自由
ショッピングモール編最後です。
地下駐車場に着くと、既に戦闘が始まっていた。
出口からゾンビが押し寄せてきているのだ。
「大丈夫ですか!?」
AR-15でゾンビの頭に射撃をしている大関に話しかける。
「おぉ、悠斗か。よく戻ってきてくれた。皆、車に乗り込め!」
全員が車に走り出す。
が。
『逃がしませんよ。』
「なに!?」
天井のスピーカーから尾西の声が聞こえる。
そして機械音がなり、出口にあったシャッターが閉まった。
「クソッ!これじゃあ車が出せない!」
山本が唸るように言う。
「落ち着け。今中にいるゾンビを排除してからシャッターを開ければいい。」
そう思ったのも束の間。
金属製のシャッターを吹き飛ばしながら何かが入ってきた。
「あれは!」
そう。
入ってきた物体は、警察署で遭遇したのと同じ個体。
吹き飛ばしたはずの頭は筋組織で再生してあり、まるで人体模型のようだ。
「…嘘だろ?」
「そ、そんな!」
「か、各個散開!車に敵を近づけさせるな!周りのゾンビは山本と村下、伊吹で対処しろ!それ以外の者はあいつに攻撃を集中!撃破出来次第脱出する!」
「了解!」
悠斗は山本のところへ走る。
「山本さん!」
「どうした!」
「武器は何処にしまってありますか!?」
「お前らの車の中だ!」
「解りました!」
車からショットガンを取り出す。
以前と同じように、こちらに気付いていない隙を見計らってスラッグ弾を詰め込み、発射する。
「当たれ!」
だが。
敵は避けられないと悟ると、両手を使ってガードする。
スラッグ弾はガードを打ち破ることなく、腕の中に埋もれた。
「あいつ…防いだ!?」
「学習…しているのか?」
敵は悠斗の方に向き直り、爪を突き立ててきた。
「ぅわっ!危ねっ!」
ギリギリで躱すが、服の脇腹の辺りが破れてしまった。
「悠斗、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。」
大関に応えながら距離を取る。
その間に、敵の腕はグネグネと収縮して、元通りになった。
「あいつにはもうスラッグ弾は使えんか…。」
「いい考えがあります!宮本!」
「どうしたの?」
宮本に近づいて、作戦の概要を話す。
「なるほど。」
「じゃあ頼むぜ!」
そういうと、悠斗は移動時に邪魔にならないように車を固めておいた隅に向かう。
「チャンスは一度っきり…。頼むぜ宮本。」
スラッグ弾を放つ。
そして敵が悠斗に向き直ると大声で叫んだ。
「かかってこい!人体模型!」
ならば望むとおりに、と言わんばかりに敵がこっちへと走る。
悠斗はガソリンの給油口を開ける。
敵が爪を横薙ぎに振る。
それを頭を低くして躱し。
「うぉぉっ!」
スライディングをして股の間をすり抜け、一目散に走りだす。
「今だ!」
宮本が狙い澄ました一撃を放つ。
放った弾が給油口に入り込む。
そして。
地下駐車場全体を震わせる地響きと轟音が鳴り、大爆発が起こった。
敵は呻き声を挙げながら炎に飲まれる。
「やった!」
「よし、全員脱出するぞ!」
車に乗り込み、急発進する。
ゾンビも轟音につられて炎の中に自ら入っていく。
「集団焼身自殺か…。笑えねぇな。」
「発進するぞ!」
こうして悠斗一行はショッピングモールを脱出したのだった。
一方。
尾西は激しい憤りを感じていた。
「あの小僧ッ…!」
そう。
悠斗というちっぽけな存在に自分の国がひっくり返されたのだ。
「まぁいい。また人を集めて、その後あいつらに復讐すればいい…。」
パリン
窓ガラスが割れる音がして振り返る。
そこには半分体が溶けかかっている化け物が立っていた。
「確か此奴は…警察署で遭遇したとか報告されていた…!」
化け物は尾西を確認すると、ゆっくりとした足取りで近づく。
「く…来るな!」
持っていた銃の弾倉が空になるまで化け物を撃つ。
しかし、チャンバーが引き切った状態になり、弾が入っていないことを理解しても、化け物は止まらない。
「う…嘘だ!私は王になる男なのだぞ!それを…それを…!あんな、あんな小僧如きに!小僧如きにィィィィ!!!」
グシャ
肉が抉れる音がしたきり、静まり返った社長室で聞こえるのは化け物が咀嚼する音だけだった。
王になるはずだった男はたった二人の避難民を受け入れたことだけで人生が狂ってしまった。
演説が発せられるはずだったその口からは最早血しか出ない。
ほんの小さな偶然で人生は変わるものだ。
……いや、必然だったのかもしれない。
人生は判断の連続です。
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