決壊
色々な策略で、戦況がコロコロ変わります。
『なっ…!』
最初に声を上げたのは尾西だった。
コミュニティの人々からも訝しがる声が聞こえる。
それもそのはず。
本来悠斗が括り付けてあるはずの十字架にはマネキンと、その胴回りに巻かれた…。
『爆弾…!』
正確に言うと、それはガス管ではなく、倉庫にあったガスボンベを1つ巻きつけてあるだけ。
しかし、そのマネキンの腰にはしっかりと手榴弾がぶら下がっていたのだ。
爆発すれば、1mも離れていない尾西と石田は吹き飛ぶだろう。
唖然としていると、何処からともなく声がする。
「二人とも動くと爆発するぜ!」
『…やはりあなたでしたか。』
不意に扉が開き、白い布をまとった人影が入ってくる。
『槇原悠斗!』
「あんたの計画をぶっ潰しに来たぜ。」
『…フフフフフ!ハーッハハハハ!』
「何を笑ってる?」
『確かにいま私は危険な状況にありますが、いったいどうやって起爆させるというんです?ピンを外してありますが、紐できつく縛られています。その紐を解く手だてがあるとでも?』
「尾西さん。あんたひとつ大事なことを忘れてるよ。こっちには厳しい訓練を重ねてきた正真正銘の戦士がいることを!」
『まさか…大関か!』
「あんたが動けば、大関さんがその紐を狙い撃つ。紐が切れれば、地面に落ちて大爆発だ。一秒もかからないだろう。」
『クソッ!』
「尾西の考えに賛同できないものはここから出て地下駐車場に行け。ありったけの物資を積んでだ。たとえ変な国の一員になってもここに居たいものは残ればいい。」
そういうと、10名程が悠斗のほうに歩いて行った。
「三分の一か…。」
「悠斗君!大丈夫?」
「あぁ、心配ないさ。麗香。お前と水咲はは衣料品を運んでくれ。宮本と伊吹は武器だ。村下さんと子供たちは食料品を。山本さんは車の選定と整備をお願いします。」
「うん。解ったよ。」
「おう!任しとけ!」
「くれぐれも無茶をしてはいけませんよ?」
口々に言って会場を後にしていく。
悠斗と志を同じくする者たちが全員出ると、パチパチパチと、拍手の音がし始める。
振り返ると、やはり尾西が拍手をしていた。
『素晴らしいですね。全く、あなたの行動力には呆れさせられますよ。ですが。』
尾西が目で合図をすると、コミュニティの人の中の四人が、拳銃を構えてこちらに向ける。
また、その中の一人が壇上に素早く上がり、手榴弾に覆いかぶさるようにして立った。
「クッ!」
「悠斗!これでは爆破できない!」
『それを想定しない筈が無いではありませんか!…形勢逆転という事です。』
「クックック!ハ~ッハッハ!」
『あまりの恐怖に壊れたのですか?まぁいいです。射撃!』
無数の銃口から鉛の弾が発射される。
それらは殆ど白い布を纏った人影に当たる。
しかし、倒れない。
『死にましたか…。しかし最後まで倒れないとはまるで弁慶のようですね。敵ながら天晴…といったところですか。大関さん。あなたも無駄な抵抗はやめたらどうですか?』
大関が体を前に向けながらうなだれたように出てくる。
『銃を捨ててください。』
大関が手に持っていたMP5A5を捨てる。
コミュニティの人一人が銃を構えながら大関に近づく。
数mの距離まで近づくと、いきなり大関が足を振り上げた。
「フン!」
足先から出てきたのは小さな軍用ナイフの刀身。
それはまっすぐに近づいてきた敵の銃を持っている方の肩に当たる。
「グァァッ!痛ぇ!」
残りのコミュニティの人が咄嗟に引き金を引こうとする。
だが、そこは訓練された隊員。
足元の銃を素早く拾うと、物陰に飛び込み、そこから三連射して、肩にナイフを刺した男を永遠に眠らせる。
ダン
ダン
ダン
ダン
ダン
ダン
銃の発射音が鳴り響き、残りの三人が床に崩れ落ちる。
『な…何が起こったのですか!』
「まだ解らないのか?」
声のした方向。
それは撃たれた白い物体のある方向。
白い物体の中には悠斗がいたはず。
しかし、その白い物体が動き、自らの血の斑点が付いた白い布を取り払った。
その中から出てきたのは。
『谷!?』
そう見えたのも無理はない。
正確に言うと、悠斗が谷の死体を盾にしていたのだ。
「此奴がデブで助かった。持ち運ぶのは少し面倒だったけどな。」
『しまった!』
自らの愚策に気付いた時にはもう遅い。
既に悠斗と大関の銃口は向けられていた。
大関がゆっくりと、落ち着いた様子で問う。
「石田…。今からでも遅くはない。俺たちのところに来い。」
「俺達のところに来いだと?お前のような奴には尾西様の理想とする新世界が…!」
「…残念だ。」
ダン
的確に眉間を撃たれ、石田が崩れ落ちた。
「次はお前だ。尾西!」
『仕方有りません…ね!』
尾西が腕時計の留め具の部分を押すと、周囲から煙幕が流れ出てくる。
「ゴホッゴホッ!…クソ、どこ行きやがった。」
「取り敢えず、今は仲間と合流するのが先だ。早く行くぞ。」
「…今ここであいつを放っておくと怖いですからね。俺が尾西を追います。」
「一人のために、貴重な時間を削ることは出来ん。」
「いざとなったら、俺を置いて行ってください。では。」
「おいっ!待て!…行ってしまったか。」
白煙の中に消えた青年に少し不安を感じながらも、追う事はしない。
「悠斗はまだ子供だ。…子供を信じるのが大人の役目か。」
大関は倉庫から持ってきた煙草に火をつけ、紫煙を燻らせてから地下駐車場に向かった。
悠斗は走っていた。
「ハァッ…。ハァッ…。」
尾西が向かった先は行った方向から考えて、恐らく社長室だろう。
尾西はそこを拠点としていたし、いくつか武器も貯めておいただろうと推測したからだ。
弾倉に弾を込めながら走る。
暫く走ると、エントランスに出た。
ここに有るエレベーターか、階段を使えば社長室に行けるはずだ。
「よし…もう少しだ!」
「悠斗君!」
急に声がかかって後ろを振り向く。
「麗香!?」
エントランスに入る扉に麗香が立っている。
「何でここに!」
「作業が終わったから呼びに来たの。」
「俺は尾西を倒さなくちゃいけない。後が怖いからな。麗香は先に駐車場に行っててくれ。」
「でも、悠斗君を置いては行けな…悠斗君後ろ!」
「えっ?」
ダン
銃声が鳴り、悠斗の頬を弾丸がかすめる。
「動くなよ。」
この聞き覚えのある声。
学校でも何度か耳にした声。
階段からひそかに降りてきていた人物。
「大林…か…?」
大林であった。
ご意見、ご感想、有ったらいい展開や出してほしい銃などありましたら
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