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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
烏合之衆
18/64

過去

宮本の過去編です。

「さて、全員起きたようだな。…悠斗、大丈夫か?」


「えぇ…なんとか。」


全然大丈夫ではなかった。悠斗は昨夜、水咲の質問攻めで徹夜をする羽目になったのである。


「よし、トレスに戻るぞ。」


「はい。」


「車両の再編成だ。一号車は悠斗と宮本。二号車は山本。三号車は私と永森で行く。異論は…ないようだな。分乗開始だ。」


「了解!」












暫くして車に乗り込んだ悠斗たちは、トレスに向けて走り出す。


「暫くドライブだな。」


「ゾンビのいない観光地に行きたいけどね。」


「ははっ。違ぇねぇ。…そういや、宮本。」


「ん?どうしたの?」


「お前、トレスに来るまで何してたんだ?」


「何?急に。」


「いや、話したくないなら話さなくてもいいけどさ。」


「僕なんかの話でよければ全然いいよ。」


「じゃあ頼む。トレスまで暇そうだからな。」


「世界が終わったあの日━━━━。」








































「よっ!宮本。」


「あっおはよう竜太。」


「いや~今日も寒ぃな。こんな日には体動かしてぇけど、体育ないし。」


「竜太は本当に運動好きだな。」


「あっやべ!授業に遅れるぜ!早く行くぞ!」


「まっ待ってよ~。」


あの日。


いつも通りに全てが進んでた。


あの時間が来るまでは。


あの時、僕は竜太と幼馴染の一之瀬の三人で屋上にいた。


まぁ、所謂サボりなんだけど、僕と一之瀬は勉強ができたから大丈夫だし、竜太も僕たちが教えてたからけっこうサボってた。


屋上で…確かあのときは、それぞれの夢について話してたんだ。


「僕は銃が好きだから、銃関係の仕事に就きたいな。」


「私は看護婦かな~。」


「俺は~…。」


「俺は?」


「皆を笑顔にできる人になるぜ!」


「ハッハッハ!」


「アハハ!」


「な、なんだよ!一度の人生やりてぇことやらねぇと損だろうが!」


「ごめんごめん。いいと思うよ。竜太っぽくって。」


「竜太っぽいってどういう意味だよ…!」


「フフフ!…こんな日がずっと続くといいね。」


「うん。そうだね。」


「まっサボりながら言う台詞でもないけどな!」


気付いてなかった。


確実にこの世界は破滅に向かってヒビを走らせていることに。


だからこんな日がずっと続くと信じてた。


だけど、崩壊は突然に、


「キャーーーーーッ!!!」


訪れた。


「何だ!」


「グラウンドから聞こえてきたぞ!」


そう言ってグラウンドの見えるところまで走った。


けど、そこにあったのはいつもの風景じゃなかった。


笑顔で走る生徒もいない。


友達と談笑してるサボり気味の生徒もいない。


そこにいたのは…。


「アぁぁぁぁァ…ウゥゥゥ…。」


人を貪るゾンビだった。


「な、なんなの?これ?」


「…頬っぺた抓っても痛くねぇから夢じゃねぇんだろうな…。」


「あれは…。ゾンビ!?」


「まさか!そんなの有りえないよ!」


「それが有りえたんだろ…!」


「くっ!」


気が付くと僕は走り出していた。


「宮本!どこに行くんだ!」


「二人とも付いてきて!ここから逃げないと!」


「大丈夫よ!きっと先生たちが何とかしてくれるわ!」


「ただの不審者ならまだしも、あんな奴らが出たときの対応なんて持ち合わせてる訳ないじゃないか!それに、この騒ぎで先生たちの何人かは鎮圧に向かったはずだよ。なのに悲鳴は止まってないんだ!これがどういう事か解るよね…。」


