彼氏
今回は前話の続きと麗香の彼氏回です。
少しキャラが変わるかもです。
悠斗の体から血が迸り、力無く壁にもたれるようにして倒れる。
「いや…イヤァァァァァァァ!!!悠斗君!」
麗香が悲痛な叫びを上げる。
もう悠斗は動かない。永遠に。
その時麗香は気づいた。失って初めて気づいた。
そうだ。私は彼が好きなんだ。
自分の彼氏よりも彼に惹かれている。
昨日はいろんな感情が渦巻いていて言い表せなかった感情。
今更気づいたところでもう遅い。
「ハッハッハッハ!!!ざまぁみやがれ!この俺様に歯向かったことを地獄で後悔するんだなぁ!」
ペッと悠斗の方に唾を吐きかけると、くるりと麗香の方に向き直る。
「さて、ねぇちゃん。俺らと遊ぼうか…。」
といい麗香の腕をつかむ。何とか抜け出そうともがいたが、残りの二人に体を掴まれているので動けない。
「いや…やめて!」
男たちのゲスな笑いが高まり…。
「助けて悠斗君!」
目に涙を溜めながらすでに不良の前に倒れた悠斗を縋るように見る。
…いない。
さっきまでそこに倒れていたはずの悠斗がいないのだ。
ゴッ。
鈍い音がして不良の方を向くと、不良が引き攣った顔をしながら横に崩れ落ちた。
その不良の後ろに立っていた人物。
手に持ったバールを肩に担ぎながらニカッと笑う。
「正義の味方ただいま参上!ってな。」
そうだ。私は彼のこの笑顔が見たかったんだ━━━━━。
「お、おめぇ刺されたはずじゃ!?」
「これな~んだ?」
悠斗が見せたもの。
それは多量の赤い液体の付いた服のようなもの。
「防刃ベストを着込んでたんだよ。」
「で、でも血が出てるじゃねぇか!」
「まだ解んないのか?これは血じゃなくて絵具だよ。…さて。」
悠斗はバールを構えなおす。
「覚悟は出来てんだろうな…?」
「ひっ!」
悠斗がバールを振り返ったその時、
「そこまでです。」
と声がした。
振り向くと、そこに立っていたのは尾西。
「暴れる音がするから来てみれば…。事情を聴かせてもらえますか?」
悠斗と麗香は事の顛末を話した。
尾西は、
「なるほど。解りました。」
といい、不良を連れてどこかに行ってしまった。
「ふぅ~い。疲れどぅわぁ!」
急に麗香が抱き着いてくる。
「馬鹿ぁ…。心配したんだから!」
「悪ィ悪ィ。」
謝りながら麗香の頭をなでてやる。
暫くそうしていると、
「スゥ…。スゥ…。」
と寝息が聞こえてきた。
泣き疲れてしまったのだろう。
悠斗は、俗にいうお姫様抱っこの要領で麗香をベッドに寝かせた。
ドンドン。
急に扉をたたく音がする。
「はい?」
「…なんで悠斗がいるんだ!?」
「は?」
そう言うや否や、男が一人転がり込んできた。
よく見ると、それは大林であった。
「大林!?」
大林は麗香のところへ走っていき、麗香の名前を呼び始めた。
「麗香!麗香!」
「ちょっ落ち着けって!」
「…そうか。」
「ん?」
「君が麗香を汚したのかぁぁぁ!」
近くにあった槍を持って突き出してくる。
悠斗はすんでのところで躱す。
「何の話だ!?」
「黙れぇ!」
もう一度大林が槍を突き出そうとしたときに、麗香が目を覚ました。
「ん…?大林、君?」
「麗香!そうだ、僕だよ麗香!」
「え~っと訳が解らん。」
「僕と麗香は付き合っているんだ!」
「えぇ!」
彼氏がいるのは昨日聞いたがまさかこいつとは。
「麗香に近づくな!」
「待って大林君!悠斗君は私を守ってくれたの!」
「…ハッハッハ!!!こいつが?悪いけどそうは見えないね。」
落ち着け、俺。最近沸点低いからな。
「悠斗君を馬鹿にしたら許さないから!」
「とりあえず、麗香。僕の部屋に来よう。こんなやつのところにいる義理はない。」
「…てめぇ。」
もう怒った。沸点なんざ知るか。
「いい加減にしろよ!確かにお前よりも駄目かもしれねぇがなぁ!それは今までの世界の話だ!これからは生きる術を持った者が上なんだ!お前はここに来るまで何してたんだよ!」
「避難所にいたさ。でもその避難所も感染が広がって…。だが、一度たりとも麗香のことを忘れたりはしなかったさ!」
「だったら何で探しに行かない!」
「無理だったんだ!武器もないのに行けるわけがなかった!」
「無理とか言ってる時点で恋愛じゃねぇ!無理を吹っ飛ばすのが恋愛だろうが!好きな女のために命張るのが男だろうが!今のお前はなんだ!助けに行こうともせずに、ただ忘れないだけで十分だと決めつけて!居たと分かったら返して貰っておさらばってか?ふざけんのも大概にしろ!お前はおもちゃを取られて返して欲しいってダダ捏ねる子どもと同じなんだよ!」
「グッ…。だが麗香は頂いていく!麗香、行こう!」
「…ャ。」
「え?」
「イヤって言ったの!あなたなんて彼氏でも何でもない!出てって!」
暫く問答をした後、大林は抜け殻のようになって部屋を出て行った。
廃人にならなければいいが。
「ごめんね悠斗君。迷惑かけて。」
「気にすんな。麗香のせいじゃないさ。」
「悠斗君って強いんだね…。私なんかよりずっと。」
「いや、俺なんか寧ろ臆病さ。」
「でも、悠斗君は私を守ってくれるよ?」
小首をかしげるその動きが可愛い。
「いや…。きっと俺は臆病だから。臆病だからこそ何かを失うのが怖くて必死になってるだけさ。」
「悠斗君…。」
麗香が顔を近づける。
悠斗はそれを拒まずに口づけを交わす。
「私、あの時腰を抜かしてよかった。逃げ出さなくてよかった。悠斗君に会えたから。」
「麗香…。」
そしてもう一度唇を、重ねた。
台詞を読み返すと顔から火が出そうになりますが、若気の至りというやつです。
では次回で。感想待ってます。




