、いっそ自分で…。」


バン!


勢い良く扉が開いた。


今度はなんだ?


そう思いながら顔を上げると、そこには悠斗が立っていた。


「大丈夫か?噛まれてないか?」


「え?あ、うん。」


「なら、早く行くぞ。」


手を引っ張られる。


「皆は?」


「無事だよ。誰かさんが惹き付けてくれていた御蔭でな。」


「どういたしまして。」


その直後。


バリケードが粉砕し、カラスが入り込んできた。


「クェェェェェッ!」


「邪魔だ!」


89式小銃で撃ち落とし、部屋の外に出て扉を閉める。


無線機を取り出し、走りながら通信する。


「こちら悠斗!雨音を救出しました!」


『悠斗か!…残念だが、こちらは合流できん!』


「何でですか!?」


『カラスの群れが来たんだ!応戦しているのだが…。』


「早く発進してください!俺たちは別の方法を探します!」


『すまない!駐屯地で会おう!』


「了解!」


通信機を仕舞う。


「雨音、どうやら合流はできないみたいだ。何か脱出手段はないか?」


「昨日の探索の時、裏口にバイク合ったじゃん?あれ使えばいいんじゃない?」


「そうだな。裏口に回るぞ!」


「言われなくても!」


悠斗に手を引かれながら走る。


(悠斗の手って結構男らしいんだ…。)


一瞬頭によぎった考えを、顔を振って消し去る。


(違う違う!何考えてんのよ私!そもそもこいつは麗香の好きな人で…!)


戸惑っている様子に気付いたのか、悠斗が振り返る。


「どうかしたのか?」


「な、何でもないわよっ!」


「そうか?そんならいいけど…。」


一生の不覚。


そう思いながら走っていったのだった…。














「はぁ…はぁ…。着いたぞ。バイクは…。」


「走れそうだね。悠斗が運転する?」


「俺はある程度運転できるけど。雨音は?」


「てんで駄目。私が後ろに乗るから。」


「んじゃ、これ渡しとくぜ。」


そう言って89式小銃を手渡す。


「いいの?」


「使い方は大関さんに習ってたから知ってるだろ?」


「解った。そいじゃあ、使わせてもらいましょうかね!」


悠斗がエンジンをかけると、マフラーから爆音が流れた。


「行くぞっ!しっかり掴まってろ!」


「オッケー!ってキャァァァッ!」


あまりの勢いに少し悲鳴を上げてしまった。


道路に出ると、後ろからカラスの群れが襲って来た。


「雨音!」


「解ってるって!」


89式小銃を構えて、撃つ。


かなりの数なので、狙わなくてもある程度当たる。


しかし、いくらゾンビ慣れしてるとはいえ、あまりに現実離れした光景に、二人の中で何かが吹っ切れた。


「ウッォォォォオオオオオオ!なんか楽しくなってきたァァァアアア!」


「私もッ!イィィィイイイイヤッホォォォォオオオオオオゥゥゥ!!!」


「ヒャッホォォォゥ!」


奇妙な声を発しながら、悠斗と伊吹は道を突っ走ったのだった………。



















これからもよろしくお願いします。

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