建国
少し急展開です。
「大丈夫ですか!」
大関のもとへ駆け寄る。
「あぁ…悠斗か…。」
どうやら無事なようだ。
大関を縛っていた縄を解く。
「無事だったんですね!」
「体の節々が痛いがな…。尾西め、いったい何を考えてやがる…。」
「取り敢えず、止めに行かないと!」
「そうだな。」
「尾西はコミュニティの人が全員集まる時に建国の話をするはずです。」
「全員が集まる機会…。生還記念パーティーか!」
「生還記念パーティーは9時からの筈です!今は…。」
「私の時計では8時52分だが。」
「………。」
「………。」
「マジですかッ!早く行かないと!」
「うむ。急ぐぞ!」
「大関さん、これ。」
MP5A5とそのマガジンを渡す。
「行きましょう。」
「待て。」
「急がないと!」
「何の作戦も無しに行くのはよくない。作戦を立てよう。」
こうして、簡単ながら作戦を立てた二人なのだった…。
「結局悠斗君帰って来なかったなぁ。」
生還記念パーティーの準備をしながら呟く麗香。
「どうしてだろう…。」
時計を確認すると、8時45分を指していて、既にコミュニティの人は殆ど集まっている。
宮本や山本の姿はあるが、大関の姿も悠斗の姿もない。
考える。
どうしてすぐに来ないのか。
そこで頭の上に電球が灯るが如く、閃いた。
「あっ!そっか!きっとサプライズゲストなんだ!」
…やはり少し抜けているところもあるが、仕方ない。
このトレスを安全なところだと思っている者に対して、疑えという方が無理だろう。
こうしてパーティーの時間は刻一刻と迫っていった。
一方。
「大関さん。準備はいいですか?」
「あぁ。石田を連れ戻さなくてはな。」
「では、移動を開始します。」
悠斗は今、排気孔の中にいた。
大関の準備が整うまで待機していたのだ。
ここから予め決めておいた作戦通りのポイントへ移動する。
排気孔を捩り進みながら大関に問う。
「もし、石田さんが説得に応じなかったら、どうするんですか?」
「その時は…私が排除しよう。」
「大丈夫なんですか?無理しなくても。」
「これから多くの者を助けなければならないというのに、一人を排除する事ぐらいで躊躇ってはいられないさ。」
「そうですか。…そうならないように祈ってますよ。」
「む!始まるようだ。」
「急がないとですね!」
こうして悠斗はまた身を捩り始めた。
会場の飾りつけを終え、用意された椅子に麗香が座っていると、急に電気が消えた。
「きゃあ!」
「どうした!?何かあったのか!?」
皆口々に叫ぶ。
そこに響くマイクで拡張された声。
『皆さん、落ち着いてください。これはそういう仕様です。』
尾西だった。
「な、なんだよ!脅かすなって!」
「いやはやなんとも。驚かされましたわい。」
安堵の声が聞こえる。
「早く電気を付けてくれよ!」
『すいません。こちらの準備が整うまで暫しお待ちください。』
「何が起こるんだろう。…悠斗君はいつ出てくるのかな?」
何やら重い物を運ぶ音がする。
ズシン
こんな音が四回も続いた。
周りがざわめきだす。
だが、その声に恐怖や不安はなく、唯純粋にパーティーの余興を心待ちにしているだけであった。
『皆さん、大変お騒がせしました。』
「長すぎるぞ~!」
「つまらなかったら承知しねぇぞ!」
ヤジも聞こえる。
『えぇ。きっと気に入っていただけますよ!では…どうぞ!』
電気がつく。
しかし口々に洩れるのは呆気にとられた声や驚きの声。
無理もないことである。
ステージの上には、4つの白い布のかぶせられた物体があり、その上の、≪生還記念パーティー≫と題されていたはずの看板が≪建国記念パーティー≫となっていたのだった。
