笑話
今回は息抜きを兼ねたギャグ回です。
閑話。
作戦開始からまだ一日たっていない。
なのにすでに二人死んだ。
赤い生物というイレギュラーはあったのだが。
目まぐるしく訪れる人の死に悠斗達は疲弊しきっていた。
武器の回収という作戦の目的が達成されているというのが救いか。
それでも、心身ともに疲れ切った悠斗たちは、山本の提案で昼飯を兼ねて少し休憩をすることにした。
なんと、みんなの士気を高めるために、山本が手料理を披露してくれるとのこと。
こんな大盤振る舞いができるのも、食料が二人分浮いたからという事は考えない。
皆死と隣り合わせという恐怖から顔をそむけたいという気持ちもあったのだろう。
明るい話題で場を盛り上げる。
「山本さんって料理できるのかな…?」
と宮本。
「出来なかったら名乗りではしまい。きっと御馳走が出るはずだ。」
と大関。
「見た感じは無理そうだな。」
と悠斗。
それぞれが考察している内容は、主に“山本は料理ができるのか?”という事である。
山本は典型的な堅物親父みたいなもので、イメージ的には『職人』と言った方が合っている。
まさに、男子厨房に入らずであろう。
そんな人物が、はたして料理ができるのか?
まさに神のみぞ知るだ。
いい匂いがしないこともないが、時折聞こえる山本の悲鳴に全員が肩を震わす。
挙句の果てには、何かを叩きつけるような音までしてきた。
一体何をしているんだろう?
「何してるんすかね…?」
大関は一生懸命眩暈を押さえながら、
「…我々には理解できないものなのだろう。」
宮本は少し曇った笑顔で、
「…きっと、アフリカかどっか知らない国の料理なんじゃないかなっ!」
と言ったものの、汗が額に浮き出ている。
この十二月に。
余談であるが、今日月が十一月から十二月に変わったのだ。
こうして各々がとても壮絶な表情で、出てくる料理を待つ嵌めになった。
数分後。
そこには世にも奇妙な光景があった。
魔女が作ったような紫色でゴポゴポと泡の吹き出る液体。
それを囲む4人。
一人はやはりな。といった表情。
一人は諦めきった表情。
一人はどうやってフォローしようか迷っている表情。
そして周りの苦渋な顔が見えていないのか、満面の笑みを浮かべる者が一人。
「さぁ、皆!たくさん食べてくれ!」
「あの、山本さん。」
「ん?なんだ?」
「これ、その…なんていうか…見た事ない料理ですけど、なんていう料理ですか?」
「ハッハッハ!馬鹿だなぁ。味噌汁に決まってるだろう!?ガッハッハ!」
(これが味噌汁!?どう見ても魔女の混ぜてるアレだろ!これ味噌汁に見えるやつ居るか?泡出てんぞ!)
「あ~っと、山本さんは家で料理してたんですか?」
「何故か皆俺が料理しようとすると止めるんだよな。料理が趣味なのに。」
(当たり前だー!)
「…私は少し周りの見張りをしてくるよ。先に食べててくれ。」
そう言うと大関さんは立ち上がる。
だが、その手を掴むものが二人。
(逃がしませんよ!)
(私はまだ死にたくない!)
(ほら、皆でやれば怖くないって言うじゃないですか!)
(嫌だぁ!絶対に嫌だ!この任務は成功できない!)
「何してるんだ?先に食べちまうぞ。大関さんも座って座って。」
大関の退路は断たれた。
しかし、そうしている間に、全員の椀に味噌汁(?)がよそわれる。
「いただきま~す!」
「…イタダキマース。」
山本は勢いよく味噌汁をかっ込んだ。
「…………。」
「…………。」
沈黙が流れる。
「……ぅ。」
「う?」
「うまいっ!やっぱりおれ料理と車は才能あるな!ほら、お前らも食え!」
「…悠斗、行くか?」
「いやいや、宮本先食えよ。」
「こういう時は年上からでしょ。大関さんどうぞ。」
「…僕5歳。」
「ウソつけ!」
「…………。」
「…………。」
「…解った。私が先に食べよう。」
「さすが大関さんっ!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「いただきます…。」
大関が口元に椀を運ぶ。
そして口を付けて・・。
ズズッ。
「やった!」
「どうですか、大関さん!」
大関は何も喋らない。
ただその悟りを開いたような顔がすべてを物語っていた。
「さて、お前らも食べろ。」
山本に強引に勧められる。
「いただきます…。」
そしてその味噌汁を二人同時に飲んだ。
その途端、頭の中に浮かんだのは今までの思い出。
幼稚園で友達とケンカしたこと。
小学校でバカな事やったこと。
中学校で振られたこと。
そして世界が終わった日のこと。
つらいことも苦しいこともあった。
受験も大変だった。
行事も大変だったなぁ…。
って。
(走馬灯じゃねぇ…か…。)
この直後、全く一言も話さない三人と戸惑う一人という可笑しな構図が出来上がったそうな。
感想や意見待ってます。




