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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
烏合之衆
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歪愛

少し短めです。

「さぁ、麗香。悠斗を殺されたくなかったらこっちに来い。」


麗香は唇を噛みながら大林に近づいた。


その途端に、大林が背中から覆いかぶさるように抱きすくめる。


「キャッ!」


「フフフ…。やっぱり君は美しい…綺麗だよ…麗香。」


「クソッ!」


悠斗が近寄ろうとすると、銃を向けてきて、牽制する。


「動くんじゃないぞ?僕の麗香を脅迫してあんな事を無理矢理言わせた罪は重い!君には死んでもらおう。」


「やめて!悠斗君を殺さないで!」


「可哀想に…。そう言えって脅されてるんだね?大丈夫。僕が守るから!」


「そうじゃないの!」


必死に訴えるが耳を貸さない。


(このままじゃマズイな…。何とかしないと…。)


ダン


銃声とともに足元の床に弾が当たり、破片が飛び散る。


「悠斗君ッ!」


「麗香!俺の眼だけを見てろ!」


「え、えぇ!?こ、こんな時に、眼?」


「あぁ、そうだ。俺の眼だけをじっと見てろ!」


「…解った!」


「麗香?あんな奴の言う事、聞く必要はないんだよ?」


「黙ってて!」


ぴしゃりと言い放ち、真っ直ぐに悠斗の眼を見つめる。


そして麗香は理解した。


悠斗の思惑を。


「許さないぞ、悠斗!僕の麗香を洗脳したのか!?ふざけやがって!万死に値するぞ!」


銃を真っ直ぐに構え、牽制ではなく、純粋な殺意を持った銃口が悠斗に向けられる。


悠斗も銃を抜いて構える。


しかし、いくらゾンビを殺してきたからと言っても、悠斗は唯の一般人である。


元から銃を構えていた者よりも早く銃を抜ける訳も無かった。


「死ねッ!」


大林の銃の引き金のかかった指が引き切られようとする。


だが。


「えいっ!」


「なっ!」


麗香が大林の手に噛みついた。


そのせいで射線がぶれ、放たれた狂気の塊は天井に当たった。


その隙を逃すはずもなく。


「もらった!」


決して美しいフォームではなく、されど目標を確実に仕留めるべく構えられた銃口から弾丸が放たれ、


麗香が離れてスペースの開いた胸に吸い込まれた。


「ガッ…ハァ…!」


口から血を吐いて倒れる。


「悠斗君!」


麗香が抱き着く。


「よく俺のサインに気付いてくれたな。有難う。」


「でも、よくあんなこと思いついたね。」


「お前のベッドに、モールス信号の本があったからな。麗香は記憶力がいいから、覚えてると思ったんだ。」


実は、これは偶然が重なったわけではない。


悠斗が俺の眼を見ろと言った時、眼でモールス信号を送っていたのだ。


『俺が銃に手をかけたら手を噛め』と。


「本当に助かった。有難う。…どうした?泣いてるのか?どっか痛いのか?」


「ううん…悠斗君の役に立ててうれしいの!」


「なにこの可愛い生き物。」


「えっ?」


「あ、いや、何でもない。」





















二人は気づかない。


まだ大林が生きている事に。


大林の命は最早風前の灯。


しかし、歪んだ愛ではあるものの、麗香への思いだけで命を繋ぎ止めていたことは皮肉ともいえるだろう。


そして彼は愛するものを救うために最後の力を振り絞った。


感覚が無くなってゆく腕を必死にあげて。


掠れる視界で敵を捉え。


既に何も感じなくなった足を引きずりながら。


唯々愛する者のために。


有らん限りの声で叫んだ。


「ゴミごときが…麗香に触れるなぁぁぁぁぁぁぁァ!!!」


だが、返ってきたのは愛する者の労いの言葉でもなく。


憎き敵の血に塗れる姿でもなく。


アルミ製の冷たい矢だった。


吸血鬼が心臓に杭を刺されたように。


愛に生きた男は二度とその体を動かすことはなかった。






















異変に気付くのが遅く、大林が叫んでからことに気付いた悠斗は死を覚悟したが、来たのは死ではなく声だった。


「全くもう…。二人ともラブラブすぎるよ?」


「雨音!?」


その声の主は、黒のライダースーツに全身を包み、腰に矢筒を付け、ボウガンを構えている雨音だった。


「お前なんで!?」


「私だってここに来るまでに修羅場ぐらい潜ってるっての!そんな事より、早く駐車場に戻らないと!」


「でも、まだ尾西が。」


「その尾西が地下駐車場の入り口を開けちゃったから、ゾンビが入ってきて大変なの!」


「何だって!?麗香、急ごう!」


「うん!」


「私を無視するな!二人ともラブラブすぎ!」


「ラブラブじゃねぇ!」


「ラブラブじゃないッたら!」


「ほら、息ピッタリ!」


「ぐ…。」


「う…。」


「いいから早く行くわよ!槇原夫妻さん?」


「夫妻じゃない!」


こうして地下駐車場へと向かう三人なのであった。








歪みながらも、愛する人を想う。

彼は唯純粋だっただけなのかもしれません。

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