『皆さん。どうですか?気に入っていただけましたか?』
「おいおい、冗談はよせよ!」
「なんだよ建国って!」
『まぁまぁ皆さん。落ち着いてください。実は、…このたび私は建国をすることにしました。』
「はぁ?冗談が過ぎるぜ!」
「早く生還記念パーティーしようぜ!全く!折角のパーティーなんだぞ!」
「そうよ!早くやめなさいよこんな冗談!」
麗香も口撃に加わる。
『皆さん。言いたいことはよく解りますが、話を聞いてください。私がこんなことを言い出したのには理由があります。皆さんは知らないと思いますが、世界は事実上…崩壊しました。』
「崩壊…だって!?」
「何を言ってるの!?」
流石の麗香も異常性を察知した。
驚愕の声が蔓延する。
コミュニティ全体がパニックになるまでにそう時間はかからなかった。
「嘘だッ!嘘だー!」
「イヤァァァァーーーー!」
「冗談に決まってんだろ!」
叫び声や怒号で阿鼻叫喚になる。
パン
そこに一発の銃声が鳴り響いた。
会場が水を打ったように静まる。
『落ち着いてください。今現在、地上は真っ新な状態です。国境もなければ、人種の違いもないのです。私の提案は建国。そう、新しい平等な世界を作り上げることです。これまで人類は、多くの過ちを重ねてきました。戦争を繰り返し、環境を破壊し。止められない負の連鎖に歯痒い思いをして人もいるでしょう。上下関係によって、嫌な人にペコペコ頭を下げていた人もいるでしょう。しかし!私が作り上げるのは、そんな世界ではありません!』
会場の人々が顔を上げる。
『私が作る国家は、少数であります!ですが、少数だからこそ、個々の意見が通りやすいのです!少数だからこそチームワークを生かせるのです!しかし哀しいかな、人は対等ではいられません!人が人である限り、互いにいがみ合い、憎しみ合い、傷付け合うでしょう!だから私は提案するのです!天皇のような絶対的指導者と、天皇が民衆を正しく導き、ときに罰するために必要な軍隊という抑止力のもとに成り立つ国家を!』
「ふざけんな!」
「そうだ!何を戯言を言っている!」
『………。』
「何とか言いやがれ!」
口々に不満や不平がぶちまけられる。
『…やはり、このような人も出ます。』
尾西がパチンと指を鳴らすと石田が出てきて、白い布をひとつだけ残して剥いでいく。
「あっあの人たちは!」
麗香が思わず叫ぶ。
それもそのはず、そこにいたのは十字架に縛られた、先日部屋で麗香と悠斗を襲い、尾西に引き取られた不良三人組だったのだ。
『反乱する人も確かに多いでしょう。だから私は、武力と絶対的な天皇による統治が必要だと思うのです。法という名の。この者たちは一人の命を奪いかけました。よって、死刑に処します。』
つまるところ、公開処刑というわけである。
「ムーッ!ムーッ!」
口に猿轡をかまされた不良たちが涙を流し、懇願する。中には失禁している者もいた。
『これが新生された我が国の“法”であり、“絶対的な統治”なのです!』
石田が89式小銃を構え、撃つ。
ダーン!
一番左の不良の頭が打ち抜かれ、脳漿の花を咲かす。
ダーン!
リーダー格の男が眉間に風穴を開けられる。
「ムーッ!ムーッ!ムーッ!」
最後に残った男も失禁しながら懇願するが、無慈悲にも贈られたのは鉛弾だった。
処刑を見ていた人々は最早口を開けないでいる。
喋ることすらできないのだ。
公開処刑の効果は十分すぎただろう。
『さて、気になっている方も多いと思いますが、この残りの白い布の中身は、皆さんがよく知る今回のメインゲスト━━━━。』
石田が白い布を掴む。
『槇原悠斗さんです!』
そして、その白い布が取り払われた………。
次回もお楽しみに!




