喫煙
「というわけで、だ。」
惨劇から一夜明け。
体調を復活させた悠斗たちは今後の方針について話し合っていた。
「私としてはここから40kmほど離れたところにある自衛隊の駐屯地に行ってみるというのがいいと思うのだが。他に意見はないか?」
「近くの避難所に避難するのは無理ですか?流石にこれだけの武器を持っている我々を無碍にはしないのでは?」
「だが、それだと避難所の人たちの食い扶持が増えることになるから、白い目で見られるだろうな。それに、いくら武器を持っていても多勢に無勢だ。大勢に襲われたら武器を容易く奪われるだろう。」
「そうですね…。そう考えると自衛隊の駐屯地の方が武器の回収もできそうですし、もしかしたら自衛隊の生き残りがいるかもしれませんね。」
「あぁ。訓練を受けた兵士がいるのは大きなアドバンテージになるからな。燃料は持つか?」
「おう、大丈夫だ。途中でどっかのガソリンスタンドにでも寄ってくれりゃあ完璧だぜ!」
「では、自衛隊の駐屯地に行くことにする。異論は?………ないようだな。では発進する。分乗開始!一号車から一列となって移動する。」
「了解!」
「暇だ…。」
悠斗は頬杖をつき、片手でハンドルを捌きながらぼやいた。
それもそのはず。
悠斗が運転をしているとき、麗香は奈菜ちゃんと遊んでいるため、話し相手すらいないのだ。
いつアクシデントがあるかわからない状態で常に緊張したまま運転するのがどれほどキツイか。
想像もつかない。
通信機は必要なとき以外使わない決まりなので、宮本に愚痴ることもできないのだ。
ふと、悠斗はポケットに手を伸ばす。
出発する前にポケットに何気なく入れた煙草だ。
悠斗は吸ったことが無かった。
(試してみるか…。)
ゾンビ物の映画の場合、仲間に誰かは喫煙者がいるものだ。
それがなかなかいい役だと、とてもかっこよく見える。
悠斗の中の好奇心が限界に達し、ライターに手を伸ばすまで時間はかからなかった。
口に咥えて、火を近づける。
ポッと先端に火がともり、煙が出る。
悠斗はそれを思い切り吸い込み、
「ゴホッ!ゴホッ!」
噎せた。
「大丈夫?」
麗香が心配する。
「お兄ちゃん大丈夫?」
奈菜ちゃんまでもが心配してくる。
「あぁ…。」
惨めである。
凄く惨めである。
持っていた煙草を忌々しそうに車外に投げ捨てた。
そして、もう煙草は吸わないと心に決めたのであった。
『悠斗、今日はここで宿泊だ。』
「解りました。」
四時になって、大きなビルの前に行ったときに大関から通信が入った。
どうやら、これ以上の進行は危険だと思ったようだ。
確かに冬は暗くなるのが早いので、闇雲に進むのは危険である。
車をビルの脇に止め、降りる。
「戦闘班は武器を持って集まれ。建物の安全を確保する。銃火器も一応携行はしておけ。だが、いざというとき以外は使うなよ。鈍器で頭をつぶすんだ。他の班は車内で待機だ。」
「了解!」
大関、宮本、雨音、悠斗の順で中に入る。
ビル内は静まり返っていた。
「私と宮本で右、伊吹と悠斗で左を哨戒するぞ。」
「了解。」
左の通路を進む。
廊下は骸骨や乾いた血が白い廊下に鮮烈なコントラストを加えている。
腐臭もすごい。
「くっさ!ここ臭すぎ!」
「そうぼやくなって。しょうがないだろ?」
「でもさ~。」
カタン
何かが倒れる音がした。
「…今なんか鳴ったよね?」
「あぁ。」
音の鳴ったほうへ進む。
物音はある部屋の中から聞こえてきた。
「俺が開ける。」
「りょうか~い。」
「…真面目にやれよ。」
「は~い。」
「伸ばすなよ!」
「はいはい。」
「「はい」は一回!」
「いいから早く開けなよ?」
ドアノブに手をかける。
すると、勢い良く扉が開いて、何かが飛び掛かってきた。
「ガァァァァ!」
馬乗りのような姿勢になり、両手を押さえつけられる。
「ゾンビ!?」
ゾンビの口が眼前に迫る。
「ッの野郎!」
ものすごい怪力で押さえつけられて、噛まれないようにするので精一杯だ。
「雨音!」
「せやぁ!」
強烈な回し蹴りを放つ。
側頭部に直撃を受けたゾンビは頭が吹き飛んで動かなくなった。
「…ちとやり過ぎじゃねぇの?」
「ブーツに鉄板仕込んだの忘れてた。アハハ。」
「しかも今の音で…」
廊下を見ると、数匹のゾンビが此方に向かってきている。
「気にしない気にしない。むしろ好都合じゃん?」
そういうと、ボウガンを放って一匹を沈黙させる。
「そうだ…な!」
槍を頭に刺し、スイッチを押してミンチにする。
こうしてビルの制圧は一時間ほどで終了したのだった…。
次回もお楽しみください。