「…おう、異論はねぇよ。いつだって一番頭の切れたやつはお前だったからな。あいつらが出てきたら俺に任しとけ!力仕事は俺専門だからな!」


「皆、持ち物は?」


「俺はバタフライナイフぐらいかな?一之瀬は?」


「私は…ヘアスプレーと、痴漢撃退用の催涙スプレーかな。」


「僕は、特に何もないかな。ライターならあるけど。」


「じゃあ、とりあえずここに有るもん使って脱出策でも練るか。」


「武器を集めないとね。」


「…あのさ、二人とも。」


「ん?」


「階段上がってくる足音聞こえない?」


耳を澄ますと、何人かが走って上がってくる音が聞こえた。


「生きてる奴か?それともゾンビどもか?」


「…来た!」


扉が開く。


入ってきたのは、下級生の4人組。


負傷した一人を支えて上がってきたようだ。


「大丈夫か?」


竜太が声をかける。


「はい、なんとか。」


こっちが上級生と分かったのか、敬語で返してくる。


「でも、育彦が先生に噛まれて…。」


「マズイな。応急処置でもしないと。」


「あっ。私一応看護婦志望だから、応急処置くらいならできるよ。」


その育彦と呼ばれた少年を横たえると、せっせと持っていたハンカチで止血を始めた。


「さて、君たちの名前は?」


「あっはい。」


最初に状況を説明してくれた子が返事をする。


「堂島です。そんでこっちが鳥越。この子が久保さん。」


「よろしくお願いします。」


「いや、大変な目にあったんだね。」


「本当に大変でした!あいつらどこまで逃げても追ってきて…。」


「…どこまで逃げても?」


「えぇ。」


「竜太!鍵を閉めろ!急げ!」


(何でこんなことを失念してたんだ!僕は!)


しかし時すでに遅し。


ゆっくりとした足取りながらも着実に迫っていたゾンビはその無慈悲にあけられた扉から侵入してきた。


「マズイ!」


「オラァッ!」


竜太がバタフライナイフを持って、入ってきたゾンビに躍り掛かる。


そして心臓を突いた。


「よし!」


だが、そのゾンビは止まらない。


「おい!心臓刺したのに死なねぇぞ!」


「くそっ!」


そう言ってハイキックを側頭部に食い込ませると、錐揉みして飛んでいき、動かなくなった。


しかしそうしている間に、数体のゾンビが屋上に入ってきていた。


「あっ!気が付いたわ!」


一之瀬の歓声が聞こえる。


育彦と呼ばれた少年は起き上がる。が。


ガブッ


「えっ…?」


向かった先は一之瀬の首。


鮮血を滝のように噴出しながら呆気にとられた顔で一之瀬が倒れる。


「一之瀬ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


叫んだ竜太。


「う…嘘だろ。一之瀬…。」


放心状態になる宮本。


噛まれたらゾンビになる定義を知らない宮本達にとっては信じられない事態だった。


「どうなってんだよ畜生おぉぉぉぉぉぉ!」


竜太がゾンビの群れの中に飛び込み、所構わず殴りつける。


「竜太っ!落ち着け!」


竜太をどうにか群れの中から引っ張り出す。


「落ち着けだと!?一之瀬が死んだんだぞ!」


「まだ生存の可能性はある!」


その時はまだ噛まれたらゾンビになることを知らなかったのだ。


「…解った。」


「じゃあ俺は一之瀬を抱えていくから、宮本と他の奴らは足止めを頼む。」


「解った!」


「確かヘアスプレーがあったから、それとライターで…。」


ヘアスプレーは引火するため、ライターと組み合わせれば、即席の火炎放射器になるのだ。


「喰らえ!」


炎を放射してゾンビを焼く。


だが、油がないのでなかなか効果が出ない。


「くそっ!全然燃えない!」


炎の中からゾンビが体を現す。


「もう少し燃えててくれよ!」


腹にけりを入れて再び炎の海に沈める。


すると竜太がこちらに来た。


「竜太、一之瀬は大丈夫か?」


「…駄目だった。どうやら噛まれちまうとゾンビになるらしい。」


「そんな…。」


紡ぎだした言葉に覇気は無かった。


「宮本、お前はほかの生徒を連れて逃げろ!」


「でも、竜太。」


そういうと、竜太は右腕を出す。


そこには確かにあった。


あってはならない傷跡が。


「竜太!君は!」


「ハハッ…俺は馬鹿だからなぁ。愛に生きる人生ってのも悪くねぇ。」


「竜太…君は…一之瀬の事…。」


「いいから行け!」


「…さよならとは、言わないよ。」


「当たり前だぜ!ほら、とっとと行け!」


「近くのショッピングモールで会おう!」


そう言って一心不乱に走り続けた。


気が付くと、ショッピングモールに着いていた。


けどそこには一之瀬も竜太も居なかった。


「それから暫くトレスで生活して今に至るってわけさ。」


「…そうだったのか…悪かったな。」


「ううん。気にしなくていいよ。それに、僕は誰かに聞いてほしかったのかもしれない。あっ、トレスが見えてきたよ。」


トレスの入り口で人が手を振ってる。


麗香の姿もあった。


とても温かく、そして優しい空間があった。


(守らないとな…。)


悠斗は漠然とそう考えた。





ご意見、誤字脱字、意見や出してほしい武器等ありましたら、

ご一報ください。

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